82話「幹部会議3」
「イクゾー、ってなに寝ぼけてんの。1人で行かせるわけないじゃん」
リュドミラが水をぶっかけてきた。
いや、精神的にね。
「なんだよ、やる気になってたのに……」
「クロちゃん、増援の催促を誰にすればいいか、わかってんの?」
「そりゃ王女――」
でしょ、と即答しかけて、やめた。
この雰囲気はきっとクイズの時間だ。
ということは、いかにもな答えの「王女」は不正解に違いない。
王国の軍隊を貸してくれって話なんだから、ふつうに考えたら……。
「王様っ!」
「ちっ、正解しちゃうのかよー」
「しかし、王陛下は昨年より床に臥せっておられる。もう政務は執られていない。現在は宰相が実権を握っていると聞く」
すかさず横からデンゼマが口を挟んできた。
「なら、王女に会って、宰相に頼むようにお願いする。それがわたしの役目ってことだね?」
「宰相と王女は犬猿の仲という噂だから、それは難しいだろう」
「え、詰みじゃないですか。わたしの出番ないですよね?」
幸か不幸か、わたしは王女に会える。
だけど、王女に会っても増援は頼めない。
このルートは終わってると思う。
他のルートに行ったほうが現実的だと思う。
「もう王国はあきらめて、パパっと傭兵とか雇っちゃえばいいんじゃないですか?」
「そんなカネがどこにあるんだよ!?」
「ちょっとなら、わたし出せますけど……」
「足りねえよ」
一蹴。
ワグネリアにもダメだしされた。
これはあれだ。
不公平だ。
わたしだけ持ち合わせている情報があまりにも少なすぎる。
というわけで、状況の整理をお願いした。
―――
現在王国の実権を握っているのは、宰相オグシノヴァ。
宰相は王の長男にして王太子のウェズレイと仲がいい。
この2人は穏健派で、政治的にも目立った活動はなく、軍の派遣にはなにかと消極的。
王都から出ることもなく、ほとんどの時間を王宮で過ごすという。
後援者は、同じく穏健派の大貴族たち。
対する王女ユーリアは、まだ十代ながら武断派で知られる。
軍備増強を声高に叫び、今年初め、王国魔術兵団の創設に関わるなど精力的に活動している。
魔術を軽視しがちな貴族階級にあって、魔術への援助を惜しまない柔軟さを持ち合わせる。
フットワークが軽く、国内外を問わず、飛び回って積極外交に余念がない。
政争にも積極的で黒い噂が絶えない。
主な後援者は、先王である祖父。
この祖父は武帝として知られ、若いときは積極的な対外遠征を繰り返し、王国領土を拡げた。
しかし、後ろ盾だったその祖父を3年前に失い、後援者の貴族たちも大勢力とは言えない。
とくに、懇意にしていた遠縁の伯爵一党が近ごろ叛乱者として粛清されたため、勢力の衰えが顕著である。
第3の勢力は平民出身者の軍人と外国出身の貴族たち。
武帝の遠征で征服された亡国の貴族たちはカルバニア王国貴族として迎えられたのだが、外様貴族が権力の中枢に食いこめるわけもなく、冷や飯を食わされている。
勢力としてはまとまりもなく、弱小と言える。
平民出身のディ・ソラリ将軍もここに属する。
穏健的な宰相派と武断的な王女派、そして第3勢力の中立派。
勢力評価としては、実権を握る宰相派を大とするなら、王女派が中、中立派が小。
これが王都のおおまかな勢力図である。
―――
「これで君も王都マスター! クロちゃん理解できたぁ?」
「や、ぜんぜん」
武帝、なんて世界史でしか聞いたことのないワードが出てきたのはおもしろかった。
けど、聞く先から抜け落ちていったので、頭に残ったのはわずかな事柄だけだった。
とくに……。
「気になったんだけど、その叛乱を起こした伯爵って……」
「もち、アミリアヌスだよ」
「おやまあ……」
身近な人物おったかー。
不思議なもので、王宮の勢力図などという縁遠い世界の話に、実際にナマで会ったことのある人物が出てくると妙に親近感がわく。
しかし、あんなのが有力な後見人だったとは、王女の勢力も意外と大したことないな。
というか、身内から叛乱者を出して粛清を食らったとなったら、もう風前の灯火?
なんだよ、ムダに大物感アピールして脅かしやがって。
ものすごい大物に睨まれたのかとビビッて損した。
ん?
アミリアヌスが王女の有力な後援者で遠縁の親戚だった?
それはまずいのでは?
「アミリアヌスと仲良しだったんなら、王女はわたしたちを恨んでるのでは? お願いを聞いてくれる見込みは薄いのでは?」
「そだねー」
リュドミラの気のない返事。
「しかも、実権は宰相が握ってるんでしょ? だったら、なおさら見込み薄では?」
むしろ、宰相派にゴマをすったほうが可能性がありそうだ。
宰相派から見たら、こっちは邪魔なアミリアヌスを始末してくれたわけだし、味方とは言わないまでも心証はいいはず。
だけど、ツテもないのに平民ごときが取り入ろうとしても、そもそも会ってもらえないだろう。
あ、クソ!
リュドミラが余計なことをしなければ、王女の手紙が使えたかもしれないのに。
内容はただの招待状だったけど、それはこの際関係ない。
未開封品なら手土産として持っていけば、宰相派の誰かに会ってもらうことくらいはできたかもしれないのに……。
どこの世界でも未開封品じゃないと転売でいい値はつかないんだよなぁ。
なんにしても王女ルートに成功への道はなさそう。
「だからこそ気になるじゃん?」
「え?」
「王女の勢力は劣勢。そして、クロちゃんは王女にとって敵に等しい。なのに、会いたがってる。これって、王女がクロちゃんにかなりの利用価値を認めてるってことっしょ? 気になるじゃん」
「まあ、そういう考え方もあるか……」
意外となにも考えてないかも。
政争に負けそうでヤケクソになり、使えそうなものに片っ端から粉をかけてるだけとか。
もし王女がヤケクソなら、近づくのはめちゃくちゃ危険では?
ヤケクソで自爆したアミリアヌスと血がつながっているなら、王女もヤケクソ遺伝子保有者の可能性もあるし。
「それにさあ、フォーリア家はバリバリの宰相派。てか、重鎮なんだよねえ」
「フォーリア家って、ベスの?」
「そ。この状況ってかなりおもしろいワケよ」
と、リュドミラはずいっとテーブルに身を乗り出す。
「宰相派のフォーリア家令嬢を、中立派のディ・ソラリ将軍がなぜか連れ去る。王女派のボスがその令嬢をダシに利用したがっているのは、憎き仇。支離滅裂っしょ?」
「たしかにね。さっきがんばって覚えた情報が無意味だった気がしてくるよ」
「そのぐっちゃぐちゃになってるところに突破口があるかもしれないし、ないかもしれない。ただ……」
「行ってみないとわからない、と」
「そう」
まあ、なんにしてももう王都に行くつもりではあったけど。
ベスに会うために。
とにかく、ベスに会うことだ。
ベスに会って状況を確かめる。
そのために、まず王女に会う。
援軍だなんだって話を考えるのはその後だ。
話し合いの結果、王都行きの人選が決まった。
カイシンはヒールポーションを量産する役目があるからミルトンを離れるのは得策じゃないし、意外にもあれで優秀な治癒術師だから、戦場にこそ必要な人材。
ワグネリアが離れたらミルトンは経済的に即死しかねないので除外。
デンゼマは冒険者ギルドの人間なので、そもそも本来は部外者。除外。
ということで、わたしとリュドミラが王都へ行くことになった。
護衛はエリンたち。
わたしはちょっとためらった。
危険かもしれないし、なにより、エリンには政治向きのお仕事はちょっと……。
だけど。
「絶対いくからね! ベスのために!」
とエリン本人が強烈に行きたがった。
ベスのために、という思いが一緒なら、断る理由はない。
3章おわり!
おつかれさまです!




