70話「討伐大会3」
レベッカが信じられない思いで見つめるなか、弓を持ったスタイルのいい女が、落下攻撃をしかけた少女に駆け寄った。
弓手はテルマ、落下攻撃の少女はエリンという名だと記憶している。
この地元パーティとはさっきアイスゴーレムの出現地点に向かう途中で出会ったばかりだが、たしかDランク冒険者だと名乗っていたはず。
あれでDランク?
それこそ信じられない。
ミルトン支部の目は節穴に違いない。
王都のギルドなら確実にCランクに昇格させているだろう。
「あ~! またテルマにいいところもってかれた~!」
「あんたのはそういう技なんだからしょうがないだろ」
「あたしだってたまにはカッコよくトドメ刺したいよー!」
「ふっ、あんたはカッコいいよ」
2人には、格上のCランクの魔物を仕留めたという高揚感が見られない。
たたた、と2人に魔術師の少女ルイーズが走り寄る。
「あの、あの、2人ともお怪我はありませんか……?」
「あぁ~ルイーズ、ナイスアシスト。おかげで高く舞えたよー! いぇーい!」
「い、いぇーい……」
そのやりとりと、さっき見た光景を照らし合わせて、レベッカはあのDランク冒険者たちがなにをしたのかだいたい理解した。
エリンが跳躍したとき、ルイーズが風魔術でそれに加速を与え、さらなる高みへ。
エリンは空中で姿勢を制御するという、人間離れした動きでアイスゴーレムに肉薄して落下攻撃。
その直後、テルマが頭部への射撃でトドメを刺した。
流れとしてはそうなる。
到底Dランカーごときにできる動きではないが、実際にやってのけたのだから受け入れるしかない。
しかし、わからないことが2つある。
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1つ、なぜアイスゴーレムから硬さが失われたのか。
2つ、なぜエリンは凍結しなかったのか。
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1つめは、おそらくエリンの放った技にそういう性質があるのだろうと察せる。
装甲砕き――アーマーブレイク技の使い手は王都にも何人かいる。
レベッカ自身がその1人だ。
もっとも、あそこまでの威力は見たことも聞いたこともないが。
2つめに関してはまったく想像もできない。
水しぶきを浴びながらも凍結を防ぐ手段は、あるにはある。
たとえば、術師の火術であらかじめ自らを燃焼させてもらい、セルフバーニング状態になることで多少は防げる。
が、それは火傷覚悟の危険な自傷行為だし、さきほどの例には当てはまらない。
自分のなかに答えはない。
ならば、聞いてみるとしよう。
「見事だった。すっかり見せ場を持っていかれた」
賞賛しながらレベッカが近寄ると、3人は恐縮したように向き直った。
「Dランクと聞いたときには、足を引っ張られないか不安だったんだが、いらない心配だったな。すまない」
「レベッカさんたちこそ、いい囮だったよー! グッジョブ!」
エリンはウインクしつつ親指をぐっと立てた。
遠慮のない物言いに、横にいたテルマから「失礼だぞ」と肘で小突かれる。
恐縮しているのは2人だけだったか、とレベッカは苦笑した。
「さっきの技は装甲破壊か。すごいな、あれほどの絶技ははじめて見たよ」
「でへへーそれほどでもーあるかなー?」
くねくねとだらしなく照れるエリン。
これはDランクかもしれない、とレベッカはちょっと思った。
「差し支えなければ聞かせてくれ。なぜ凍結しなかったんだ?」
と、問うレベッカに、エリンは自らの防具を見せながら説明してくれた。
やたらと細かい具体的なエピソードを交えつつ、しかし要点は抑えず、まとまりのない長い話が始まった。
駆け出し冒険者3人の出会いのエピソードなど質問したつもりはないのだが……。
このコミュニケーション能力は間違いなくDランク以下。
ミルトン支部の評価基準は確かだ。
レベッカは納得した。
……。
吹きさらしの風で体を冷やされつつ、10分近くに及んだ長話を要約するとこうなる。
なんでも、懇意にしている鍛冶師が防具に「冷気耐性」の特殊効果を付与してくれたそうだ。
一言で済むじゃないか!
と文句を言いたくなるのをレベッカは我慢した。
「冷気、耐性……?」
耐性、という概念が近ごろ急速に広まりつつあることは、熟練冒険者のレベッカはもちろんチェックしている。
毒、麻痺、睡眠といった厄介な状態異常を低減、もしくは無効化する画期的な防具が次々と市場に出回っているとも。
そして、その発信源が鍛冶の盛んなミルトンということも。
今回、レベッカのような国家級の冒険者がわざわざミルトンを訪れた動機の1つはその情報を確かめるためである。
数々の噂を総合すると、それらすべてが1人の鍛冶師に行きつくからだ。
「しかし、冷気耐性? そんなものがあるとは、にわかには信じられないな」
「すごいんだよー。氷属性のダメージはほとんど受けないの! 明日かな? この耐性防具を新発売するみたいだから、レベッカさんも買ったらいいよー!」
王国のお抱え鍛冶師、いやそれどころか宮廷魔術師ですらできない神業を、一介の田舎鍛冶師がやってのける。
しかも、一般に販売するだと?
いかにミルトンが大陸でも屈指の鍛冶の街とはいえ、度を越している。
なんとしても実物を手に入れなければ……。
やはり、会ってみる必要があるな。
スズキ親方とやらに。
レベッカは、ミルトン来訪の最重要目的を定めなおした。
―――
アイスゴーレム共同討伐の結果。
『地を這う獣』は大会順位を2位に押し上げ、保守的な人々に「さすが有名パーティは違うねぇ」と納得感を与えた。
一方で、前日までランク外だった無名のDランクパーティ『ミルトン初心者の会!』も大物討伐のおかげで大きく順位を上げ、一気に8位にランクインしたのだが、人々が注目したのはその滑稽なパーティ名だけであった。
「だから『初心者』はやめろって言ったんだ。いつまで初心者でいるんだ、うちらは……」
テルマはぼやき、冒険者登録時にもっと強くエリンを止めておくべきだったと後悔するのだった。




