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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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78話「討伐大会11」

 ゴブリンロードは人間が両手で扱う錆びた大剣を、片手に軽々とぶら下げている。

 あれも、人間から奪ったものだろう。



「エリンちゃん、援護を!」



 と、ルイーズは声をかけた。

 だが、エリンの反応が返ってこない。



「エリンちゃん……?」



 エリンは俯いて、ゆらゆらと頭を揺らしている。

 かと思えばいきなり虚空に剣で斬りつけた。


 様子がおかしいなんてものじゃない。

 あれは、混乱だ。


 嘲笑するような声が少し遠くで聞こえた。

 新たに出現したロードの横に隠れるように、もう1匹のシャーマンが得意げに顔を歪ませている。


 あいつが魔術で混乱を!


 エリンがやたらめったら剣を振り回し、木が何本か斬られた。

 あれでは近づく者はなんでも斬るだろう。


 テルマはすぐには動けそうにないし、エリンは混乱状態。

 戦えるのは自分だけ。


 敵はロード、シャーマン、無傷のホブ2匹。


 その事実がルイーズを戦慄させた。



「ど、どうすれば……」



 エリンの混乱を解くべきだろうか?

 いや、これ以上魔術を使わせないように、まずシャーマンをやるべき。


 そう思って杖を持ち上げたが、倒れているテルマにホブ2匹が殺到するのが見えた。


 あっちが先だ!


 『風裂』は使えない、テルマを巻き込んでしまう。

 しかし、ピンポイントの魔術攻撃では2匹を同時に攻撃できない。


 また汚い笑い声が聞こえた。

 声の主のシャーマンを見ると、杖の先をこちらに向けていた。


 こっちを狙ってる……!


 自分か、テルマか。

 今ならシャーマンよりも先に攻撃してあいつを倒せる。

 それに比べて、ホブ2匹を同時に制圧するのは難しい。


 テルマか、自分か。

 ルイーズが迷ったのは1秒にも満たない短い時間だった。


 ホブ2匹を同時には倒せない。

 その事実を覆すことはできない。


 決断を下したルイーズは、杖の先を向けて魔術を発動した。




 テルマに向けて。




 『風裂』が生みだした猛烈な突風がテルマに向かって走る。


 ルイーズは信じた。

 風のダメージそのものは、防具で防ぐことができるというヨシノの言葉を。


 ロードは大剣を持っているから、テルマはきっとあれでなぎ払われたのだろう。

 その衝撃で吹っ飛ばされた。

 それでも刀傷を負った様子はない。


 防具が致命的な傷を防いでくれたのだ。


 もう1度だけ耐えて!


 と、ルイーズは祈るような気持ちで結果を見守る。


 テルマの体が風圧で吹っ飛ばされ、ホブたちのこん棒が空振りした。

 だが、防具をつけているテルマと違い、ホブたちは無防備な半裸である。


 テルマを吹き飛ばした突風は、ホブたちのむき出しの腕をズタズタに切り裂いていた。

 他者を傷つける武器ばかり奪い、身を守る防具をおろそかにしたツケを連中は払ったのだ。


 まだ……!


 ルイーズは即座に魔力を練りなおして、魔術抵抗を高めようとした。

 しかし、間に合わなかった。

 『風裂』を放った直後で、魔力的空白状態だったからだ。


 強い衝撃。

 体が空中に投げ出される。

 『風裂』を食らったらしい。


 くるくる回転する視界のなかで、シャーマンが下卑た笑みを浮かべるのが、かすかに見えた。

 勝利を確信した笑み。


 悔しさと怒りのあまり、ルイーズは痛みを感じなかった。

 ゴブリンに負けた女がそのあとどうなるか、気にもならなかった。


 めちゃくちゃに凌辱されてボロ雑巾みたいになって殺される恐怖よりも、今すぐあの顔を叩き潰してやりたいという思いのほうが強かった。


 すると突然。

 シャーマンのニヤケ面が破裂した。

 遅れて響く矢の音。


 薄れゆく意識のなかで、弓を構えたテルマが見えた。

 矢を放った姿勢から、ずるりと倒れこんでいく姿も。


 あれは最後の力を振り絞った一矢だったのだろう。

 ロードの重い一撃を食らい、突風を食らい、満身創痍のはずなのに、シャーマンを仕留めた。


 ルイーズは言葉にできない感情をテルマに抱いた。


 だけど、まだ、ロードが残ってる。

 あれが残ってるかぎり、全滅は避けられない。



「あいつを、殺さないと、みんなが……」



 ルイーズは完全に意識を失った。




―――




 目が覚めると、薄暗かった。

 洞窟の中に捕まっちゃったのか、と一瞬ルイーズは思ったけど、すぐに違うとわかった。


 森の中だ。

 湿った土の上に寝ていたらしい。


 松明の灯り。

 うっすらと照らされた周囲に、何人か人影が見える。

 冒険者たちだ。


 その中の1人が膝をついて、顔を覗きこんでくる。



「目が覚めたかい?」


「は、はい」


「傷はボクの仲間が癒したけど、だいぶ血を失ったようだ。動かないで」



 見たことがある男性だ。

 サラサラの髪をなびかせた美男子。


 『あの雲の彼方へ』のリーダー、ナサニエルだった。



「っ! みんなは!?」



 ルイーズは、がばっと身を起こしてキョロキョロした。

 すぐ隣にテルマが寝かされている。

 胸が規則正しく上下しているから、眠っているだけのようだ。


 少し離れた地面で、エリンがぐでっと芋虫みたいに突っ伏していた。



「あの子に近づくのは危なすぎたんでね、魔術で眠ってもらったよ」



 とナサニエルが苦笑した。


 たしかに混乱して暴れるエリンに近づくのは得策ではなかっただろう、とルイーズも苦笑いする。



「ロードは、ゴブリンロードはどうなったんです?」


「倒したよ」



 ナサニエルが目線を向けた先に、ロードの真っ二つになった巨体があり、その近くには両断された大剣が落ちている。


 大剣のガードごと、一刀のもとに切り捨てたらしい。

 かなりの剣技がなければできる芸当ではない。


 ルイーズはようやく安心した。



「あのぅ、ありがとうございました。助かりました」


「気にしなくていいよ。人を助けるのが冒険者の仕事、そうだろう?」



 ナサニエルがそう言って、ルイーズはこくりとうなずいた。




―――




 大会24日目の顛末。


 ゴブリンの群れは2つあった。


 1つはエリンたちが洞窟で発見した10匹程度の小規模な群れ。

 内訳はシャーマン1匹とソルジャ10匹ほど。


 一方、ナサニエルたちが見つけたのは50匹以上の本格的な群れだった。

 ロード2匹、ホブ5匹、シャーマン1匹、そしてソルジャが50匹以上。


 つまり、エリンたちの群れは別動隊で、ナサニエルたちの群れが本隊だったのだ。


 森で本隊の痕跡を見つけたナサニエルたちは追跡を開始。

 やがて本隊を発見し、掃討に移る。


 追いつめられたロードたちはソルジャを身代わりにして逃走し、別動隊と合流しようとした、というわけだ。




 ミルトンへ帰る道中。

 ルイーズは失礼を承知で、なぜ小物ばかりを選んで討伐するのか、と質問してみた。


 ロードをあんなにあっさり屠れる腕前があるのに、「ザコ狩り」などと揶揄される行為を繰り返しているのか不思議だったからだ。


 しかし、ナサニエルの答えを聞いて、そんな質問をしたことが恥ずかしくなった。




「ボクたちは村人を困らせている魔物を倒してるだけだよ」




 ルイーズは、理想の冒険者の姿をナサニエルの中に見た気がした。




―――




 大会25日目終了時点順位。



---

 1位:『あの雲の彼方へ』


 2位:『ミルトン初心者の会!』

---



 共同戦線を張らずに別々に討伐していた2パーティが途中で合流、という珍しいケース。


 こういう場合は討伐数を細かくカウントするか、事後に共同戦線ということにして成果を分け合うか、どちらかだ。


 前者の場合、面倒だし、なにより「やったやらない」の揉めごとに発展しやすい。

 冒険者ギルドとしても波風が立ちにくい後者をおすすめすることが多い。


 しかし、今回は『ミルしょ』のリーダーが頑として、成果の分け合いを拒否した。


 助けられたのに分け合いなんかできるか、という主張である。


 両パーティメンバーによる必死の説得にもまるで応じず主張を曲げなかったため、ゴブリンの大群の討伐成果はすべて『あの雲の彼方へ』に入ることになった。


 その結果、1位の『あの雲』が2位以下を大きく引き離した。

 そして、その後も順位が変動することはなく、30日に及ぶ討伐大会は終了した。




 なお、堅実なことで有名な賭け屋はひっそりと破産した。



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