69話「討伐大会2」
ミルトン討伐大会は1か月の開催期間を予定している。
期間中、魔物の討伐報酬には一律で50%のボーナスが与えられる。
さらに魔物のランクによっても割合ボーナスが発生する。
たとえば、脅威度ランクの高いCランク魔物であれば「+100%」というように。
そこに累積討伐数ボーナスも加算されるため、パーティのイベント参加状況によってはCランクの魔物を1体狩るだけで、いつもの5倍の報酬を得られたりもする。
そして、大会終了時には成績順に応じた特別報酬まで与えられるのだ。
この破格の条件を見逃す冒険者ではない。
あまりにもおいしいため、魔物の取り合いによる冒険者同士の小競り合いが発生するほどだ。
各地から集まった冒険者は総人数300、パーティ数50を超え、開催5日目の今なおその数は増え続けている。
ソロでミルトンを訪れた者同士が現地で意気投合し、パーティを組むこともしばしば起こっている。
その有象無象のパーティ群に、王都カルバンからやってきた冒険者パーティ『地を這う獣』、通称ハウケモが紛れていた。
ハウケモの冒険者ランクはB。
王都でも指折りの有名パーティであり、王国全土にその視野を広げても屈指の国家級パーティである。
ハウケモは大会5日目の現在、3位を走っている。
とある事情があってフルタイムで討伐に参加できないため3位に甘んじているが、実力では優勝候補ナンバーワンというのが衆目の一致するところである。
ハウケモのリーダーは人間族の女性で、名をレベッカという。
レベッカは精悍な顔に赤いロングヘアーをなびかせる長身の両手剣使い。
特徴的な毛皮の襟付きマントをまとう凛々しい姿は、美女というよりは美人といったほうがふさわしい表現だろう。
レベッカ率いるハウケモは、今、ミルトンにほど近い沼地で強敵と戦っていた。
―――
敵は巨人型の魔力生物、アイスゴーレム。
3メートルを優に超える巨大な体長、つねに外殻として身にまとう硬い氷。
硬すぎる外殻は、もはや装甲と言ってもいい。
生半可な攻撃などやすやすと弾いてしまうほどの防御力を誇る。
物理的な攻撃手段は巨躯をいかしたぶちかましと単調な打撃しかないため、それほど脅威とは言えない。
だが、この魔物の真に恐ろしいところは冷気属性の魔術を操ることだ。
水があるところでは、自らを凍結させることで多少のダメージなどたちまち再生してしまう。
そして、一瞬でも油断すれば対峙する者を凍結させる。
ゆえに脅威度の判定はCランク。
並の冒険者がおいそれと敵に回していい相手ではない。
だが、ハウケモは並の冒険者ではない。
「水から引き離せ!」
レベッカの指示に、ハウケモのメンバーは機敏に反応する。
前衛の戦士職はレベッカを含めて3人。
後衛の魔術職は魔術師と治癒術師が1人ずつ。
5人編成のパーティメンバーは全員Bランクの手練れである。
もっとも、冒険者のランクはパーティ単位で判定されることがほとんどのため、全員の実力が同じレベルにあるということを意味しない。
ハウケモの場合、リーダーのレベッカが飛び抜けて強い。
ただ戦闘力が高いだけではなく、戦闘全体を設計する指揮能力も高いのだ。
それを理解しているがため、4人の仲間たちはレベッカの指示に最大限沿うよう忠実に動く。
パーティの戦術は、ゴーレムを焦れさせ、沼地の水場から引き出すことだ。
経験の浅い冒険者は、いかにも火が弱点のアイスゴーレムに火矢や松明を使って全員で溶かそうと慌てがちだ。
それではいけない。
急ぎすぎは禁物だ。
やすやすと弱点を狙わせてくれる魔物なら、Cランクの脅威度を与えられたりはしないのだ。
アイスゴーレムには火を検知するとそちらを優先的に攻撃する習性がある。
だから複数人で火を使ってしまうと、ゴーレムが誰をターゲットに取るかわからなくなってしまい、状況をコントロールできなくなる。
ゆえにハウケモは魔術師1人だけが火術を使うことであえて狙わせるのだ。
前衛のレベッカともう1人の戦士は魔術攻撃に対処できる、つかず離れずの距離をキープしつつ、ゴーレムの進路を制限。
後衛の魔術師は火術で攻撃をしかけることで囮になり、ゴーレムを誘いだす。
残りの戦士がその護衛。
治癒術師はなにかあったときのために安全な最後方で待機する。
バランスの取れた編成に、安定度の高い立ち回りだ。
レベッカは今、この戦いを完全にコントロールしている。
ゴーレムタイプの魔物を仕留める手段は2つ。
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1つ、コアを叩く。
2つ、全身をバラバラに砕く。
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レベッカが選んだのは、より容易で確実な1つめだ。
アイスゴーレムを陸地に引きずりだして再生を止め、外殻を炎で溶かし、魔力源――コアを露出させる。
そこに愛用の両手剣『スプートニク』の一撃を見舞って仕留める。
そのイメージは戦いが始まる前からすでに完成していた。
沼の地形、ゴーレムの特性、気象条件や気温、さらには仲間の体調や陣形。
それらすべてを加味した終わりまでのイメージを、レベッカはゴーレムと遭遇した瞬間に組み立てたのだ。
イメージの組み立て、そしてそれを仲間に実行させる力こそがレベッカの真骨頂である。
ここまでのところ、ゴーレムの動きはそのイメージに寸分たがわずトレースしている。
やつの命運は陸地に上がった瞬間に尽きる。
その後にどう動こうとも、こちらの勝利は揺るがない。
イメージが、レベッカにそう確信させている。
だが。
そのイメージにブレを与える存在が現れた。
風のように駆けて助走をつけた人影が高く跳躍し、上空からゴーレムに落下攻撃をしかけたのだ。
人影……少女。
ゴーレムの背丈の3倍以上にも及ぶ最高到達点。
空中で見事に制御された、理想的な攻撃体勢。
そのエアリアルムーブは美しくすらあった。
見上げたレベッカは、少女がその不自然なまでの高さを軽々と跳んだことに驚きつつも、すぐに視線を地上の魔物に戻した。
ゴーレムはまだ水を離れてはいない。
対処される……!
レベッカは「これだからDランカーは!」と舌打ちしそうになった。
案の定。
ゴーレムが水面を手で叩いた。
すると、ミシミシと音を立てて水面が隆起して、氷の柱になる。
氷柱は水しぶきを凍らせながら加速し、上空の少女に迫った。
完璧な対空精度。
これこそが、水辺でアイスゴーレムと戦ってはいけない理由である。
上空の少女は、氷柱と自らの落下エネルギーの衝突によって全身を砕かれるか、よくても凍結させられる。
もしくは……その両方。
レベッカのイメージは、空中で凍りついた少女が即座に氷柱の一撃で砕かれるさまを描き出した。
しかし。
そうはならなかった。
またしてもイメージが結果とブレたのだ。
少女は襲い来る氷柱に対してわずかに身をよじった。
そして、氷面に盾を合わせ、滑らせるようにして落下を維持したのだ。
凍結していないし、当然のように攻撃体勢も崩れていない。
衝突の瞬間、裂帛の気合いが響く。
「鎧破衝!!!」
チン……。
気合いの声に比較してあまりにも情けない、刃が氷に弾かれる音。
その一撃は氷の外殻に毛ほどの傷をつけたにすぎない。
それが華麗な舞への無慈悲な報酬に思われた。
だが、イメージは3度破られる。
天から降り注いだ1本の矢がアイスゴーレムの頭にトンと突き立った。
なんの変哲もない1本の矢撃。
ゴーレムにはわずかなダメージにしかならない。
そのはずだった。
ありえない事態が発生した。
なぜか、ゴーレムの外殻がまるで霧になったかのように細かく砕けてしまったのだ。
否。
外殻だけではない。
氷の殻の内側すらも、バラバラに霧散して崩壊していたのだ。
キラキラと氷の破片が陽光を照り返すなか、あとに残されたのは、白く輝く球体――ゴーレムのコアだけだった。
この終わり方は、レベッカの中をどう探しても存在しないイメージだった。




