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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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75話「討伐大会8」


 優勝候補『地を這う獣』の突然の離脱。

 それは、ミルトンに衝撃を与えた。


 ハウケモの緊急離脱は人々からいくつかの反応を引き出すことになった。


 天を仰いで嘆いたのは、ハウケモの優勝に賭けていた人々だ。


 鉄板レベルで勝率が高いガチガチの勝負だったはずが、すべてパーである。


 一番人気のハウケモのオッズは低かったため、ある程度稼ごうと思えばそれなりの金額を賭けなければならなかった。

 そのため、大勝負に出た者は破産の憂き目をみた。


 一番人気に全財産を賭けるやつはギャンブルド下手、という教訓がみんなの胸に深く刻み込まれた。




 嘆いたのはヘタクソギャンブラーだけではない。


 冒険者ギルドにとってもこれは手痛い打撃だった。


 有名パーティの途中離脱によって大会の盛り上がりに水を差される形になったし、実力者が減るのは単純に街の戦力ダウンを意味するからだ。


 そもそも討伐大会開催の目的が「できるだけ多くの冒険者をミルトンに集める」というものだった以上、ハウケモ離脱はマイナスの影響しかない。




 一方、喜んだのは他の冒険者パーティである。


 とくに、大会順位で上位を走るランカーたちは手を叩いて喜んだ。


 強力なライバルが勝手にこけてくれたことで、自らの優勝の目が出てきたのだから、これは当然の反応といえよう。


 また、現時点では「優勝など夢のまた夢」だった低順位の冒険者たちにも奮起を促すことになった。


 なにしろ自分たちの順位が自動的に1つ繰り上がったのだから、「もう1つ上を」という欲が生まれるのも必然であった。


 やる気ドーピングによって冒険者が全体的にがんばった結果、冒険者ギルドが恐れたような急激な討伐成績の低下が防がれることになったのは不幸中の幸いである。




 大会10日目終了時点のパーティランキングは以下のようになる。



---

 1位 :『あの雲の彼方へ』

 2位 :『ベナンズ』

 3位 :『地を這う獣』(リタイア)

 4位 :『パワーイズマッスル』

 5位 :『ミルトン初心者の会!』

---



 『あの雲の彼方へ』などという流行りの歌みたいな名前のパーティは、王都からの遠征組であり、冒険者ランクはB。


 ハウケモに次ぐ優勝候補として大会前から名前が挙がっていた。


 リーダーのナサニエルはどこぞの貴族出身という噂もある、王都でも有名な美男子だ。


 このパーティは、脅威度の高い強敵を狩るよりも、Dランク以下の魔物を数多く討伐することでポイントを稼いでいる。

 そのため、ザコ狩りなどと揶揄する声も生まれている。




 2位につけた『ベナンズ』は、Cランクのパーティで、やはり王都からの遠征組。


 リーダーはベナン。

 まるで自己顕示欲の旺盛なリーダーが率いるロックバンドみたいな名前だが、実際にベナンのワンマンパーティとして知られている。


 リタイアした『地を這う獣』を含めて3位までもが王都からの遠征組で占められており、地元ミルトンの冒険者たちには苦い途中結果となってしまっている。




 4位の『パワーイズマッスル』は、地元ミルトンのトリオで、ランクはC。


 戦士ばかりで構成された3人パーティであり、全員が巨人族を祖先に持つと噂されるほど屈強な肉体の持ち主だ。

 怪力無双を誇るその破壊力は大会屈指と呼び声が高い。




 そして5位には地元ミルトンから『ミルトン初心者の会!』。


 Dランクの若手パーティが、並み居るCランクのパーティを押しのけての堂々ランクイン。


 大会開幕当初はランク外をうろうろしていたが、格上の大物を立てつづけに討伐することによって大きくジャンプアップし、現在の順位へ。


 その迂闊にもほどがあるネーミングセンスから、冒険者としての先見性の欠如を指摘する声も一部から上がっている。

 あと「!」を名前にいれるのはバカっぽいという声もある。


 だが、戦闘がメインの討伐大会では冒険者としての総合力は試されない。



「強ければそれでいい」



 というのは、頭を使うことが苦手な冒険者たちの希望の星となりつつあるようだ。




 1位と2位が王都勢。

 4位と5位が地元勢。


 「王都勢vs地元勢」


 いったいどちらが大会を制すのか、ということに関心は自然と移りつつあった。




―――




 大会日程の3分の1を終えた時点で、堅実なことで有名な賭け屋が設定した優勝予想のオッズはギャンブラーのみなさんをざわつかせた。



---

 ・『あの雲の彼方へ』 : 1.4倍


 ・『ベナンズ』    : 1.3倍

---



 なんと、現時点で1位の『あの雲の彼方へ』よりも、2位の『ベナンズ』のほうがオッズが低かったのである。


 理由を問われた賭け屋は、



「ベナンズは討伐に時間がかかる大物狙いだ。雲は低ランク魔物を数多く狩る作戦で堅実にポイントを稼いじゃいるが、ベナンズの大まくりがハマるのも時間の問題さ」



 と、うそぶいたという。




―――




 大会12日目夜。

 冒険者ギルドの酒場。


 大会の盛り上がりのおかげか、ほぼ満席の店内で、1人の冒険者が話題の中心になっていた。


 頬に目立つ十字の傷がある人間男性の戦士。

 通称「面傷のベナン」。


 大型の魔物ばかりを狙い、つねに勇猛果敢な突撃を繰り返すため、生傷の絶えない男である。



「オレは明日、丘オーガの野郎をヤるぜ!」



 ヒルオーガは巨人族を祖先に持つ人型の魔物である。


 巨体から繰り出される膂力もさることながら、古の知性の名残りがあるため武器を使うことでも危険視されている。


 木の幹や岩による投石など、落ちているものを利用する程度とはいえ、オーガのパワーをもってすれば立派な脅威となりえる。

 脅威度はC。



「この稼業やってていっちゃん楽しいのはよ、大物喰ったときじゃねえか。なにが楽しくてザコ狩りなんかしたがるんだか」



 揶揄するように言ったのは、酔いのためだったか。


 それとも、そのとき酒場の入り口に美男子――ナサニエルの姿を認めたためか。


 ナサニエルは自らに向けられた嘲りをまるで相手にせず、仲間の待つテーブルへついた。


 仲間たちはみな豊満な美女ばかりであり、しかも露出度が高い。


 並みの男であれば目のやり場に困るところだが、ナサニエルはクールな表情を変えない。


 相手にされなかったベナンは「ちっ、つまんねえヤローだ」と杯を呷る。


 王都勢の2人は面識があり、常日頃からベナンがライバル視して突っかかっていくのだが、ナサニエルにはまるで相手にされなかった。




 無反応な相手につまらない思いをしていたベナンに、意外なところから反応があった。



「よく言った、おっちゃん! あたし意気投合したよっ!」



 声の主はDランク冒険者のエリンという少女だった。



「意気投合ってのはそういう意味なのか? つか、おっちゃん? オレはまだ24だぞ!?」


「四捨五入したらおっちゃんだよ!」


「お、おう。そうなのか……」


「そんなことどうでもいいからさ、あたしもオーガ狙いだから! 競争だねっ!」


「なにぃ? おめぇみたいなヒヨッコに譲らねぇぞ! 最初に斬りこむのはオレだ!」



 翌日、若手パーティの勢いに押されて焦ったベナンは2体のオーガに対して無謀な突進を試み、負傷してリタイアの憂き目をみた。


 ベナンの勇猛さと個人戦闘力に引っ張られるワンマンパーティだった『ベナンズ』は、事実上の脱落である。


 残念な結果に終わったベナンだったが、ただで散ったわけではない。


 その果敢な突撃は2体のオーガに挽回不可能なダメージを与えており、深く傷ついた2体は『パワーイズマッスル』と『ミルトン初心者の会!』がおいしく頂いた。


 自らの脱落と引き換えに、街の安全に寄与したベナンは冒険者としての務めを立派に果たしたのであった。



 

 大会15日目終了時点順位。



---

 1位 : 『あの雲の彼方へ』

 2位 : 『ベナンズ』(リタイア)

 3位 : 『パワーイズマッスル』

 4位 : 『ミルトン初心者の会!』

 5位 : 『地を這う獣』(リタイア)

---



 折り返しの15日目を終えた討伐大会は、有力パーティの相次ぐ脱落によって依然として予断を許さない状況にあった。



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