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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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58話「属性攻撃という誤解」


 リュドミラの風魔術でわたしがぶっ飛ばされる、という現象について、わたしたちは真逆の感想をもった。



「効かなかったねって?」「ほらねって?」



 また声が重なった。



「おほん。クロちゃんはアタシの風魔術でぶっ飛ばされたわけじゃん」


「それはわたしが軽くて非力だから」



 わたしは立ち上がり、服の埃を払った。

 決して体重軽いアピールではない。



「完全武装の重量級戦士ならその場で耐えて、ノーダメージだったはず」


「……ん? んん?」



 と、リュドミラが小首をかしげた。

 目を閉じて、考え込むような表情をする。



「もう一言ちょーだい?」


「つまり、わたしは風の勢いで床に倒れたけど、それは衝撃に耐えられなかったからであって、風属性ダメージは食らってないってこと」


「んんん? 風魔術なのに、風属性じゃない……? そんなのある?」



 腕組みして考え込み始めるリュドミラ。

 わたしはわたしで今の実験を整理しようとした。


 今の攻撃は、斬撃と衝撃が混じったもの、と解釈するのが正しいと思う。


 つまり、リュドミラは「風魔術」を使ったわけだけど「風属性攻撃」をしたわけではない。


 なぜなら、この大盾には「風属性耐性」なんて特殊効果はついてないし、風属性耐性がなければダメージを軽減できないのなら、わたしは今頃真っ二つになっていたはずだ。


 剣で斬られたみたいなカップの断面を見てピンときたんだけど、やっぱりそうだった。


 もう少し……!

 あと少しでなにか掴めそうな気がする。


 さらに検証が必要だ。




 その後、わたしはリュドミラに他の魔術で同じように攻撃してもらった。


 土魔術、岩石の塊を降らせる『石岩弾』。

 水魔術、薄い水の面を高圧で押し出す『水影刃』。

 水風合成術、尖った氷柱を飛ばす『氷槍』。


 どれを食らっても、さっきの風魔術『風裂』と同じように、わたしは吹っ飛ばされてダメージを受けた。


 背中に。


 盾をかまえた体の前側にはなにもダメージを受けなかったのだ。




―――




「つまり、なんだ?」



 と、リュドミラ先生が人差し指でこめかみをツンツンつつきながら言う。

 そのたびに長い耳が揺れておもしろい。



「属性の考え方が間違ってるって、そういうこと?」


「いや間違ってるとまでは……」



 断言できない。

 少なくとも、さっきリュドミラが使った魔術を、すべて盾で防ぐことができたというだけだ。


 大雑把に分類すると、こんな感じ。


 突風は「衝撃」と「斬撃」。

 岩降らしは「衝撃」。

 高圧洗浄水みたいなやつは「斬撃」。

 氷柱は……「衝撃」かな?


 「衝撃」も「斬撃」も物理的なダメージなので、当然、防具で軽減できる。


 もし属性があるとしても、「現象を起こした魔術の種類」によって左右されているわけじゃない、ということは確かだ。




 火、水、土、風、雷、あと闇。


 属性を6種類にも分けているうちは、武具の耐性で対応するのは難しい。


 多くの人が装備できるDランク防具では2つ、使い手を選ぶCランク防具でも3つまでしか特殊効果をつけられないからだ。


 でも、この属性の分類方法が不正確だとしたら?

 もしくは、耐性を考える場合には、別の属性分類法が必要になるとしたら?


 じっさい、今の実験では、防具そのものが持つ物理的な防御力だけですべての攻撃を防げたわけだから、耐性的にはすべて同属性として扱うほうが話がわかりやすくなる。


 火と雷と闇を試してないのは、火も雷も金属盾では防げないことが明らかだからだ。

 闇についてはリュドミラが精神魔術しか使えず、攻撃的な闇魔術を試すことができなかった。


 というか、闇の攻撃魔術については研究すら禁忌とされているらしく、リュドミラもよく知らないという。

 なお、光魔術は、ようするに治癒術のことなので除外した。



「あ、わかっちゃった!!!」



 とリュドミラがほとんど叫ぶように言って、唐突にわたしを指さした。


 直感が走る。

 来る!


 わたしは咄嗟に大盾から手を離した。

 それと同時にリュドミラがパチンと指を鳴らす。




 すると、大盾が一瞬で凍りついた。




 空中でカチンコチンに凍りついた大盾は床に落下して、大きな音を立てて倒れた。

 てっきり砕けるかと思ったけど、どうやら高さが足りなかったようだ。



「今のが氷属性攻撃。そうゆうことっしょ」


「たぶん違う。対象を凍らせるのと氷属性攻撃は違うんじゃない? あと、水属性攻撃じゃないの?」


「残念。今のは風魔術なのさ」


「えっ、風魔術!? もう、またわかんなくなったよ!」


「盾の周りの空気の温度を下げたんだ」



 空気の温度を、下げた?

 冷えたから、凍った。

 当たり前だなー。


 というか、タイミングがわからなくて危ないから嘘でもいいから詠唱しろ。

 凍結して死ぬところだったぞ。


 ……あぁ、だからか。




―――




 その後、さらに相談して話を整理した。


 耐性にも属性はある。

 それは間違いないだろう、と。


 だけど、これまで考えられていたような「火水土風」系の区分ではなさそう、ということでわたしたちの感じ方は一致した。

 あくまで感じ方であって、考え方ではない。


 魔術的な攻撃であっても、その多くは「衝撃」や「斬撃」という物理攻撃であり、防具に元々備わっている防御力で対応可能。


 氷(凍結)は「冷気」属性。

 火は「熱」属性。

 雷は「雷」属性。


 耐性として準備するべき「属性」をとりあえずこの3つに絞った。

 3つなら、防具の特殊効果枠で対応できるかもしれない。


 まだ他にもあるかもしれないけど、それはいったん持ち帰りで、ということになった。



「導師ともあろうものが、魔術も使えないド素人に言われるまで気づかなかったとは……不覚!」



 帰り際、リュドミラは悔しそうにしていたけど、仕方がないと思う。


 生まれる前から常識とされていたことを疑うのは難しい。

 まして、魔術師として卓越するために、その「常識」の数々を自分に叩きこんできたのならなおさらだ。


 わたしはむしろまったく無知のド素人だから疑問を持てただけだ。


 リュドミラは属性について魔術学院で弟子たちにさらなる調査、検証を進めさせるつもりらしい。


 そういうことなら属性の研究は、専門家集団にお任せしよう。

 わたしは魔術が使えないし、他にやるべきことができた。


 「冷気」「熱」「雷」。

 これらを属性として考えるなら、漠然と水耐性とか風耐性とか考えているよりずっとイメージしやすくなった。


 イメージできるようになったら、次は素材を探す段階だ。


 あと問題なのは、この3つの属性(仮)の、どれから手をつけるか、だけど。



「40年前の記録によると、魔族は氷属性を好むやつが多いんだってさ」



 と、リュドミラが言っていたので、まずは冷気から着手することにしよう。

 氷じゃなくて冷気な。

 まだまだ常識にとらわれているらしい。


 毒のときは、状態異常を引き起こす毒そのものが耐性素材になった。

 それと同じで、冷気を引き起こす素材が耐性素材になってもおかしくない。


 凍結を引き起こすヒンヤリ素材……ってなんだろう?

 冷却ジェルシート?

 この世界にそんなものあるわけないか。



「うわっ、どしたのこれ!? 魔物が暴れたの!? どこだぁっ、でてこーい!?」



 あとで帰ってきたエリンが見るも無残に荒れはてた工房を見て、興奮して剣を抜いた。

 なだめるのに苦労した。



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