53話「事後処理」
わたしが黙って考え込んでいるのを、不承不承ながら納得した、と受け取ったのか、将軍は申し訳なさそうに続ける。
「すまんが、俺にもどうにもならん。だがお前も事情を知りたいだろうと思ってな、お呼びたてしたというわけさ」
「そうですか……」
しかたがない。
ベスの件はまた後で、みんなと相談するなりなんなりして考えよう。
馬にも乗れないクズには、今はどうすることもできない。
「さて。そろそろ本題といこうか」
「本題?」
「事後処理だ、魔女殿。バカがとっ散らかしてくれたもんでな」
よし。
そうと決まったらクーデターをきっちり終わらせることに集中しよう。
「俺たちは明日、正午に入城する。お前たちはそれまでにすべて整えておくんだ」
「すべて、とは?」
「決まってる。討伐軍歓迎会の準備だ。強行軍に付き合わせた労いを手下にしたい。デカい会場を押さえ、酒とうまい飯をたんまり用意し、キレイどころの姉ちゃんを集める。俺はとくに注文はないが、手下は巨乳好きが多い。谷間を強調するバインバインな衣装を着せとけば泣くほど喜ぶぜ」
「……!」
「冗談だ」
本気だ。
将軍はわたしの絶句を「引いた」と感じたようだけど、それはちょっと違う。
むしろ感心していた。
部下に無理を強いたことをしっかり労うなんて、いい上司だ。
ちょっと仕えたくなってきた。
ただ、上司が自分の性癖を把握しているのは、ちょっとキモいと思うんだけど。
「重要なのは三部会の代表者3人をきっちり示すことだ。統治能力があることを俺に納得させろ。俺が納得しないなら王都の連中も納得せん。この忙しい時期に、居座って統治など俺はしたくないからな」
忙しい時期。
まるでアミリアヌスのクーデターが小事みたいな言い方だな。
と、思ってから気づいた。
そりゃ忙しいだろう。
わたしが話している相手は王国の将軍なんだから。
「やっぱり、夜会に備えているんですか?」
そう考えると、いろいろなことに納得がいく。
王都がアミリアヌス討伐を決断するのがやけに早かったこと。
まるでクーデターを見越していたみたいに討伐軍の編成が早かったこと。
そして、将軍の忙しい発言。
王国はすでに「夜会」を迎撃する準備を進めている。
そう考えればすとんと腑に落ちる。
しかし、将軍はなんのことだかさっぱり、という表情をした。
「夜会……? あぁ、例の噂か。物語のようで心は躍るが、俺にはおとぎ話に付き合う暇はない。戦は現実でやるからこそ楽しいからな。伝説の剣聖が本当に生きているというなら、一度お手合わせしてみたいとは思うが」
おとぎ話……?
あれ、なんだこの温度感。
夜会どころか、剣聖までオカルトみたいな扱いされてるぞ……。
そういえば、ヒドンガルドへの道中に通りかかった村や宿場町でも、ミルトンから離れれば離れるほど人々の関心は薄くなっていった。
以前の「夜会」ではミルトンが局地的な被害を受けただけで、他の地域はそれほど損害を受けなかったのかもしれない。
被災地とその他の地域では温度感に差があるのはよくあることだ。
まあ、温度感が低いのは部外者のわたしも同じなんだけど。
ミルトンの古参住人のような、差し迫った危機感は感じられない。
「話を戻す。確認だ。アミリアヌスを殺ったのはお前か?」
「殺りました」
「違う。自害だ」
「は?」
「やつは自害した」
「いえ、ほんとにわたしが……」
「ダメだ」
はえ?
ダメってどういうことです???
こっちは自白してるんだが?
将軍は、教師がものわかりの悪い生徒を相手にするように、両手を広げた。
「アミリアヌスはバカだ。特大のクソバカだ。だがやつは貴族だ。上級貴族だ。平民に殺されたとあっては、収まりがつかん貴族が出てくる。そうなると俺は連中の暴発を防ぐために、理由をでっち上げてお前を捕らえなければならなくなる。俺はお前に死んでほしくない。だから自害だ」
「なるほど……」
死んでほしくない、と言われてちょっとうれしくなった。
我ながらチョロいなー。
「でも、毒で自害は困るんですけど」
個人的にね……。
「毒? 死因などなんでもかまわん。潔く喉を掻っ切ったことにしておけ」
なんでもいいんだ……。
しかし、そうなるとあの偽装工作が裏目に出てしまう。
だれが見てもわたしが殴り殺したように見えるように、わざわざ遺体を損壊までした、あの偽装工作が。
「あの、ご遺体とか、回収しますよね?」
「あれでも貴族だからな。放置というわけにはいかん。最終的には叛乱者として犬に食わせるんだろうが、死体は王都に持ち帰る」
「でも殴っちゃったんですけど。わりとこう、強めに。陥没してるっていうか。他殺にしか見えないっていうか」
わたしは再現するように空中で素振りをしてみせる。
将軍はうなずいた。
「焼け」
「焼く」
「やつが自害した後、部屋が火災で崩落して死体を損壊した。死体はあればいい。状態は問わん」
なんてお早い判断。
本当に仕えたくなってきた。
「ただですね、けっこうな数の目撃者がいるんですよ」
「アミリアヌス兵だな。まったく問題ない。こちらで手を打っておく」
事実無視。
無視どころか、将軍は詳細な事実を確認しようともしない。
どうでもいいんだ。
彼にとって重要なのは、アミリアヌスが死んだという事実をどう処理するかであって、どう死んだか、なぜ死んだか、そんなことはどうでもいいのだ。
むしろ事実のほうを自分の都合に引き寄せて、ストーリーをでっち上げようとしている。
うーん。
なんかシコシコ偽装工作してたのがバカらしくなってきた。
「俺からはこんなところだ。なにかあるか?」
「1つ聞いてもいいですか?」
「聞かれないとわからん」
たしかにそうだ。
バカな質問だった。
「アミリアヌスはなんであんなことをしたんでしょうか?」
「やつは王都で政争に負けた」
「……」
「……」
「…………?」
えっ、もう終わり?
それだけ?
「でも、政争に負けたからって、クーデターなんか起こしてなんになるんです?」
「政争に負けた貴族は処刑される運命だ。一か八かってところだろう」
「あぁ、そういう……」
どうせ処刑されるのだから、ミルトンを乗っ取って籠城しつつ、ワンチャン戦争に勝てれば……と。
ただのヤケクソに大勢巻き込んだのかよ。
その挙句、猛将が出てきたことにビビリあがって戦いもせずに自害するなんて、あれだけアピールしてた騎士の誇りとやらはどこにいったんだ?
バカの自爆に巻き込まれる身にもなってほしいものだ。
「えっと、つまり。わたしは、三部会の代表者を確定させて、バカの死体を焼いとけばいいんですね」
「そうだ。消し炭にしておけ」
「あと、バインバイン」
「それは場を和ませる冗談だ」
「バインバイン?」
「バインバイン」
有意義な会談であった。
―――
わたしはディ・ソラリ軍の軍営を出ると、グネヴィアの家に寄ってみんなと合流した。
幸い、みんなケガひとつなく無事だった。
それからミルトンに戻り、旧三部会の代表であるワグネリアと大神官ガルディオ、そして新三部会(仮)の代表であるカイシンとリュドミラを集めて事後処理について相談した。
緊急のことだし、今回は新三部会のわたしたちが代表者としてディ・ソラリと面会することになった。
クーデターを防げなかった旧代表者では、ディ・ソラリが首を縦に振らないだろうと予測できたからだ。
それと。
アミリアヌスの死体をバーベキューすることも忘れなかった。
もちろんみんなには内緒で。
司法解剖の魔術とかあると厄介だから、念のために炭火でじっくり二度焼きしておいた。
もはやDNA検査できるかどうかすら怪しいくらいの黒焦げに。
バーベキューシェフとしては失格だ。
こんな黒焦げ肉を食わされる犬は大変だなー(他人事)
みんな、テキパキと物事を進めるわたしの手際の良さに感心していた。
えっへん。
しかし、最後に「おっぱいバインバインのキレイどころの姉ちゃんを集めてほしいんですけど!」と言うと、みんなから将軍のスパイ扱いされた。
なんでだよ……接待上手と言ってくれよ……。
―――
翌日。
ディ・ソラリ軍の歓迎会は小規模ながら開催され、わたしの尽力の甲斐もなく残念ながらバインバイン成分は除外されたものの、つつがなく終了した。
ディ・ソラリはたった5分の面会時間でわたし含む3人を新三部会として認めた。
その翌日には事後処理をすべて済ませ、軍をまとめて帰っていった。
本当に忙しいようだ。
バインバインを用意できなくてごめんなさい、ディ・ソラリ兵のみなさん……。
こうしてアミリアヌスのクーデターは、すべて終結した。
でも。
「夜会」に備えているんじゃなければ、いったいなんで将軍はそんなに忙しいんだろう?
まあ、わたしにはもう関係ないか。
ディ・ソラリにはもう一度「夜会」について警告をしたし、援軍の準備をするように頼んだ。
彼は「任せろ。為政者にかけあう」と快諾してくれた。
本気かどうか、わかったもんじゃないけど。
だって、あの男は嘘つきだから。
2章終わりです。
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