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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
2章

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50話「死因」


 3階は静かだ。

 もう誰もいないのか、総督執務室までフリーパス状態だった。


 執務室のドアの前で気配を窺っても、室内から物音はしない。


 アミリアヌスはもう逃げてしまったんだろうか?


 そう思いながらドアを開ける。

 鍵はかかっていなかった。


 部屋に入ると、いかにも貴族趣味っぽい調度品がお出迎えしてくれた。


 高級そうな銀食器が並んだ食器棚。

 珍しい動物のはく製。

 中央には黒光りする大きな木製の執務机がある。


 執務机の上に、見覚えのある白いモフモフの物体を見つけた。

 物体というか、小動物。


 なんだっけ、あれ……?

 わたしは必死で記憶を掘り起こす。



「あっ! ウサギっ!?」


「んにっ……?」



 執務机の上で丸まって寝ていたウサギがもぞもぞと顔を上げた。


 やっべー。

 ウサギの存在、素で忘れてた……。


 ヒドンガルドに旅立つ前、ゴンドに預けてそれっきりになっていた。

 たぶん、ゴンドが逮捕されたときいっしょに捕まったんだろう。




 ウサギはわたしを見ると、あっという間に不機嫌そうになった。

 不機嫌そうな小動物というのもなかなかレアだ。


 よし、勢いでごまかそう!



「ウサギー!!! 元気だったーーー!?」


「おい」


「会いたかったよぉ!!! 感動の再会だねーーーっ!!!」


「おい、勢いでごまかそうとするななのじゃ」


「うっ……」


「おぬし、わしのこと忘れておったじゃろ? 完全に忘れておったんじゃろ?」


「なななわけないでしょ。毎日心配で、魚の酢漬けも喉を通らなかったんだから!」


「おぬしが元から嫌いな食べ物なのじゃ」


「はっ、ははは。ごめん……」


 と言ってから、そばに食べかけの骨付きステーキ肉があることに気づいた。


 ウサギがさっと動いて皿を隠す。


 さては……餌付けされてたな。

 そういえば、心なしかふっくらとして肥えているような。


 どうやらこの世界には兎がいないらしいので、珍しがったアミリアヌスがペットにしたんだろう。


 この世界の住人はウサギを見るとだいたい「ネズミ」と認識して興味を失うのに、意外と見る目あるな、アミリアヌス。



「兎が肉食ですか~?」


「ふんっ。人間にまずい植物を食べるように命じておきながら自分はうまい肉と酒をかっくらう、それが神というものなのじゃ」



 ろくでもない連中だな……。


 にしても、肉食を覚えられてしまったのは地味に痛い。

 工業都市であるミルトンでは獣肉は高い。


 その辺の草でも食わせておけたときはタダ同然で面倒を見れたけど、毎日肉の出費がかさむとなると頭が痛い。


 なにしろわたしは借金まみれだ。


 この決死の突入前に「遺言でも書いておくか?」と思ったけど、遺すものをなにも持ってないのでやめたくらいだ。


 工房はただの借家だし、財産と呼べるものはなにもない。

 動かしている金はそれなりに大金だけど、わたし個人には金などない。


 自慢じゃないけど、ミルトンでもっとも個人借金額が多いのはなにを隠そうこのわたしだ。

 そこらじゅうから金を借りまくっている。


 おかげで、わたしが死んだら借金を取りっぱぐれて損をする人たち同士がけん制し合って、暗殺者など送らないように目を光らせてくれているくらいだ。


 それくらい金がない。



「金もないし、捨てるか?」


「神を捨てるつもりかおぬし!? 考えなおさないとダメなのじゃ!」



 おっと、つい言葉にしてしまっていた。


 まあいいや。

 今は肉欲に溺れた草食獣の処遇は後回しだ。



「ねー、ご主人さまはどこ?」


「さあ? さっきまでそこに座って貧乏ゆすりしてたのじゃ」



 やっぱアミリアヌスをご主人さまと認識してるのかっ……!


 ウサギが顎をしゃくって示したのは執務机の椅子だ。


 貧乏ゆすり。

 追いつめられたストレスかな?


 当然、今はいない。



「さっきって、いつ?」


「んー。鶏が鳴いておったような……」


「朝じゃん。軽く10時間以上前じゃん。もうほぼ昨日じゃん」


「行くところもあるまいし、そこらへんにおるじゃろ?」



 と、主人を探すようにキョロキョロしたウサギが、ピタッと動きを止めた。


 床を見下ろし、一点を見つめ、微動だにしない。


 なんだ?

 なにを見つけたんだ?


 執務机を回りこみ……わたしも発見した。




 倒れているアミリアヌスを。




 口から泡を吹いて。

 横には空っぽの瓶が転がっている。


 それはわたしの工房から盗んだ、毒素材の原液の瓶だ。


 大サソリの弱毒で死に至ることはほとんどない、といってもあくまでそれは「少量なら」の話だ。


 濃縮された抽出液をひと瓶まるごと飲み干せば、余裕で致死量になるだろう。


 アミリアヌスが毒を飲んで自害。

 これにてクーデター騒ぎは終結。

 めでたしめでたし!




 ……というわけにはいかない。


 よくない。

 この状況はいただけない。



「これって毒死だよね」


「そうじゃな」



 よりによって、わたしの毒で。


 ……そうはさせない。


 わたしは空の瓶を拾い上げて、懐にしまいこんだ。

 布を取り出して、アミリアヌスの口元の泡をきれいに拭き取る。



「なにをしておるのじゃ?」


「証拠を隠滅している」


「犯人!?」


「いやちがうけど」



 元々、武装解除と即時投降に応じなかったらアミリアヌスのことをぶっ殺すつもりでこの部屋に入った。


 だから、こいつが死体になっていること自体はなにも問題じゃない。


 だけど死に方は問題だ。


 わたしが決死の突入の果てに討ち取った、という形なら問題ない。


 また『黒の魔女』の悪名が大きくなりそうだけど、とりあえずこのクーデター騒ぎは終わる。


 しかし、毒で自害という形はまずい。

 とくにわたしの毒で。


 これからわたしがやろうとしている計画の妨げになる可能性がある。


 なにしろわたしは毒武器を作るつもりなのだ。

 まあ毒に限った話じゃなくて、麻痺や睡眠、その他あらゆる状態異常を武器に付与するつもりだけど。


 なので、毒のイメージが悪くなるのは困る。

 非常に困る。


 素材が手に入りにくくなるかもしれないし、へたをすると毒そのものの扱いの禁止を求める声があがるかもしれない。


 毒を適切に保存しなかったわたしの責任が問われる可能性すらある。


 だから、こいつにはわたしの毒以外の方法で死んでもらう必要がある。




 わたしはアミリアヌスの死体を引きずって執務机と入り口の間に移動させる。


 しゃがみこんで、こん棒をかまえて、何回か素振りをしてみた。



「なにをしておるのじゃ……こわいのじゃが……?」


「いま忙しいの」



 力加減を間違えると頭部を消滅させてしまう。

 さっきみたいにペイントアートになられちゃ困る。


 そんなことになったら「はたしてこの死体は本当にアミリアヌス卿のものなのかね?」なんて陰謀論を唱える迷探偵が出現して、さらにめんどうなことになりかねない。


 顔はきれいに残す必要がある。


 狙いは側頭部。

 少し陥没するくらいの力加減で。


 殴った。




―――




 アミリアヌスが撲殺死体に生まれ変わってから1分後、配下の兵士たちが駆けつけた。


 亡骸になった主君と血塗られたこん棒を手にした『黒の魔女』を交互に見比べて、なにが起こったのかをすぐ察した。



「わたしは剣聖を倒した者、鍛冶師スズキです。叛乱者アミリアヌスは討ち取りました! これ以上の戦闘は無益です! 武器を捨てて投降してください!」



 残党たちは、あきらめて武器を捨てた。


 これで。

 ようやくクーデター騒ぎは終結だ。



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