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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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54話「馬に乗る」


 ようやくアミリアヌスの乱が終結した。


 大事が片付いて日常に戻れると思ったのに、むしろやることが増えてしまった。


 鍛冶師としてやりたいこと。

 個人的にやらなきゃいけないこと。

 そして街の指導者としての役目。


 やることが多すぎて、最初の1日で、時間が足りないことに気づいた。

 寝る間を惜しんで活動しても忙しすぎてぜんぜん時間が足りない。


 まず最優先にやるべきことがはっきりした。

 それは、時間を作ることだ。


 手始めに、普段着に「睡眠耐性」の状態異常耐性をつけた。

 これで徹夜はバッチリ!

 何徹でもできるぜ!


 街の統治についてだけど、そんなことやってる暇はないし、そもそもできない。

 なので、できる人に丸投げした。

 ワグネリアに。


 結局、街を実質的に指導して混乱をおさめたのは経験者のワグネリアだった。


 リュドミラには政治オンチの疑惑をかけられていたけど、結果的には王都の援軍を期待できる状況になったし、そうなったらドワーフ王国の援軍も連鎖的についてくるはずで、その疑惑は払拭されたと思う。


 こうして時間を捻出したら、いよいよ本題だ。




 乗馬をマスターする。


 ベスが連れていかれるのを止められなかったのは、わたしが馬にも乗れないクズだったからだ。


 あのときは、しかたないと思った。

 後でなんとか助け出す手を考えよう、と。


 でも。

 やっぱりあのとき馬を奪って追いかけるのが唯一の最善手だったのだ。


 なぜなら、物理的に届く距離にいたからだ。


 日を置いた今、痛感している。

 今のわたしにはベスの居場所すらわからない。

 物理的な距離すらわからない。


 あのとき馬を奪ってディ・ソラリ兵を倒し、ベスを取り返していれば、こんなことにはなっていなかった。


 そうしていたら他の問題は発生したかもしれない。

 けど、それは別の問題だから、また別の解決手段がある。


 ベスの件については解決手段がなにもない。

 唯一可能性があったのは、あのとき馬に乗って追いかけることだった。


 もう同じミスをしないために、馬に乗れるようになろう。




―――




 さっそく乗馬の訓練を始めることにした。

 馬は持ってないので、馬屋で借りた。


 この世界では馬を所有しているのは、裕福かどうかにかかわらず、貴族や交易商人などごく一部の人間だ。


 乗馬が初体験だと申告すると、馬屋の主人に馬丁を雇うように助言された。


 馬丁とは、競馬の厩務員のようなもので、手綱を引いて乗馬を補助してくれるらしい。

 素直に助言を受け入れて、馬丁を雇った。


 ミルトンの城壁の外には、練習に使える草原がいくらでもある。

 わたしが跨った馬を馬丁が引いて城門を出た。


 草原がゆっくり後ろに流れていく。


 馬の背の高さから見ると、いつもより空の雲が近くに感じられる。

 せいぜい目線が1メートルかそこら上がっただけなのに、不思議だ。


 白い雲間を、茶色い翼を羽ばたかせる人影が横切っていくのが見えた。

 あれはたぶん鳥人だろう。


 天空の旅人である鳥人は、種族の絶対数こそ少ないようだけど、晴れた日に空を見上げているとよく見ることができる。


 鳥人の多くは機動力を生かした速達の配達業についている。


 伝書鳩(この世界に鳩はいないけど)より速く、確実で、しかもある程度の重さまでなら荷物も運べるのが強みだ。

 わたしも何度か利用したことがあるけど、料金はクソがつくほど高い。


 また、鳥人が飛んでいく。

 今日はやけに多いなー。

 クーデターの終結でも伝えに行ってるのかなー?


 わたしも空が飛べたらなあ。

 馬に乗ろうなんて考えようともしなかっただろう。


 かっぽかっぽ。

 馬の蹄音がリズムよく響く。

 かっぽかっぽ。

 のどかだなぁ……。


 いやちがう!

 コレじゃない!!!


 コレはいわゆる乗馬体験というやつだ。

 なんとか牧場で1時間5000円とか払ってやる、動物とのふれあい体験的なやつだ。

 わたしは、ほっこりしたいわけじゃない。



「あのー早駆けを教えてもらえませんか?」


「そんなのやってねえです」



 だ、そうだ。

 馬丁にもうちょっと話を聞いたら、自分も早駆けはできないそうだ。


 馬の世話をしたり移動させたりという仕事をこなすのに、早駆けは必要ないから、らしい。

 なるほど。




 しょうがないので、翌日には自前で先生を用意した。


 意外というか、残念というか、わたしの知人で早駆けができるほどの乗馬術をもっているのは1人しかいなかった。

 正確には2人いたんだけど、片方のリュドミラには「ヒマじゃない」とすげなく断られた。


 そのもう1人とは、カイシン神官長だ。

 高位の神官は遠方に赴くこともあるので乗馬を嗜むそうだ。


 わたしが乗馬を教えてほしいと頼むと、カイシンは嫌そうな顔をした。

 けど。



「銀貨10枚」


「……?」


「治癒術1発銀貨10枚」


「……!」


「哀れなケガ人から金銭をまきあげてたことを大神官様はご存じなのかな?」



 と、昔の思い出話をすると快く引き受けてくれた。

 大切な思い出を共有してる友だちって一生ものだねっ!


 でも、やっぱり同じことになった。

 カイシンが手綱を引き、わたしは跨ってるだけ。


 なんてのどかな乗馬体験。


 だからコレじゃないんだって!



「あのさ、こういうのじゃなくてさ、ダダっと早駆けできるようになりたいんだけど!」


「そうは言ってもまずは馬に慣れることからだ。これに慣れたら常歩で乗れるまで訓練、つぎに速歩の訓練、早駆けなど最後だ」


「それってどれくらいかかる?」


「人によるとは思うが、3年もあれば形になるであろう」


「3年!?」



 そんなにちんたらやってられん。

 すぐにマスターしてやる。


 わたしは映画で俳優がやっていたのを真似して、前傾姿勢を取りつつ「ハッ!」と掛け声をかけて馬の横腹に踵で蹴りをいれた。


 イメージでは馬が疾走してくれるはずだった。




 落とされた。




 蹴りに馬が反応して立ち上がり、わたしを振り落としたのだ。

 思い切り頭から地面に落ちたけど、首の骨は折れなかった。


 さすが防御力200の服、落馬程度の衝撃ではノーダメージだぜ!



「気でも狂ったのか?」



 真顔で見下ろしてくるカイシンの顔を、情けない姿勢で股の間から見上げることで精神的ダメージを食らったけど。



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