30話「初めてのエルフ」
店にエルフがやってきた。
初エルフだ。
エルフは全員もれなく美少女だと、元の世界で噂には聞いていたけど、よもやこれほどとは……。
わたしが全身じろじろとなめ回すような視線を送っていることに気づかないはずがないのに、エルフはまるで気にする様子もない。
また気づいた。
エルフは目を閉じていたのだ。
この人、目が見えないんだ。
「スズキ工房はここでよいのか?」
「は、はい。ここです」
「武器を見てほしい」
「メンテナンスですね」
エルフが差し出した鞘入りの細剣を恭しく受け取った。
なぜかわからないが、神聖なものに触れさせていただく気分だった。
いかん。
急に超絶美少女が出現したものだから脳が焼かれかかってしまったけど、こっちもプロだ。
仕事はちゃんとしないと。
細剣は一般的な刺突剣――いわゆるレイピアだ。
エルフは非力と聞くから、こういった軽量武器を好むのだろう。
鞘には複雑な意匠がこらされている。
かなりの高級品だろう。
高級な鞘にわざわざ弱い武器を納める理由はない。
きっと中身のレイピアもすごい逸品だぞ。
わくわくしながら『鑑定』してみた。
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・いわくありげなレイピア : 攻撃力20(Bランク)
(スキル増幅)(効果倍化+3)(効果必中)
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なーんだ、攻撃力20のふつう武――ってBランク!?
この街に来てそれなりになるし、毎日何十という武具を見てきたけど、Bランク武具なんて初めて見た。
Bランク武具は本来なら国家級の英雄クラスが持つレベルの希少な品であり、言っちゃ悪いけど、盲人が持つようなシロモノじゃない。
武具は同ランク相当の装備力がないと使いこなせない。
そのルールがある以上、つまりは持ち主もBランク以上の実力者ということになる。
この華奢なエルフが国家レベルの実力者……?
それ以外にもいろいろおかしい。
まずBランク武器にしては攻撃力が低すぎる。
これじゃ未強化のプレーンな状態のDランク武器と同レベルだ。
それに、備考に羅列されている見たこともない特殊効果。
他のはちょっと効果がよくわからないけど「効果必中」というワードが意味するヤバさはわかる。
この武器に仮に「即死」という追加効果があったとしたら、それが必ず命中するってことでしょ?
ヤバすぎる。
これが高ランクの秘密なのかな?
こんな武器を持ってるなんて、いったい、このひと何者なんだ?
わたしは目の前の美少女を信じられない思いで見つめた。
「問題でも?」
「い、いえ。ぜんぜん問題ありません、はい。きれいです」
「きれいとは?」
「あいや、そういう意味では……」
しどろにもどろになってしまった。
待てよ……。
このひとはレイピアを持ってきただけで、使い手本人ではないかもしれない。
すごい剣士にお使いを頼まれたとかなんとかで。
などと、わたしは自分でも可能性が低いとわかっている思いつきに飛びついてしまった。
まっとうに考えたら、目が悪い人にお使いを頼む可能性が低いことはわかりきっているのに、わたしは冷静さを失っていたようだ。
……確かめてみたい。
一度そう思ってしまうと、もうその衝動を止められなかった。
鑑定っと。
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『謎のエルフ』(A)
・力 : 10
・知力 : 333
・魔力 : 777
・耐久力 : 16
・速度 : 555
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うわー。
なんか能力値バランス悪すぎでガチャガチャしてっけど、パチンコみたいな3ケタパラメータ連発とか、絶対これ使い手本人だ。
3ケタ数値があるかと思えば力は1おっさんしかないし、強いかどうかぜんぜんわからない。
けど、装備力はAランク。
マジで何者なんだこの美少女エルフ?
そのとき、エルフが口を開いた。
「――なにを見ている?」
わたしの背筋は凍りついた。
「答えよ、鍛冶屋。なにを見ている」
刃のように鋭い言葉。
一瞬、息を飲んでしまった。
まさか『鑑定』がバレた?
……いくらなんでもそれはないか。
考えすぎだ。
今まで、バレたことどころか、感づかれたことさえない。
しかも相手は盲人。
わたしがどこを見ているかもわかっていないはず。
たまたまだ。
タイミングがたまたまかち合っただけだ。
えーと、たしかこのエルフから預かったレイピアをメンテナンスしてる最中だったな。
そっちに話を戻そう。
「い、いいレイピアだなーと思いまして」
「ほう。そんなによい品か。我のレイピアは」
「はい。こんなにたくさん特殊効果がついてる武器を初めてみました。攻撃力が低いので使い手は選ぶでしょうけど、さすがBランクって感じです」
「……すごいな。やはりすべて見えているのか」
すべて、って。
なんかやっぱ言い方が気になるな……。
とっとと終わらせてしまおう。
「問題はありません。この武器の状態は良好です」
と、レイピアを返そうとしたとき、エルフが唐突に話題を変えた。
「最近、教え子がますます弱くなった」
「教え子……?」
「エリン、という」
「エリンの……?」
突然なんの話だよ、と思ったけど、エリンの剣の師匠だったのか。
エリンからそういう話を聞いたことはなかったけど、そもそもエリンとは剣術とか戦闘技術についての話をしたことはない。
どうせ聞いてもわからないし、あっちもどうせ話してもわからないと思っているだろうから、そういう話題にはならなかったのだ。
しかし。
このエルフがエリンの師匠となると、話が少し変わってくるな。
用件は武器のメンテナンスじゃなさそうだ。
それはあくまで口実だろう。
「あのー。それで、ご用件は?」
エルフは答えなかった。
工房を物色するように見渡し、近くの棚にあった木剣を手に取る。
まったく淀みのない動作だった。
まるで見えているかのように……。
さらにエルフは感触を確かめるように木剣を何度か振った。
そこは狭いスペースで、周囲には武器棚や机があるのに、器用に避けて素振りをしている。
完全に見えてるだろこれ!
エルフがこちらを真っすぐに見すえてきた。
目が見えないはずなのに。
「鍛冶屋、そなたの責を問いに来た」




