79話「大会総括」
1か月にも及んだ討伐大会は王都組の『あの雲の彼方へ』優勝で幕を閉じた。
部外者の目線で見ていても、イベントとしてかなり盛り上がっていたように思える。
盛り上がったのに、閉会式はなかった。
表彰式の類もなく、大会報酬をパパっと清算して、終わり。
閉幕と同時に冒険者ギルドは平常運行に戻ったわけである。
もうなんの利益も生みださず、あとは畳むだけのイベントの閉会式に金と手間をかけるなんてバカのやること、ということらしい。
どこまでも実務的なデンゼマらしい淡泊さだ。
やらしい話ですが、我がスズキ工房の売り上げは見たこともない金額を叩きだした。
つまり、わたしとしても大成功だ!
いや、お金の話じゃなくて。
ほんとにお金の話じゃなくて。
じゃあ、わたしにとってなにが成功なのか?
状態異常武具を買ってくれた遠征組の冒険者たちが地元に戻れば、きっとその目新しさが注目を集める。
これできっと、王国各地に「耐性」という概念が広まる。
各地の鍛冶師たちも耐性防具を作り始めるだろうし、彼らが独自で研究開発を進めてくれれば、わたしには発想できないような高性能の武具も生まれるだろう。
そうやって王国全土で武具の改良が進めば、来たる「夜会」の勝率がぐっとアップするかもしれない。
これがわたしにとっての成功だ。
決してお金を儲けたことなんかじゃない。
まあ、金貨風呂には入ったけど。
そりゃ入っちゃうよ……。
あんなキラキラした黄金に囲まれて、目の色変えるなっていうほうが非人道的ってもの。
素っ裸で大笑いしながら金貨をじゃぶじゃぶしてるところをエリンに目撃されたのはかなり気まずかった。
でも、なにも言わずにそっと立ち去ってくれたので、心情を察してくれたと思う。
エリンといえば……。
エリンたちも一時は惜しいところまで行ったみたいだけど、最後は『あの雲』に見せ場をかっさらわれて2位でフィニッシュ。
まあ、話を聞けば命を助けてもらったというし、妥当な結果なんじゃないかね。
むしろ、Dランカーの身分で遠征組を含む猛者たち相手にあそこまで張り合ったことを誇りに思うべきだろう。
並み居る強豪を押しのけての2位。
ミルトンの地元勢としては堂々の1位。
活動開始から1年にも満たないパーティとしては大健闘でしょう。
当然、エリンたち『ミルトン初心者の会!』は月ごとに検討される冒険者ランク昇格の審議にかけられることとなった。
―――
議論は紛糾したらしい。
脅威度B『火食い蜥蜴(複数)』討伐を含む数々の大物狩りを評価する声もあれば、むしろその無謀さを指摘する反対意見もあったという。
敵と自分、彼我の実力差を見定める経験値がない、と。
ごもっともで。
ちなみにデンゼマはけっこう推してくれたらしい。
なんでだろう?
結局、昇格の可否をわけたのは、最後のゴブリン討伐戦の内容だった。
まず初遭遇時にシャーマンを2匹も逃がすという凡ミス。
さらに、索敵や状況確認を怠ったせいでそのシャーマンに不意打ちを食らう凡ミス。
この2つの凡ミスが大きく評価された。
もちろん、悪い方に。
群れを相手にするゴブリン退治では、単純な戦闘能力よりも、索敵や状況確認の能力が問われる。
運よく『あの雲』に助けられたから事なきを得たものの、実質的には全滅していた。
運が悪ければ、わたしはエリンたちのお葬式を上げることになり、3人の嫁を失った未亡人になっていたかもしれないのだ。
そう考えるとナサニエルさんには頭が上がらない。
うちの工房に来ることがあったらサービスしておこう。
結局『ミルトン初心者の会!』は、Dランク据え置きになった。
ただ、それでは他のメンバーがかわいそうだ、という意見が多かったらしく、テルマとルイーズは個人としてCランクへの昇格が認められた。
でもエリンはDのまま。
リーダーがDランクなんだから、パーティもDランク。
てっきりエリンは落胆するか怒るかするかと思ったけど、どちらでもなかった。
「しょうがないよねー。混乱を食らっちゃったし」
と、あっさりした反応だった。
混乱の件についてはわたしにも責任があるから、申し訳なく思っている。
エリンが混乱した原因は、アイスソードを装備していたせいだ。
武器が状態異常にどんな関係があるのか? といえば、大ありなのだ。
というのも、アイスソードはクレイモアをベースにしている。
つまり両手剣である。
わたしはエリンの盾に「混乱耐性」と「睡眠耐性」の特殊効果をつけていたのだが、当然、盾と両手剣を同時には装備できない。
だからだ。
―――
わたしはこの1か月、新しい武具の開発に専念していた。
決して金貨風呂で成金遊びをして笑い転げていただけではない。
なにしろ人が大量に流入するものだから、情報や素材も大量に入ってくる。
討伐された魔物素材も毎日のように入ってくるから、新武具開発にはうってつけの環境だったのだ。
じゃぶじゃぶ稼いだ金で片っぱしからレア素材を買い付けて、手あたり次第『精錬』していった。
そうやって試行錯誤して強い新武具をいくつか開発できたわけだけど、その中にアイスソードがあった。
ベース素材は永氷花。
そこにいくつかのレア素材を投入して完成したのが、アイスソードだったわけだ。
アイスソードの武器ランクはなんとB!
ちなみに、武器データはこうなる。
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・アイスソード : 攻撃力1200(Bランク)
(冷気属性)(力上昇)(貫通)
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強い……!
ただ、「貫通」という特殊効果はよくわからなかった。
いろいろ試してみたけど、敵の防御力を無視するわけでもなく、攻撃対象の後ろの敵にもヒットする、なんてこともなかった。
よくわからなかったものの、使い手に不利益はなさそうなので無視することにした。
しかし、無視できない問題もあった。
「Bランクの武器なんて誰が装備できるの?」
って話だ。
せっかく強い武器ができたけど、扱える人がいないんじゃ意味がない。
残念だけど、某『ドラゴンころし』よろしく棚にでも飾っておこうと思った。
ところが。
なんの気なしに手に取ったエリンが振ってしまったのだ。
「そいつを振りやがったか……!」
なんてゾクゾクきてしまい、ついノリで進呈してしまった。
後で『鑑定』してみたらエリンは剣に限ってBランクまで装備できるようになっていたことがわかった。
防具や他の武器はあいかわらずDランクまでだったけど。
バランスが悪いのはエリンらしいといえばエリンらしい。
あのエリンが腕前を上げるために特別な努力をしていたとも思えないから、きっと討伐大会で立て続けに激戦を経験したおかげで自然とレベルアップしたんだろう。
案の定、テルマとルイーズもレベルアップしていたようで、Cランクまで装備できるようになっていたし。
2人にも店に来たタイミングで武具を更新してもらった。
とまあ、わたしはアイスソードの強さに酔いしれ、それをエリンが扱えることにすっかり浮かれてしまい、盾につけた状態異常耐性のことを忘れていた。
アイスソードを手にしてからのエリンは脳筋突撃傾向が増えたらしいけど、やっぱり強さに酔いしれていたんだろうなぁ。
無謀なまでの格上討伐への挑戦も、その影響がなかったといえば噓になるだろう。
それとも、そんな効果をつけた覚えはないけど、知能が下がる隠し効果があるとか?
まさかね……。
そんな武器があるわけない。
というのが、エリンご乱心までの顛末である。
まったく。
武器の威力に溺れて耐性を疎かにするなんて、ド素人もいいとこじゃないか。
いつも防御性能を重視しろとかなんとか偉そうに言ってるくせに、情けない……。
これは個人的にも反省するべきポイントだった。
―――
さて。
優勝者が『あの雲』だったことについては、いろいろな感想が飛び交った。
「ザコ狩り部隊が優勝なんて、なんてまあ冴えない結果ね」
「大物から逃げてセコセコポイント稼ぎしてた連中を優勝させるたあ、ギルドも落ちたもんだな」
「ゴブリンスレイヤーのせいで破産した。絶対に許さねえ!」
などなどと、やっかみ半分の中傷があったのも事実である。
一部、逆恨みとしか思えない意見が混じっているが。
だけど、大会後、冒険者ギルドが上位パーティの討伐内容を正式発表すると、悪口はピタリと止まった。
『あの雲』の討伐内容があまりにも凄まじかったからだ。
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大会開催30日間における『あの雲』の討伐内容
・ゴブリンソルジャ404匹
・ホブゴブリン24匹
・ゴブリンシャーマン13匹
・ゴブリンロード8匹
・その他Cランク魔物4体
・その他EDランク魔物28体
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1日平均15匹以上の魔物討伐など、少なくともミルトンでは前代未聞である。
しかも『あの雲』はCランク以上の大物を避けていたわけではなかった。
あまりにもゴブリンを大量に狩りすぎていたため、それが目立ちすぎて他の討伐が埋もれていただけだったのだ。
この凄まじい戦果は手ばなしの賞賛に値する一方、事態の深刻さを示唆してもいた。
魔物が、多すぎる。




