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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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61話「永氷花3」


 ミシャは小岩の上で小さな体を震わせていた。


 突然、腐肉狼(スカベンウルフ)の群れに襲われて、必死でよじ登ったけれども、こんな低い岩を腐肉狼が苦にするとは思えなかった。


 やつらは狩りのとき、6本足を器用に使って木にも登る。

 それは幼いミシャも両親から聞かされてきたから知っている。



「た、たす、けっ……」



 勇気を振り絞って助けを呼んだが、それは悲鳴にしかならなかった。



「グラァァァァ!!!!」



 まるで嘲笑うかのように、獣が大音声を上げた。


 肌をビリビリと伝わった恐怖が下腹部にまで入り込み、ミシャは体の感覚が遠くなっていく気がした。

 

 手に感触。

 とっさに手に取ると、小枝だった。


 すぐ折れてしまいそうな頼りない棒切れだけど、少しだけ勇気が湧いた。

 飛びかかってこようとする獣の目を狙って振り回す。


 獣は鬱陶しそうに頭を振って避けた。


 少し嫌がってる……!

 それにさらなる勇気を得たミシャは勢いよく振り回した。



「ッ……!?」



 ふくらはぎに痛みを感じて振り向くと、後ろから別の獣に喰いつかれていた。


 前のやつは囮だったんだ……!

 と気づいたときには、岩から引きずり降ろされていた。


 地べたに転がされても、必死で小枝を振って、喰いつく獣の頭を叩いた。


 ペキ。


 小枝はあっけなく折れた。

 絶望感がお腹からせりあがってきて、喉から奇妙な音になって漏れる。


 知っている。

 腐肉狼がどうやって獲物を喰うのか。


 やつらはトドメなんか刺さない。


 生きたまま腹を裂き、好物の肝臓を争うように食べるのだ。


 獲物は絶命するまでの間、想像を絶する苦痛と屈辱を味わいながらじわじわと死んでいく。


 いやだ。

 死にたくない。

 たすけて。


 声がかすれて出ない。


 下腹部を温かい液体が濡らしたことにも、ミシャは気づかなかった。

 けれど、その温かさは最後の力を少女に与えた。



「たすけて!!!」



 すると突然、喰いついていた獣の頭が消し飛んだ。


 頭が液体と化した腐肉狼が、その場で伏せをする。

 そのまま微動だにしない。


 ピシャン!


 聞いたことのない奇妙な音がしたと思ったら、また1匹の頭が消し飛び、周囲にピンク色の霧が生まれた。


 奇妙な音が響くたびに、1匹、また1匹と霧に変わっていく。

 なにが起こっているのかわからずに、ミシャは呼吸を忘れ、固まった。


 わからないのは最後の1匹も同じだったようで、キョロキョロと怯えたように頭を動かし――それもピンク色の霧になった。


 ミシャは放心状態になり、瞬きもできなかった。


 なぜ?

 なにが?


 もはやそんな疑問も浮かばない。

 ただただ目の前の異様な光景を見つめた。

 動くものはもういない。


 さっきまで獰猛な食欲をまき散らしていた獣たちは、1匹残らず毛皮の塊になっていた。


 確かなことが1つ。

 動くものはもういない。


 だけど、まだ『なにか』がいる。


 腐肉狼たちを肉塊に変えてしまった『なにか』が。

 それに気づいた途端、ミシャをまた恐怖が襲った。


 そのとき、目の前に人型のなにかが現れた。




―――




 「狩る側」「狩られる側」という立場に夢中になっていたせいか、魔物も女の子も最後までインビジブルにかかりっぱなしだった。


 まあ、魔物にわたしの存在を気づかれたところでどうってことはなかったと思うけど。


 あ、この子まだ見えてないのか。

 そうとう怖かったんだろうな……。


 わたしがフードを外すと、女の子が目を見開いた。


 返り血と涙でぐしょぐしょになった顔で、口を半開きにしてわたしを凝視している。


 あれだと、ちょっと体液を飲んじゃったんじゃないのかな……かわいそうに。



「だいじょうぶ?」


「……」



 返事はない。

 というか、ぜんぜん動かない。


 まあ、なにもない空間に突然人が現れたらびっくりするよな、そりゃ。

 周囲を確認したけど、もう他に魔物はいないようだ。


 わたしは彫像のように動かない女の子に近づいてよく観察した。


 足に噛み傷、あと手にも何カ所かケガをしているようだ。


 痛そうだけど、重傷ではなさそうに見える。

 よっぽど怖かったのか、まだ動かない。

 その気持ちはよくわかる。


 しゃがみこんで、女の子の肩に手を置いた。



「もうだいじょうぶ。クソ狼にはリベンジしたから」


「……」


「あれ、ほんとにだいじょうぶ?」


「…………ハァ、ハァ!」



 女の子が激しく息をしはじめた。

 あまりにも急に呼吸したせいか、むせて「ゲホゲホ!」と咳き込んだ。


 落ちつくまで背中をさすってあげた。


 しばらくすると、女の子が少し落ち着きを取り戻した。



「あの、あの……あの……」



 がんばってなにか言おうとしているけど、『あの』意外の言葉が出てこないようだ。


 あ、お礼かな?

 もしかして、お礼を言おうとしてるのかな?

 そんなのいいのに。

 わたしはクソ狼(別個体)にリベンジを果たしてすでにいい気分になっているんだから。

 だいたいお礼が欲しくて人助けするやつなんて二流だよ?

 もうね、人として二流。

 さすがに三流とまでは言わないけどね、人助けはしてるんだから。

 でも見返りを期待しないのがホンモノってやつなの。

 恩は遠くから返せ、ってよく言うけど、これでエリンにもちょっとは恩返しができたかな。

 だから、わたしはお礼なんて。

 むしろ、いらないまであるから。



「あの、お姉さん、魔族ですか?」


「なんでやねん! そこはありがとうだろ!」


「ヒッ!!!」



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