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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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55話「ドワーフの鐙」


 やっぱまっとうな手段じゃダメだ。


 その晩、わたしは工房で考えた。

 馬には乗れるようにならなきゃダメだけど、訓練している時間は惜しい。


 それにわたしに乗馬センスがあるかどうかわからないから、そもそも望むレベルまで上達できるかどうかも怪しい。


 そんな感じでうんうんうなっていると、エリンがなにかを持ってきた。



「これは使えないのー? ドワーフからもらってたやつー」



 エリンが持っていたのは、ひも状の革と二対の金属皿が連結された謎の道具だった。


 ここ数日エリンには乗馬についての悩みを聞いてもらっていたから、なにか役に立ちそうなものを持ってきてくれたのだろう。

 見覚えはある、が、その謎道具がなんなのかわからない。



「なんだっけそれ? どっかで見たことあるけど」


「鐙(あぶみ)だよー。今日も見たでしょー」


「ああ、見た見た。その踏み台が鐙ってやつなんだ。初耳」


「ヨシノさん鍛冶師なのに……」


「あはは……わたしは人間の武具専門なので……」



 とはいえ、競馬に疎いわたしでも鐙くらい聞いたことがある。


 乗馬体験をするようになって、あの踏み台が便利なものだとわかった。

 便利というか、あれがないとそもそも跨れない。


 そういえば、前にヒドンガルドでドワーフの鍛冶職人たちと技術交流をしたときに、贈り物としていろいろもらったなかに混じっていた。


 なんかエロいことに使う変態アイテムかと思って、収納箱に放りこんだまますっかり忘れていたのだ。



「ドワーフの贈り物なんだから、魔術道具じゃない?」


「そんなラッキーある?」



 と、言いつつも『鑑定』してみた。


 武具じゃないのに、幸いなことに鑑定できた。

 馬具と武具、似てるからかな?



---

 ・変態道具じゃなかった鐙 : Dランク


 (騎乗向上)

---



 特殊効果がついてる。

 「騎乗向上」ってそういう意味だよな。

 それ以外の意味に取りようがないよね。



「いけるかも?」


「やったね! さすがドワーフの贈り物だねー!」



 もらったときは「友好都市からきた使節に変態アイテムを贈るのも変だなー」と思ったけど、ドワーフ族の風習がよくわからないので、そういうキモい風習があるのだろうなと、勝手に納得していた。


 ちゃんと便利なものをくれていたんだな。

 ごめん、ドワーフたち、変態扱いして……。


 そういえば、ドワーフは足が短いという種族的特徴のせいで乗馬が苦手な人が多いらしく、こういった魔術道具で補助することが多いとかなんとか説明を受けた気がする。


 あのときはすでにべろんべろんに酔っていたので、マジメに聞いてなかったけど。




―――




 翌日、さっそく試してみた。

 もうカイシンに用はないので、馬丁に手伝ってもらってドワーフの鐙を取り付けた。


 乗ってみると馬が意のままに動き、なにも動作しなくても念じるだけで全力疾走してくれた。

 草原が高速で流れていく。


 馬を止めようとした。

 ピタリ、と馬は静止する。


 驚いた馬丁が興奮していたけど、わたしは違った。


 コレでもない。


 たしかにこの魔術道具の鐙は優れものだ。

 これを馬に取り付けるだけで、わたしを乗せた馬が自由自在に早駆けするようになる。


 けれど、わたし本体が早駆けできるようになったわけではない。


 試しに馬丁に乗ってもらうと、やっぱり、なんなく乗りこなして駆け回った。

 惜しいけど、コレじゃない。


 これは馬を「人を乗せる天才」にする道具だ。


 わたしが求めているのは、あのとき、ベスを追いかけられるようになることだ。


 ディ・ソラリの軍営に繋がれている馬を奪って、それに飛び乗り、そのまま早駆けできるようになることだ。


 馬泥棒をしようというときに、いちいち鐙の交換なんてしていられない。

 あっという間に囲まれてお縄になるだろう。


 そういう緊急事態じゃなくても、自分の馬を持っていない以上、乗るたびにいちいち装着しなきゃいけないし、ずっと持ち歩くのも不便だ。




 考えた。

 鑑定できたということは、鐙もスキルの適用範囲なのでは?


 もしそうなら『合成』で特殊効果を他の武具に移すことができるのでは?


 状態異常耐性防具を作り始めた時期にわかったことだけど『合成』はただ武具のランクを上げるだけではなく、特殊効果を移すことにも使える。


 二種類の武具をそれぞれ「ベース」と「素材」にするのが合成だ。

 たとえば。



---

ベース   素材         完成品


D革鎧 + D盾(麻痺耐性) → D革鎧(麻痺耐性)

---



 このように、素材になった材料はなくなってしまうけど、特殊効果をベースの材料に移せる。


 ランクを上げるためには+10まで精錬強化した材料同士が必要になるけど、特殊効果を移すだけなら強化は必要ない。


 人間の武具同士はそういうシステムだ。

 問題はそのシステムが馬具にも適用されるかどうか。


 もし、合成してみて「騎乗向上」の効果を移すことができなかったら、ドワーフの鐙ごと「騎乗向上」の効果は永遠に失われることになってしまう。




 どうする……?

 リスクを取って試してみるか?

 それとも、もったいないからやめとくか?




 迷ったのはほんの数秒だけだった。


 どうせこのままだと役に立たない、とまでは言わないけど、望んだ結果は得られない。


 それにこのチャレンジはいい実験になる。

 特殊効果についてはまだあまりわかっていないので、研究の足がかりがほしいと思っていたところだし。


 目標は『隠れ身のマント(Cランク)』に「騎乗向上」を移すこと。


 このスニークマントを失うのは痛いので、まず他で試すことにした。


 結果は……。



---

ベース   素材          完成品


D革鎧 + Dドワ鐙(騎乗向上)→ D革鎧(騎乗向上)

---



 成功!


 つぎの工程はこの完成品『Dランク革鎧』から『隠れ身のマント(Cランク)』に特殊効果を移すこと。


 ランク違いの武具を合成しても、特殊効果を移せることはかなり前に判明していた。


 懸念しているのは「特殊効果の上書き」が発生するかどうかだ。

 もし「インビジブル」の効果がマントから消えてしまっては元も子もない。


 常時インビジブル発動の効果は、訓練でどうこうできる身体操作技術とはレアさの次元が違う。

 これはさすがに迷う。


 研究の成果で、武具にはランクごとにつけられる効果の数に制限があることがわかっている。

 上限を超えた場合、元あった効果のどれかが消えてしまうこともわかっている。


 ランクごとの効果制限数を表にするとこうなる。



---

ランク   効果数制限(スロット)


Eランク   1個

Dランク   2個

Cランク   3個

Bランク   3個以上?(詳細不明)

Aランク   不明

---



 わたしが見たことがある最高ランクの武具は、剣聖のBランクレイピアだ。


 あれには3個の特殊効果がついていたから、Bランクも最低3個はつけられるはずだ。

 Cランクでも3個つけられるのに、それより上のランクのものが減るということは考えづらいし。

 Aランク武具は見たこともないので、まったくわからない。


 『隠れ身のマント』はCランクだし、特殊効果は「インビジブル」しかついてない。

 これまでのケースと同じなら、問題なく「騎乗向上」を移すことができるはずだ。


 だけど、もし「インビジブル」が特殊効果スロット3個分の扱いだった場合は?

 「騎乗向上」に上書きされて消滅する可能性もある。


 うーん。

 やってみるしかないか……。


 こればっかりはやってみないとわかりようがない。

 ダメならしゃーない。


 少なくとも、失敗ケースの条件がわかれば、それはそれで大きな前進と言えるのだから。


 合成した結果は……。



---

ベース 素材          完成品


隠マン(インビジ)+ Dランク革鎧(騎乗)→ 隠マン(インビジ)(騎乗)

---



 大成功!


 このマントを着て馬に乗れば、どの馬に乗ってもちゃんと乗りこなせた。


 ただ、失敗もあった。


 マントを着て近づいたところ「インビジブル」の効果が発動してしまい、馬丁も馬もわたしに気づいてくれなかったのだ。

 目の前でマントを脱いだら、驚いた馬に蹴られた。



「1つの装備に特殊効果がいっぱいついてたほうがいいじゃん?」



 などと軽く考えていたんだけど、正直考えが足りてなかった。


 ちゃんと相乗効果のある効果同士をかけ合わせないと、思わぬ弊害が生まれてしまう。

 食い合わせが悪いってやつだ。


 まあ、誰にも気づかれずに馬に接近して乗りこなせるのだから、一流の馬泥棒になれるという相乗効果はあるわけだが……。


 ともかく、やや不細工な結果ではあるけど「馬に乗れるようになる」という目標は達成できたし、特殊効果の研究も進んだのだった。



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