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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
2章

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45話「潜入5 セーフハウス」


 地下扉の奥には思ったよりも広い空間があった。

 どうやら昔は酒場だったらしい。


 客席フロアとして使われていた大きな部屋があり、他にも元厨房、元食品倉庫などいくつか小さな部屋がある。


 そこそこ人気のある酒場だったけど、じつは暗殺者ギルドが密かに仕事を請け負うための場所として経営していたことが発覚して、潰された経緯があるらしい。


 そして、今は冒険者ギルド支部長のデンゼマが隠れ家として使っているというわけだ。


 なんだかスパイのセーフハウスみたいで興奮する。



「無事でなによりだ、スズキ親方」



 デンゼマが言った。

 Dランク防具をギルドに正式採用してもらうとき、交渉の席で何度か会ったので知った仲だ。


 身長は2メートル近くある。

 あいかわらずデカい。

 この図体では目立ちすぎて街をうろつけないのもうなずける。


 デンゼマは生真面目な男だ。

 生真面目すぎると言ってもいい。


 交渉してたとき、細かい点を気にするあまり何事も決定が遅くてイラついた記憶がある。


 ガタイはいいのに冒険者として大成できなかったのは、生真面目すぎて要領が悪かったせいだと本人も自嘲していた。


 でもその性分のおかげでミルトン支部の統括を任されてるんだから、人には向き不向きがあるってことだろう。


 それに、日ごろから細かいことまで想定して備えていたおかげで、この隠れ家が役に立っているわけだし。


 この隠れ家はかつて暗殺者ギルドの根城だっただけあって、場所を知らない者にはたどりつけないようになっているらしい。


 わたしの『隠れ身のマント』の拡大版ってところだろう。


 ……そう考えてしまうといまいち信頼できないけど。




 隠れ家には、数人の冒険者がいた。

 いずれもDランク以上の手練れ……と見た。


 よく知らない連中だから詳しい実力なんてわからないけど。

 なんとなく雰囲気がそれっぽい。


 冒険者1はいつでも立ち上がれるように木箱に浅く腰かけ、冒険者2は壁に腕組みして寄りかかり、冒険者3は周囲を気にせず装備の手入れをしている。


 落ちついた雰囲気がこなれていて、手練れっぽく感じた。

 まあ、ただ落ちついてるだけで思いっきり駆け出しかもしれないけど。


 テルマもいた。

 なんか怒ってる。



「逃げろと言ったのに!」



 わりと本気で怒っているようなので、わたしは素直に謝っておいた。

 このタイプは怒らせると怖いけど、ちゃんと謝れば赦してくれる。


 ……赦してくれるよね?



「でも、待ってくれたのは……その……うれしいよ」



 テルマは照れたようにそっぽを向く。

 じつに愛いやつよ。



「わたしもテルマが無事でうれしいよっ!」



 と、どさくさ紛れにハグしようとしたけど、さらりとかわされた。

 せっかく美人と触れ合うチャンスだったのに、残念……。




 気を取り直して、デンゼマたちにさっき見てきたことを伝えた。


 総督が職人たちに対人間用の毒武器を作らせていること。

 すでに兵士への配備が始まっていること。

 そして、リュドミラのこと。


 ものすごい極秘情報を持ってきた凄腕スパイ気分で話したのに、デンゼマはだいたい知ってた。


 知ってらっしゃるんですかそうですか……。

 そうですよね、素人のスパイごっこの成果なんて、そんなもんですよね……。


 わたしがあからさまにしょげたせいか、デンゼマはフォローしてきた。


「そうだな……猟犬とその手下の動きを知れたのはありがたい」


 お褒め頂けたのはうれしいけど、そうだな、って……。

 なんかむりやり褒めさせたみたいになって、むしろ申し訳ない。




 こちらもデンゼマから話を聞いた。


 街の状況を詳しく聞くと、クーデター軍は暴虐のかぎりを尽くしている、というわけではなかった。


 クーデター軍は武装蜂起のとき、まずそれに従わなかった者たちを捕らえた。


 ミルトンの守備兵はもともと、地元出身の住民兵とアミリアヌスが赴任するときに連れてきた郎党が入り混じる形で構成されていた。


 クーデター軍の主力は当然アミリアヌス郎党の騎士や兵士だ。

 彼らは反抗した住民兵、脅威となる冒険者たちを容赦なく逮捕した。


 あと、反抗的な鍛冶職人も。


 けど、一般市民には手を出しておらず、目立った被害は出ていないらしい。


 まだ、の話だが。

 これからどうなるかはわかったものじゃない。


 すでにデンゼマは王都の本部とのやりとりも開始しているらしい。



「街の出入りができないのに、どうやって?」


「暗殺者ギルドが使っていた秘密ルートがある。以前連中を潰したとき、いざというときのために温存していたのだが、こんな形で役に立つとはな……」



 どうやら暗殺者ギルドを潰したのは現役時代のデンゼマだったらしい。


 わたしも暗殺されそうになったことがあるので、もうギルドが存在していないことには感謝しないと。




 デンゼマの知らせを受けた本部は、権力からの独立不可侵を原則としている冒険者ギルドが侵犯されたことを重くみて、国王に苦情を申し立てた。


 それを受けた国王は、総督アミリアヌスを正式に叛乱者として認定、王都ではクーデター討伐軍が編成されているとのこと。


 ありゃー。

 来るのは援軍じゃなくて、討伐軍でした、ってオチか。


 にしても、このまま事が進めば、ここミルトンを巡って人間同士が戦争することになる。


 そんなことになれば、総督は迷わずあの毒武器を使うだろう。

 人類初の状態異常戦の立役者としてわたしが汚名を残すハメになってしまう。


 それは嫌だ……。


 だって……たぶんリュドミラに焼かれるし……。


 ここが戦場になることだけはなんとしても回避しないと。


 とはいえ、まだ市民の安全が脅かされているわけではないし、すぐにできることもない。


 とりあえずこの隠れ家に潜伏しながらワグネリアたちと協力しつつ街の内外から情報を集め、状況の推移を見守ることになった。


 わたしも「隠れ身のマント」で偵察として活躍することになった。


 ……わたしに着られた「隠れ身のマント」が活躍することになった、と脳内変換してくれていい。




―――




 3日たった。

 あきらかに状況は悪化している。


 自分たちが叛乱軍と認定され、王都で討伐軍が編成されていることをクーデター軍も知ったため、兵士たちの感情に変化が生まれたのだ。


 苛立ち、焦り、絶望感。


 彼らは一般市民にも強硬な態度を取るようになってきた。


 要するに。

 暴力を振るうようになってきたのだ。


 わたしも街の偵察にでたときに見るに堪えない暴行シーンを何度か目撃した。

 このままではヤケになった兵士は、討伐軍と戦う前にひどい惨事を引き起こしそうだ。


 隠れ家の会議でもアミリアヌス兵の暴力化が問題になった。



「このまま放置するわけにはいかないでしょ。なんとかできないの?」


「冒険者ギルドの立場としては言うべきことではないが、一般市民に被害が出始めた以上そうも言っていられないな。もう総督の排除しかないだろう」



 デンゼマが重々しい口調で言った。


 排除。

 お上品な表現で……。



「それって、あんさ――」



 と、わたしが言いかけたとき、外からなにか音が聞こえてきた。


 甲高い、だけど音楽的な音。

 異常を察したテルマが素早く外へ出て行き、すぐに戻ってきた。



「悔やみの鐘が、鳴ってる」



 それを聞いた全員がハッと表情を変え、我先にと部屋を出て行く。


 わたしはなにがなにやらわからないので、遅れて外に行くと、みんなが唖然としたように路上に立ち尽くしていた。


 聞いたこともないような大音量の鐘の音が狂ったように街中に響き渡っている。


 テルマの肩をつついて、説明を求めた。



「あれは悔やみの鐘。だれか偉いやつが死んだんだ」




 ほどなくして、誰が亡くなったのか知らせが届いた。

 いや。

 亡くなるのか、という知らせが。



『討伐軍の先遣隊がミルトンまで1日の距離に来ている』



 それが、悔やみの鐘が鳴らされた理由だった。



「死ぬのはアミリアヌスか……それとも……」



 と、デンゼマが思わせぶりにつぶやいた。



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