46話「潜入6 冤罪」
討伐軍の先遣隊がミルトンまで1日の距離に来ている、という噂はあっという間に街中に広がった。
先遣隊の兵数は約200。
そしてそれを率いているのは王国戦士団団長ディ・ソラリ将軍。
「懐刀と名高いディ・ソラリを先遣隊の指揮官に選んだことから、王の本気がうかがい知れる」
……というのがデンゼマの評価だった。
わたしは王国の将軍なんて知らないからよくわからない。
それにしても。
たしか……前の知らせでは「王都で討伐軍が編成されている」という話だった。
それが「進発した」という報せよりも早く、「到着間近」という報が届くなんて尋常な進軍速度じゃない。
どうやらその将軍はかなり有能なようだ。
ほぼ時を同じくして、他の知らせももたらされた。
今回は噂ではなく、三部会の公式文書という形をとって街中に配られた。
その公式文書とやらの内容をかいつまむとこうだ。
---
1、総督は叛乱者、ワグネリアは国外逃亡、大神官は統治を放棄
ゆえに全員三部会代表者として失格とする
2、商工会議副議長ヨシノ・スズキが代表代理に繰り上げ
3、神官長セヌアス・カイシンが代表代理に繰り上げ
4、空席となった最後の代表資格を継承順位第4位の魔術学院から臨時学院長代理リュドミラが継承
---
つまり。
この文書は「わたし、カイシン、リュドミラ」の3人が新しい三部会代表だと主張しているのである。
なにこれ……?
なにがなんだかよくわからないけど、いつの間にかすんげーやっかいなことに巻き込まれてる。
しかも名前がリストの一番上にあるとか、まるでわたしが首謀者みたいに見えてしまうじゃないか。
やってくれたなリュドミラ……。
間違いなくあの女の仕業だ。
自分の名前をリストの最後におまけみたいにこそっと載せるあたりがいやらしい。
隠れ家に集った同志たちは惑わされないだろうけど、なにも知らない人はわたしを、権力奪取を目論む第2のアミリアヌスと思いかねないぞ。
ん?
なんか妙な視線を感じるような……?
みんながわたしを見ていた。
完全に電車で女子高生に手をつかまれたおっさんを見る目だ。
ひそひそと囁き合っている連中もいる。
「こいつ、やったな」
「ああ、99.9%有罪だ」
「もう100って言ってよくねー?」
みたいな。
同志にめちゃくちゃ疑われてる!
いかん、疑いを晴らさないと。
「デンゼマさん、わたしじゃないですからね」
「そうか」
「いやいやいや。そうか、って! それ信じてない人の言い方ですよね? 信じてくださいよ!」
「しかし、君に権力志向があることはわたしも知っている」
「ないですってそんなもん!」
「だが、以前交渉のとき、君は『天下を取ってやりますよ』と豪語していなかったか?」
言ったよ!
言ったけど!
そういう意味じゃないし、ただの冗談だって!
真顔やめてマジで。
あんた生真面目すぎるよ!
「この街に来てから1年もたたないのに、君は商工会議副議長の地位に登りつめた」
「つめてないです! 副議長になった覚えなんかないですから! というかそんな役職たぶんないですし!」
くすくす、と冒険者2が失笑した。
こいつ必死だなーもうネタ割れてんのになー。
みたいに。
腹立つなあ!
そうだ、カイシンも立場は同じはず。
「カイシン、あんたもなんとか言って!」
「弁明は自分でするべきであろう。拙僧を巻き込むのはやめていただきたいものだ」
「ちょ、なんで他人事!?」
やめろ!
迷惑そうに眉を顰めるな!
あんたの名前もリストに載ってるでしょうが!
「こほん。拙僧から言えることは1つ。かつてスズキ親方は、自らの利権拡大のために大掛かりな策を弄して神殿を罠にかけた。それを足掛かりに今の地位を築いたのだ。身震いするほど恐ろしい策略家である」
おいこら悪ノリで盛るのやめろ。
なんならおまえだけは真実を掴んでいるじゃないか。
そこの冒険者3もヒューっとか口笛を吹いてるんじゃない!
こんなときに限ってテルマはワグネリアとの連絡役で外に出てるし……。
もうダメかもしれん。
せめて裁判を、公正な裁判を受けさせてくれ……。
あ、ダメだ。
この街の裁判では三部会の代表が判事になるのが慣例だった。
公正なわけがない。
もう詰んでるじゃん。
……。
……ん?
三部会の代表……?
……。
…………。
……………………。
よーし、おめーら後悔しろよ。
おめーらがそそのかしたんだからな。
権力の化け物を生みだすのは、人を信じることのできぬ弱い心だと知れ!
「わたし、三部会代表代理ヨシノ・スズキは今ここに宣言する! 己の潔白を証明するために三部会を招集する!」
ビシっと言ってやると、みんなはポカンと口を開けた。
「貴女はなにを申しておるのだ?」
「だってみんなが言ったんじゃん! わたしが三部会代表の地位を乗っ取ったって! 乗っ取りだろうがなんだろうが代表なんでしょ! 招集したっていいじゃん!」
「そんな子どもみたいなことを申すな。見苦しい」
見苦しかろうが押し通る!
「その文書は正しい。完全に正当。総督は叛乱者、残りの2人も国外逃亡と統治放棄したから、実際にこの街の正当な権力は空白みたいなもんでしょ? だったら、わたしとカイシンとリュドミラが代表代理になるっていうのも筋が通っている」
「なにも通っておらぬ! そも、貴女はワグネリア親方がどこにいるか知っているではないか!」
「わたしが知ってるって証拠なんかどこにもないしー」
カイシンがあからさまに「しまった!」という顔をした。
調子に乗ってわたしを追いつめるからだ。
だが、もうちょっと遊ばせてもらうぞ。
「ラッキーなことに、ここにはわたしとカイシン、2人の新代表代理がいる。あとはリュドミラをここに呼べば三部会開催できるじゃん! ほら、早く呼べよリュドミラを! ほらほらほらァ!」
「その話、乗ったぁ!!!!!」
……は?
振り向くと、セーフハウスに入ってきたばかりと思われるリュドミラが立っていた。
「いやぁ、説得どーすっかなーって困ってたんだよねえ。話が早くて助かるぅ!」
なぜここに?
この女またインビジブル破りしやがったのか?
わたし魔術師きらい。
「あ、神官長を尾行してきました。背中には気をつけないとねえ」
「なんだよただの尾行かよ!」
「つか、これだけ人が出入りしていて隠れ家もクソもないっしょ」
まあ、それはたしかに……。
もはや誰が隠れてるんだかわからないくらい人の出入りが激しい。
いや、今はそんなことより、この女を黙らせなきゃ破滅する!
しかし、リュドミラの動きのほうが素早かった。
バン! と壁を手で叩いて宣言した。
「ただいまより、新三部会を開催しまぁす!」




