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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
2章

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51話「誘拐……?」


 朝になった。


 総督府の建物から伯爵家の紋章旗が下ろされ、今はミルトンの自由市民旗が朝日の下に燦然と輝いている。


 建物前の広場では、武装解除に応じて投降した兵士たちが並んで座っている。


 どの顔も疲れて不安そうだけど、どこかほっとしような雰囲気もある。

 先の見えないどん詰まり状態がひとまず終わったからかもしれない。


 武装解除の処理をやっているのはリュドミラ配下の魔術師たちと冒険者たちだ。


 ミルトンの市内各地には、叛乱に加担した兵士や脱走兵がまだ散らばっているけど、彼らが武装解除するのも時間の問題だろう。


 なにしろ首謀者が死に、本拠地が落ちたのだから。



「終わったー」



 わたしは解放感に浸りつつ、全身をストレッチした。


 思ったより疲れが溜まっている。

 肉体的に疲れたというより、精神が肩こりしたという感じだ。


 カイシンは無事地下に囚われた人々を助け出した。

 生臭坊主も意外とやるときはやるもんだね。


 ゴンドも無事だったのでほっとした。

 とくにケガもなく元気そうだったけど、念のため、解放された人たちといっしょに神殿で治癒術を受けている。


 これにて一件落着。

 そう思ってた。



「おつかれー!」



 後ろからいきなり抱きつかれた。


 肩越しに見ると、リュドミラだった。

 リュドミラが動くたびに長い耳が頬っぺたでこすれてこそばゆい。

 背中におっぱいの柔らかい感触がする。


 スレンダーに見えるのに、意外といいカラダしてやがんな、この女。

 うらやましい。


 獣人は人間とは脂肪や筋肉のつき方が違うんだろうか?



「でもまだ終わってないよ、クロちゃん。ディ・ソラリを止めないとねえ」


「それはわたしじゃなくても」


「叛乱者を討ち取った英雄が交渉するのがいちばんだって。あっちは討伐軍の指揮官なんだから、おたくの話を聞かないわけにはいかないっしょ」



 まあそうなるか。

 ああ、めんどくさい。


 首謀者ぶっ殺して終わり! 解散!


 それなら楽なのに。

 やっぱ戦ってダメだな。


 今さらながらに反戦気分になっていると、街路の向こうからテルマが走ってくるのが見えた。



「たいへんだ、ヨシ姉!」



 テルマは血相を変えている。


 今度はなんだよ……。

 こっちは徹夜で1人殺して偽装工作してもうクタクタなのに。


 今さら慌てなきゃいけないほどたいへんなことなんて……。



「ベスがさらわれそうなんだ!」



 あった!?

 それはほんとにたいへんだ!



「どういうこと?」


「わからない。突然ディ・ソラリ将軍の兵がグネヴィアの家に来てベスを連れていこうとした。エリンとワグネリアが止めようとしたけど、この状況だろ?」


「兵を勝手にぶっ殺すわけにもいかない、と」


「ぶっこ……そうなんだ。だからワグネリアがヨシ姉を呼んで来いって」



 おっと、ついやさぐれメンタルのまま物騒なワードを使ってしまった。


 グネヴィアの家にいるエリンたちはまだクーデターの終結を知らないはずだ。


 事情もわからない状況では、討伐軍であるディ・ソラリの兵を実力で排除するわけにもいかなかったのだろう。


 うん。

 わたしもさっぱりわからん。

 行ってみるしかないな。


 わたしが肩越しに見ると、リュドミラがうなずいた。



「いいよ、行きな。こっちはやっとく」


「ありがとう。あと」


「それもやっとくよ」



 それ、とはまだワグネリア工房で凍りついたままになっている職人たちの件だ。

 ことが片付いたら彼らを解放する約束だったのだ。


 よかった、忘れられてなかった。




―――




 城門が開いていた。


 開け放たれたばかりの城門を通って、森に向かおうとした。

 すると、街道の向こうから騎馬が2騎、土煙を上げながら駆けてくるのが見えた。


 今この辺りで活動する騎兵は、ディ・ソラリ軍だけだろう。

 城門が開いたから斥候が様子を見にきた、というわけではなさそうだ。


 案の定、騎兵は迷わずにこっちへくる。


 武装はしているけど、ガチの戦装束ではない。

 クーデターが終わったことをすでに知っているのだろう。


 騎兵は馬を止めると、すぐに口を開いた。



「馬上から失礼。そちらはスズキ殿とお見受けする」


「そうです」


「ディ・ソラリ将軍がお呼びだ。我らの陣まで来てほしい」


「それは強制ですか? わたし用があるんですけど」


「頼んでいる。だが、おそらくその用とやらも、我らの陣にいる」



 陣に『いる』。


 ベスはすでに連れ去られた後、ということか。


 討伐軍がベスを連れ去る動機がわからないし、将軍がわたしを呼ぶ動機はもっとわからないけど、その2つが連動していることは確かだ。


 ひょっとしたらディ・ソラリは、わたしが新三部会の代表者になったことを知っていて、戦後の先手を打ちにきたのか?


 ミルトン側は、アミリアヌス死亡の事実をもってこの騒動の幕引きをして、騒動前のように自由都市としての身分を保ちたい。


 将軍が王都から与えられた命令が、それを阻止することだとしたら?


 ……納得がいく。


 三部会を解散させてミルトンの自治権を奪い、正式に王国の領土にする。

 そのためには、きれいな幕引きをさせたくないはずだ。


 わたしに言うことを聞かせたいから、ベスを人質にとった?


 そりゃ、ベスを人質に取られたらお手上げですよ。

 なんでも言うことを聞きますとも。


 猛将という評判と、子どもを人質に取るという卑劣な行為が結びつかないけど、戦国武将みたいなものだと思うしかないか。


 ただ、話ができすぎているような……?


 ほんの1日前までただの一般人だった鍛冶師がミルトンの要職についたのを知っていて、さらにその鍛冶師が少女の面倒を見ていることを知っていて、交渉を有利に進めるために誘拐した。


 そんなことあるか?

 将軍が有能なんだとしても、いくらなんでも知りすぎている。


 それに、ベスがグネヴィアの家にいるのを知っていたのはごく少数だ。



「テルマ、エリンたちが気になる。様子を見に行って」 


「ヨシ姉1人でだいじょうぶか?」


「なんとかなる」



 なんともならないかもしれないけど、そう言うしかない。


 本当はわたしも予定通りグネヴィアの家に直行したい。

 でも、この騎兵たちが行かせてはくれないことを肌で直感した。


 態度こそ穏やかで礼を失してもいないけど、命じられたことは絶対に遂行する、という意志がビリビリと伝わってくる。


 アミリアヌスの兵士とは根本的に質が違う。


 リュドミラが、ディ・ソラリ軍とアミリアヌス軍が衝突すればあっという間に決着がつく、と評価していた理由がわかった。


 『鑑定』してみると、やはりパラメータの数値も違う。


 アミリアヌス兵は平均12くらいで、通りすがりのおっさん(一般人代表)に毛が生えた程度の能力だったのに対して、この騎兵は平均15くらいある。


 平均15は、冒険者のランクでいえばDの下くらいにあたる。


 平均するとたいしたことない差のように思えてしまうけど、個々のパラメータを比較すると段違いの差なのは明らかだ。



---

名称       力  知力 魔力 耐久 速度 平均


おっさん     10 10 10 10 10 10


街の力自慢    16 10 10 10 10 11.2


アミリアヌス兵  16 10 10 12 12 12


ディ・ソラリ騎兵 19 13 13 16 14 15

---



 こんなのが200人も集まって統率がとれているなら、軍としての強さは推して知るべしだ。


 それに彼らは伝令役。

 将軍の側近ともなれば、もっと能力が高いはず。


 相手の意図がわからない以上、争いは避けるべきだろう。


 テルマが森に走っていくのを、やはり騎兵は捨て置いた。

 そっちに用はない、と。


 やっぱ用があるのはわたしだけってことか。

 

 わたしは騎兵に従って後をついていくことにした。



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