47話「新三部会」
隠れ家の一室。
新三部会(笑)代表による密会がはじまった。
気を利かせたデンゼマが、
「三部会の会議にはふさわしい場所が必要だろう。存分に話し合ってくれ」
とかなんとか言って個室を用意してくれたのだ。
デンゼマはどこまでも生真面目な男だ。
まさにいらぬ気遣いってやつだよ……。
わたし、リュドミラ、カイシンの3人はその個室に移動した。
カイシンは最後まで嫌がっていたけど。
なんならわたしも嫌だけど、もはや引くに引けない状況になってしまった。
さっそくリュドミラが口火を切った。
「んじゃ、突入メンバーを決めまーす」
「突入って。どこに」
「総督府に決まってるっしょ」
頭おかしいわ、ほんと。
今この街でもっとも兵士が多く、もっとも厳重な警備態勢が敷かれる、もっとも危険な場所。
それが総督府だ。
ふつうならそこだけは避けてなんとかしようという話になるはずなのに、この女はそこにカチコミかけようと言いはじめたのだ。
魔術学院の「猟犬」と呼ばれてるらしいけど、こうなるともう「狂犬」と呼ぶべきだ。
わたしの引きつった顔を見て、リュドミラは意外そうにした。
「黒魔女ちゃん、さっきまでノリノリだったじゃん。なんで引いてんのさ」
「引くでしょ……」
思いかえせば、リュドミラの過去の行動はカチコミばかりだ。
まず三部会の会場にカチコミをかけたことに始まり、つぎに廃都へのカチコミを画策し、敵の兵器製造工場(旧ワグネリア工房)にカチコミをかけ、そして隠れ家にカチコミしてきた。
選択肢が複数ある場合、この狂犬は必ずカチコミを選ぶ。
そして確実にだれかが傷つく。
近くにいたら死ぬ。
絶対死ぬ。
なんとかして距離を置かないと。
「状況わかってる? けっこうやばい状況だよ、ミルトン」
「重々わかってますけど」
「ふーん。ずばり、今、だれが一番危険な敵でしょうか?」
「そんなのアミリア」
「ぶっぶー! 不正解!」
リュドミラが手でバツを作った。
嫌なクイズ……。
正解してもろくなことがなさそうだし……。
「あいつはもう死んだも同然。アタシたちの脅威はディ・ソラリと先遣隊」
「それ討伐軍でしょ? ミルトンを解放しにきた味方ですけど」
「みかた……? ははっ」
鼻で笑いやがった……。
「王がこんなに早く側近中の側近の将軍を出してきたのは、まさにミルトンを解放させるため。けど、ミルトンを救うためじゃない。むしろ逆」
「逆?」
「このままディ・ソラリの精兵がアミリアヌスの弱兵と戦ってミルトンを攻め落としたらどうなると思う?」
「どうなるって。平和に――」
「ぶっぶー! 不正解! そんなセンスじゃ乱世を制覇できないよ?」
そんなものぜんぜん制覇したくないし。
ほんとうに嫌なクイズだ。
だれか交替して欲しい。
と思ったらカイシンのやつは膝に手を置いて壁の一点を凝視している。
一切かかわらぬ、というアピールか。
あんたが尾行されたせいでこうなってるんだが。
「叛乱軍は全員処刑。混乱を収めたディ・ソラリ軍が駐屯してミルトンの自治は終わり! なし崩し的に王国に併合。さよならー自由都市ー」
話の要点はわかった。
やけに早く王がアミリアヌスを叛乱者認定して討伐軍を派遣したのは、この混乱に乗じてミルトンを正式な領土に加えるため、と言いたいのだろう。
「だから、アタシたちの手でこの街を解放しなきゃいけない。理解?」
「した」
残念ながら。
総督府にカチコミをかけるのが、ただの無謀な行為とは言えないことはわかった。
ディ・ソラリの軍はもうすぐそこまで迫っているからだ。
平和や治安維持の名目で他国の軍が一時的に駐屯する。
一時的のはずが数年になり、気がつけば数十年に。
どっかで聞いたことのある話だね。
外部の軍を引き入れることにはそういうリスクがあるから、ちんたらやってる時間はないということだ。
リュドミラが新三部会の就任文書をでっち上げたのも、急ぐ必要に迫られたからかもしれない。
「それに兵士が可哀想じゃん? ディ・ソラリは全員処刑するよ?」
「それは、まあ……」
叛乱軍として討伐対象にされている兵士たちは、元々アミリアヌスの無謀な野心に巻き込まれただけで、ある意味最初の被害者と言えなくもない。
もし両軍の間で戦闘が発生し、毒武器が猛威を振るった場合、最後の犠牲者になるのは焼け焦げた女鍛冶師かもしれない。
わたしは肚をくくった。
「速やかにアミリアヌスを倒して兵士を武装解除。無血開城する。討伐軍には手出しさせない」
「そうそうそれ! なんだーわかってんじゃん!」
「……だからと言って、わたしたちが突入する必要は」
「ある。今後の統治を考えると、アタシら新三部会の手柄がいるじゃん」
「は?」
「夜が来るってのにさ、旧体制の連中、その準備もしないで内乱祭りやってんだよ。そこいくと、クロちゃんは耐性防具で戦力を強化、カイシンさんは回復薬開発。そうやって夜に備えてる。どっちが統治者にふさわしいか明らかじゃん」
突然名前を出されたカイシンがびくんと身を震わせた。
いい気味だ。
おまえも巻き込まれるんだよ。
わたし1人では絶対に逝かないぞ……。
というか、クロちゃんはやめろ。
なぜだか説明はできないけど、やめろ。
「そもそもこうなったのは旧三部会の連中が使えないからじゃん? アミリアヌスはクズ。ガルディオは耄碌ジジイ。ワグネリアは政治オンチ」
「え、ワグネリアも?」
「最悪まであるね。この状況で外国勢力を引き込もうとするなんて悪手にも程がある。国王が黙ってるわけないっしょ。猛将ディ・ソラリが出てきたのはワグネリアのせいみたいなもんでしょ」
「まあそう言われてみたら……」
「ねっ! あいつらクビにして、やろうよ、アタシたちで新三部会!」
リュドミラは満面の笑顔。
ぜんぜんやりたくない。
この先の話には絶対に発展させちゃダメだ。
話を戻そう。
「わかったから、そろそろ突入作戦の話をしない?」
「いいよ」
リュドミラはそう言って、テーブルの上で手を一振りした。
なにもなかったテーブルに青白い光の図形が出現する。
どうやら総督府周辺の地図を、魔術で描いたらしい。
「突入部隊は3つに分ける。まず陽動部隊は、兵が守備を固めてる正面で兵士たちの注意を引きつける。これはアタシと部下が受け持つ」
総督府の正面玄関側に人型のトークンが数体出現した。
「その隙にカイシンさんは冒険者たちと裏口から侵入して。地下の囚人たちを解放。人質にされると厄介だし」
「拙僧が!? なぜゆえ!?」
「だって、動けないケガ人とかいるっしょ。連れ出すためには治癒術が使える人じゃないと。あ、聖職者なのに無実の囚人見捨てちゃう?」
カイシンは歯ぎしりしたけど、反論しなかった。
悪臭をまき散らすボロ布は着ても、無実の人を見捨てるという汚名は着たくないらしい。
ちなみに今日は悪臭はひかえめだ。
じゃないと狭い密室で全員窒息死している。
できれば、わたしも囚人解放部隊に参加したい。
この数日の偵察で「ゴンドらしき人が総督府の地下牢に囚われている」という情報を掴んでいたからだ。
迷惑をかけたんだし、自分の手で助け出したいという気持ちがある。
あと……この陣容、ものすごく嫌な予感がするし……。
「あのーわたしも人質解放のほうにー」
「おたく治癒術使えたっけー?」
「ぐっ……」
黙らされた。
リュドミラは裏口に人質解放部隊のトークンを設置した。
「で、最後の部隊はここ」
と、正面玄関の横に人型のトークンを置いた。
きっとあれがわたしなんだろうなあ……。
部隊なのになんで1体しかないんだろうなあ……。
あ、そっかー『隠れ身のマント』があるからかー。
敵に丸見えになっちゃうから誰も同行できないもんねー。
「アタシらが騒ぎを起こしたら、正面から入って。そのマントがあればいけるっしょ。で、総督執務室は3階だから。さっさとぶっ倒しちゃって。なんだったら殺してもいいから」
「ワタシタダノ鍛冶師。戦闘力ナイ」
「またまた~。剣聖を軽く捻った強者がなにをおっしゃいますやら~。今回もかるひねしちゃってよ!」
はあ、またそのパターンか……。
ちゃんと否定しとかなかったせいで、一騎当千の手練れだと思われちゃってるよ……。
まあなんとかなるか。
「インビジブル」でこっそりアミリアヌスの背後に忍び寄って後頭部をフルスイングすればいいだけだし。
「そうと決まれば、さっそく行くよ! 新三部会ゴー!」
「待った。その前に話がある」
「なになに?」
「職人たちにかけた魔術を解除して」
リュドミラは、はて、という感じで斜め上を見た。
こいつ、てめえが凍らせた被害者のことを忘れてやがる……!
「あ、アレね。わかったわかった」
「ちゃんと約束して」
「約束する。この導師リュドミラ、嘘をついたことはない」
それがすでに嘘なんだけど……。
まあ、やってくれると信じるしかない。
「んじゃ、あらためまして。新三部会ゴー!」
「おー……」
わたしとカイシンは気のない声をあげた。
これにて第一回新三部会終了。
第二回は、けして訪れない。
訪れさせてはいけない。




