74話「討伐大会7」
王女は属性武具を1000以上欲しいと暗に言ってきた。
1000以上の武具の取り引き。
それほど大量の数を必要とするのは……。
まあ、軍隊だろうなぁ。
それ以外ありえないもんな……。
いかに王女といっても、言っちゃ悪いけどしょせんは王女に大規模の軍隊を編成する権限があるのだろうか?
そもそも王女が軍隊を編成する用事ってなんだ……?
あ、だめだめ!
これ以上は察することすら危険な匂いがするから、もう考えないでおこう。
「できませんか?」
できるできないで考えれば、できる。
1日で、というのはムリだけど、1週間あれば可能かもしれないし、1月もあれば余裕だ。
わたし自身が高速に量産しつつ、ワグネリアの大工房に協力を依頼。
それで足りなければ、ワグネリアを通じて鍛冶ギルドの「ギルド令」を出してもらい、他の工房にも協力を仰ぐという手もある。
そこまでやるとミルトンの鍛冶師をほとんど総動員することになり、外部に隠しておくことはできなくなるけど。
ただ、たぶん1000くらいの数ならそこまでやる必要はない。
わたしとワグネリア工房だけで対処可能な数ではある。
実際、クーデター中のアミリアヌスはそれに近いことをわたし抜きでやって、秘密裏に毒武器を量産することに成功したのだから。
よし、答えが決まった。
「できません。生産力のキャパオーバーです」
ユーリアの表情に変化はない。
柔らかく微笑んだままだ。
だけど、目の奥におもしろがるような色が生まれた。
ユーリアはちらりとレベッカに目くばせする。
レベッカが首を振った。
「わたくしどもの調査とは少々違うようですね。親方はわたくしを警戒していらっしゃるのね」
いきなり身分を偽った王女に呼び出されて、大量の武具をよこせと言われて警戒しないやつがいるだろうか?
いるなら見てみたい。
「ベッカ?」
「はい。アミリアヌス伯は約7日で毒武器を300以上生産されました。神の手を持つ親方がそれ以下ということはありえません」
知ってて聞いてきたのかよ……。
いったいどこまで知られてるんだろう……。
「なにも今日明日に、というお話ではございませんの。今日はあくまでご挨拶したかっただけですから。あっ、そうですわ!」
ユーリアがなにか思いついたようにポンと手を合わせた。
「今度、ぜひ王都へいらっしゃって。招待いたしますわ」
「あぁ、それはすごく光栄ですけど……」
王都への呼び出しはヤバい。
ミルトンでなら、のらりくらりと話を有耶無耶にできるかもしれないけど、100%アウェイの王都ではまったく自信がない。
幸いミルトンは自由都市で、わたしは自由市民である。
三部会の代表者という立場からすれば、自由の守護者とも言える。
そうだ、カルバニア王族の招聘に応える義務なんかないんだし、お断りしよう。
最初に流れ着いたのがミルトンで本当にラッキーだった。
もしこれが王国領だったら、どうなっていたことやら。
よし断ろう、と、わたしがなけなしの勇気を振り絞ったとき。
「王都といえば、親方もご友人にお会いしたいのではなくて?」
「?? いえ、王都に友人はいませんけど……」
「そうかしら? わたくし、フォーリア家とは縁あって懇意にさせていただいてますの。そこのご令嬢があなたを恋しがっておられましたわ」
フォーリア家って……。
どっかで聞いたことがあるような……?
あっ、ベスの実家か!
驚いたのが顔に出てしまったのだろう。
ユーリアが満足気にうなずいた。
「エリザベス嬢はお元気です。王都に帰還したらお会いする予定ですの。よろしければ、なにかご伝言を承りましょうか?」
「……ありがとう、ございます」
「そうですわね。いっそ王都にいらしたときにお会いしてはいかがかしら? 喜んで手配いたしますわ」
「はい、ぜひ……」
そう来たか……。
そう来るか……。
甘かった……。
とっくにハメのプランは完成していたんだ……。
「今日はお目にかかれて光栄でした。王都へのご招待の件は、追ってお知らせいたします。ではごきげんよう」
ユーリアが優雅に立ちあがった。
レベッカがドアを開けた。
謁見は終わり、そういうことらしい。
客室から出るとき、「失礼します」と言おうとして、喉がカラカラに渇いていることに気づいた。
王女は来客に飲み物を出さない。
まったく役に立たない変な豆知識を得てしまった。
―――
レベッカが工房まで送り届けてくれた。
もう警戒する必要がないからか、パーティの他のメンバーはいなくなっていた。
「親方、わたしはあなたの腕を買っている。すばらしい技能だ。選択を見誤らないようにな」
別れ際、レベッカからお褒めめいた脅しでしかない言葉を頂いた。
念入りなことで……。
わたしは工房に戻ると、すぐにお茶をがぶ飲みした。
ちくしょうめ。
いつだ?
いつからだ?
ユーリア王女はいつからわたしをハメようとしていたんだ?
あのときか?
開会式で目が合って手を振ったときか?
ちがう。
あんなのただの布石だ。
もっと前だ。
たしか……。
リュドミラが「(王女に)デンゼマから招待状が届いた」と言っていた。
送るわけがない。
冒険者ギルドミルトン支部長のデンゼマがカルバニア王国第一王女のユーリアに、討伐大会の開会式への招待状なんて送りつけるわけがない。
王都で開催するなら、また話はべつだ。
いくら冒険者ギルドが王権から独立不可侵といっても、王国領内で好き勝手にイベントは開けないし、お膝元の王都となればなおさら。
根回しして同意を取り付けるだろうし、招待状の1つや2つは送るかもしれない。
だけど、ここは王都から遠く離れた場所。
しかもミルトンは王国領ではなく、自由都市。
王族を招く理由がなに1つない。
ということは……。
勝手に来たんだ……。
その事実に思い当たったとき、わたしは背筋が寒くなる気がした。
ついで、じゃない。
ユーリア王女は最初からわたしに会うために、ミルトンに来たんだ。
その結論がただの思いこみじゃないことは、翌日裏付けされた。
大会順位で2位につけていた『地を這う獣』が急遽リタイアしてしまったのだ。
たぶん、今度は本当に王都へ帰る王女に同行するためだろう。
王女の目的はわからないけど、ひたすら不気味だ。
わたしはなにか見えない糸で手足を絡めとられてしまった気がした。




