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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
2章

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32話「剣聖2」


 相手が聞く耳をもたない以上、とにかく一度彼女を無力化して話を聞いてもらえる状態にする必要がある。


 考える。

 フェリシアはわたしを知らない。

 これは大きなアドバンテージと言える。


 わたしはこの世界の住人にとってイレギュラーな存在だから、初見殺しが通用するかもしれない。


 それに、相手は目が見えない。

 どれほどの実力者であっても、そこに隙はあるはずだ。


 一瞬。

 一瞬でも隙を作ることができれば、一矢報いることができるかもしれない。


 わたしは、逃げるときに握りしめたまま持ってきていたレイピアを見つめた。


 ピンときた。


 これなら可能性はあるかもしれない。

 確信はもてないけど……。

 正直ギャンブルだ。


 けど迷ってる暇はない。


 わたしはレイピアを鞘から抜き、ポケットから取り出した瓶の中身を振りかけた。

 即席だけど、準備完了。


 一撃いれることさえできればなんとかなるかも……。


 そんな淡い希望を抱いたとき。



「あ、そうだ! 先生目は見えないけど、魔術でぜんぶ見えてるよー。たぶんこの街の様子くらいなら、下水道のドブネズミまで見えてると思う」



 エリンがさらっと言い放った。

 絶望的にもほどがある情報を。


 下水道のドブネズミが見えているんなら、裏路地の物陰なんてスケスケの丸見え状態なのでは……?


 案の定だった。



「その武器は常人(なみびと)には使えぬぞ、鍛冶屋」



 と、上からフェリシアの声がした。


 見上げると、月をバックにしてフェリシアが空中に浮いていた。

 月光を背負ったエルフの姿はこの世のものとは思えないほど美しかった。


 場違いにも見とれてしまったわたしと異なり、エリンは即座に反応した。



「おりゃ!」



 気合い一閃、弾丸のごとき勢いで跳躍。

 と思ったら、次の瞬間出戻りして、地面を床ペロしていた。


 今回もフェリシアの動きはまったく見えなかった。

 なぜなら、ほとんど同時に、わたしも正面からの衝撃で吹っ飛ばされていたからだ。


 壁に背中から叩きつけられたが、その衝突ではノーダメージ。


 わたしはできるだけ平然を装ってみせる。


 ふわりと地面に降り立ったフェリシアが、立っているわたしを見て不思議そうな表情をした。



「鍛冶屋が耐えた。防具はブレイクしたはず」


「……そうだろうね」



 今のではっきりわかった。

 二突きの秘密が。


 あのスキルで防御力をゼロにしつつ吹っ飛ばし、その直後の叩きつけの衝撃でスタンさせる。

 あとは無防備の相手にトドメを刺すだけ。


 このコンボが二突きの中身だ。


 おそらくわたしの鎖かたびらもブレイクされて防御力がゼロになったことだろう。


 スキルを食らった一瞬は。


 だけど、後ろに吹きとばされている最中に『上位修復』の効果が発動して防御力が復活したのだ。


 『上位修復』アビリティは、わたしが触れた武具を自動的に直す。


 つまり、わたしが身に着けている限り、武具は常時自動メンテナンス状態なのだ。

 そのおかげで、壁に叩きつけられたダメージを受けず、スタンもしなかった。


 屈強な冒険者のエリンでさえすぐには立ち上がれないのに、ただの鍛冶屋が自分の攻撃を耐えた。


 これは理解できないはずだ。

 わからないのは怖いだろう。

 不気味に思え、すこしでも混乱してくれ……!


 しかし、フェリシアはすぐに答えを出した。



「刹那に直したか、鍛冶屋。おもしろい術だ」



 その声には多少の称賛めいたものが混じっていたように聞こえたけど、わたしには絶望しか与えなかった。


 あっという間にカラクリがバレた。

 ほんのすこしも時間が稼げなかった。

 ありかよ、こんなの……戦闘IQもバケモノじみてる。


 隙が必要だ。

 一瞬、ほんの一瞬でいいから、隙がほしい。


 そのとき、なにかが見えた。

 人影。

 通りの向こうに見知った人影が見えた。


 薄暗くてはっきりとは見えないけど、あのシルエットはベスだ。

 間違いない。

 きっとわたしたちを追いかけてきたのだろう。


 なんてできた弟子なの……。


 なにをしようとしているのかわからないけど、ベスならきっとなにか考えがあるのだろう。


 どうせこのままだと全滅する。

 賭けてみるか。


 木箱を支えにして、エリンが立ち上がる。



「きっつ。ひさびさの手合わせなんだから、先生手加減してよー」


「すべてよけろと教えた」


「それができれば苦労しないってー。やーっ!」



 エリンが仕掛けるが、敵に比べてあまりにも遅すぎる。

 剣を振り下ろす動作を開始したときには、もう標的はそこにいない。


 蹴りを食らい、肩を打たれ、腹を突かれる。

 まるで瞬間移動しているような見えない相手に、まさにいいようにやられていた。


 真剣だったら5回は死んでいただろう。


 だけど、エリンがただやられているわけではないのは、わたしの目にもわかった。


 意図を感じる。

 あえて大振りの攻撃でわかりやすい隙をつくって、相手の動きを誘導する、そんな意図を。


 わたしはエリンの意図を汲み取り、ここぞというタイミングで言った。



「ベス! いま!」



 わたしの指示に、ベスは即座に反応した。


 小さな体を回転させるようにして、なにかをフェリシアに投げつける。

 手元から放射状に広がっていくそれは、投網だった。


 投網はネタ武器などではなく、ちゃんと武器だ。

 対象を絡めとって自由を制限する。


 だが、フェリシアの姿は消え、投網はむなしく地面に落ちていく。



「そこだと思ったよー、先生」



 フェリシアが現れた場所にタイミングを合わせたようにエリンが突進していた。


 見てから、の行動ではなく、完全に勘。

 着地地点を予測してのぶっぱなし、ギャンブル行動だろう。


 フェリシアはその不意打ちに等しい突進攻撃をなんなく木剣で受け止める。


 受け止めた。

 受け止めた。

 足も止まった。


 千載一遇のチャンス!


 わたしは背を向けているフェリシアに思い切りレイピアを突きだした。

 切っ先が肌に触れるか触れないか、というところで、フェリシアの姿は消えてしまった。


 はずした……!?



「悪くない作戦だ」 



 また、声が上空からした。

 空中に浮いているフェリシアが、肩をさわる。



「我の剣を使えるのか。鍛冶屋、何者だ?」



 声に驚きの色が滲んでいた。


 見れば、白い肌にかすかな突き傷がついている。

 ほんの数ミリ程度の、かすり傷ともいえない傷だ。


 だけど、それで十分だ。


 わたしがさっきレイピアの刀身に振りかけた液体は「麻痺」の耐性素材、つまり神経に作用するタイプの即効性の毒液だ。


 そして、このレイピアの特殊効果には「効果必中」がある。


 わたしがふつうの冒険者ならこんな高ランク武器の特殊効果を発動させることはできないけど、わたしには「全武具装備」の能力がある。


 麻痺毒の効果が必ず命中するはずだ。




 はず、なのに……。




 フェリシアは悠然と地面に降り立つと、わたしに歩み寄ってくる。


 そんな、効いてない?

 麻痺毒が完全に入ったのに……。


 そのとき気づいた。

 フェリシアの肌が白く輝いていることに。


 月明りを照り返しているにしては、光りすぎている。

 陰影がなく、全体が均等に光っているのだ。


 まるで治癒術を受けているように。

 治癒術を……。



「そなた、よもや魔の者ではあるまいな」



 と、フェリシアは硬直しているわたしの手からレイピアを取り、刀身の臭いをくんくん嗅ぐ。



「ギガントスパイダーの毒か」



 二度、三度とレイピアを振り、毒液を飛ばしてから鞘に納める。

 それからわたしに顔を寄せた。



「まもなく夜がくる。魔の者に生半可な防具は無力。みな死ぬ。そなたの責だ」



 と、囁いた。


 そして、踵を返し、そのままどこかへ去ってしまった。

 呆然としているわたしたちを放置して。




―――




 あとでエリンが、



「先生、治癒術が得意だから状態異常は効かないみたい、はははー」



 と教えてくれた。


 いやー早く聞きたかったなーそれ!

 危うくドヤ顔して恥をかくところだったから!



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