83話「王都へ1」
王都への出発は1週間後と決まった。
それまでにできるだけの準備を整えなければ。
まずは武装。
流血の事態に発展する可能性はある、と思ったほうがいいだろう。
それも、かなりの高確率で。
王都にはレベッカとかナサニエルとかディ・ソラリとか、魔物よりよっぽど魔物みたいな連中がうろついているんだから、わたしも今度はガチで行く。
たとえ相手が人間だとしても。
ベスを救うために流される血は、正義の流血なのだ。
再びペイントアーティストになることも辞さない。
その覚悟で、全力で武装するつもりだ。
といっても、討伐大会の期間にもう自分用の武具も開発済みなので、時間はかからない。
メインウェポンも防具も現状で製造可能な最高ランクの装備で固めた。
そして今回の目玉商品。
サブウェポンの特別なクロスボウ。
このクロスボウは、開発の試行錯誤中に偶然うまれた産物だ。
偶然という意味ではアイスソードと似ているんだけど、弓の心得がないわたしでも当てられる逸品だ。
前にウサギから「全武具装備」のアビリティのおかげで飛び道具も扱えると教えてもらったけど、試してみたらやっぱりダメだった。
静物の的当てでは100%的中できたけど、動いているものにぜんぜん当てられなかったのだ。
どうやら偏差射撃の才能が壊滅的に無いらしい。
扱える、といっても最低限の技術レベルのエイムアシストしかもらえず、高度な技術を必要とするようなことは結局個人の技量に影響されるようだ。
その点、このクロスボウは、ある特殊効果のおかげで百発百中。
名づけるなら『ホーミングボウ』?
うーん、特殊効果がモロバレの名前だ。
いま考えると、冷気属性の両手剣にバカ正直に『アイスソード』と名付けたのも失敗だったかもしれない。
もし、トーナメントみたいにあらかじめ対戦組み合わせがわかっている戦いがあったら、耐性対策をとられてしまいかねない。
『ファイアブレード』とか大嘘つけとくんだったな……。
というわけで命名は『テルズボウ』とする。
元ネタの人物をこの世界の住人は知らないから特殊能力がバレることはないだろう。
状態異常と属性の矢も用意した。
必中の弓に、状態異常。
これにてハメの準備が完成!
―――
それから便利アイテムの準備。
グネヴィアに会って各種薬剤をもらい、カイシンからヒールポーションを供出させた。
森の中はさすがにもう危険すぎるので、いい加減グネヴィアには街の中に移って欲しかったんだけど、やんわりと断られた。
なぜか、グネヴィアの家の周囲には、いまだに魔物が現れないのだ。
魔よけが効いてるみたいだけど、なんで?
「魔物は、魔の物、だから?」
うん、ぜんぜんわかんねーよ。
酢の物みたいなこと言われても……。
詳しいことを聞きだしたかったけど、今回は辛抱強く翻訳している時間がない。
天才のグネヴィアが安全だと言うなら安全なのだろうから、しぶしぶ引き下がった。
薬剤や素材、調合や実験のための器具類をまとめて運び入れられて、しかも研究スペースも確保できる大きな家がミルトン市内に余ってるから、そこに移ってもらおうと思っていたので残念だ。
まあ、アミリアヌスが使ってた邸宅なんだけど……。
そして、注射を用意した。
これは実験的な試みだ。
グネヴィアの「状態異常解除薬」にしても、カイシンの「ヒールポーション」にしても、効果はすごいんだけどすべて飲み薬だ。
それがずっと気にかかっていた。
だって、瀕死の人が飲み薬を飲んで助かるシーンなんて、医療ドラマ愛好家だったこのわたしが見たことないし。
飲み薬というのは、まだ元気な人が服用するためのものであって、緊急時に使うものじゃない。
瀕死の人は意識がなかったり、動けなかったりで、薬を飲む元気なんかない。
だから注射、というわけ。
ワグネリア工房の優秀な職人たちと協力して、針を開発しようとしたが、これは難航した。
ただ細い金属の針を作るだけならかんたんだったけど、内部に液体を通す空間を作るとなると加工の難易度が一気に跳ね上がった。
ある程度の強度がありつつ、液体を通す空間をもつ筒状の針。
こんな矛盾する無理難題に、職人たちは見事こたえてくれたのだ。
まあ、現代の基準で考えると引くくらい太い針になってしまったけど……。
ごん太だ。
子どもが見たら泣きわめいて逃げだすこと必至である。
ちなみに試してみたらめちゃくちゃ痛くてわたしも泣いた。
これで注射を用意できた。
これを使うときは患者が薬も飲めないほど重体ということだから、できれば、使わずに済めばいいんだけど……。
―――
最後に、後に残していく仕事の手配をした。
状態異常武具や属性武具の生産は、ワグネリア工房に引き継いでもらうことにした。
一般鍛冶職人だと量産ペースは遅くなってしまうけど、大会期間中に冒険者や街の守備兵のほとんどが入手済みなので、そこまで数は必要ない。
わたしがいないことで開発や研究がストップしてしまうことのほうが痛かった。
なので、これはワグネリア親方と魔術学院の有識者にお任せすることにした。
わたしがいたとしても、どのみち新しい素材が手に入らない限り大きく進展はないのだから、そこまでの影響はない。
……と思いたい。
冒険者たちの細かいオーダーに応えられないけど、これはあきらめるしかない。
できるだけ早く王都から戻ってこれるようにお祈りするだけだ。
それから傭兵も50人ほど雇った。
街や周辺地域を守るにはぜんぜん足りないけど、交易ルートの安全を確保してもらうためだ。
今のミルトンは物流が止まったら死ぬ。
これはわたしが私費で雇い、強い武具も無料で貸与した。
いやー稼いでおいてよかったなー。
けど、またすっからかんになる日も近いな……。
そんなこんなであっという間に1週間が過ぎた。




