29話「ステータスを見よう!」
『鑑定』アビリティがレベルアップした。
今までは人物を鑑定しても、「ステータス状態」と「装備力」が見えるだけだった。
「毒」とか「正常」とか「C」とか「D」とか。
しかし、プライバシー侵害を承知で毎日何十人も鑑定してきたおかげか、今度は能力パラメータが見えるようになったのだ。
たとえば参考までに街の一般住民の能力値。
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『通行人のおっさん』(D)
・力 : 10
・知力 : 10
・魔力 : 10
・耐久力 : 10(+1)
・速度 : 10
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こんな感じ。
この通り、戦いに関係のあるパラメータしか見えない。
「コミュ力」「度量」「カリスマ性」のような社会性に属する能力は見えない。
見えなくてよかったけど。
「怒りやすさ 99」とか言われたら、怖くてなんにも言えなくなってしまう。
名前横の(D)ランクは、冒険者ランクや通行人ランクなどではなく、装備できる武具の上限ランクだ。
わたしはこれを「装備力」と名付けた。
耐久力の横にある(+1)の数値は防具『おっさんの普段着(Eランク)』による補正値。
一般人の場合、5つのパラメータはだいたい平均して10前後のようだけど、個人差が大きい。
屈強な肉体労働者なんかは力の数値が15以上あったりするし、知力が18くらいある教師もいた。
逆に、教師なのにひとケタ知力の人もいたけど……。
この「知力」というのは、記憶力や知識量を示しているわけではなさそう。
正直、おもしろい。
意外な人物が意外なパラメータだったりするのがまたおもしろい。
なんだか、学生時代に試験やスポーツテストの結果を見せ合ったときのことを思い出した。
今回は一方的に見るだけだけど。
そういえば、頼んでもいないのに壊滅的なテスト結果を自分から見せてくる露出狂がいたけど、あれはどういう意味があったんだろう……?
それはさておき。
あまりにもおもしろいのでテンションがあがり、つい勢いでエリンに話してしまった。
もちろん、詳しいことはぼかして。
鍛冶師としての見る目を磨いたおかげで「その人物の能力がなんとなーくわかるようになった」的な伝え方をした。
「え、すごっ!? あたしを見てよー! おねがいおねがい!!!」
当然、こうなる。
身内をのぞき見するのは気が引けるけど、本人がそうお望みなら、しょうがないよなぁ……。
ご開帳!
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『エリン』(D)
・力 : 40
・知力 : 7
・魔力 : 12
・耐久力 : 20(+40)
・速度 : 45
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「どうっ、どうっ!?」
「力と速度がすごいよエリン!」
数値を突きつけられると、あらためて冒険者の能力が一般人とかけ離れているのがよくわかる。
「すごい? どれくらい? あたしの力!」
「通行人のおっさん4人分」
「おっさん4人分!? すごーい!」
と、エリンは隣のルイーズの手を握ってぶんぶんする。
たまたま居合わせただけのルイーズは苦笑いで応じた。
おっさん換算されてうれしいのか……。
車のパワーを「〇〇馬力の車」と表現するけど、さしずめエリンは「4おっさんの女」か。
それにしても、エリンは力もすごいけど、速度もすごい。
あの流麗な剣技はスピードに支えられているところが大きいのかもしれない。
まあ、ちょっぴり勉強不足かもしれないけど、知力的に。
「ルイーズも見てもらいなよ~」
このとばっちりを予期していたのだろう、ルイーズの苦笑が瞬時にひきつった。
「わわ、わたしはいいです。恥ずかしいですし……」
と頭をふるふる振った。
ふつうはそういう反応になるよなぁ。
ルイーズは奥ゆかしい性格だから恥ずかしいなんて言ってるけど、自分を一方的に丸裸にされるんだから、「きもちわるい」というのが正直な感覚だろう。
見るけど。
大っぴらにされるとどうでもよくなるけど、隠されるとがぜん見たくなる。
このゲスな感情が地球のゴシップの売り上げを支えていたのだろう。
強制的に裸に剥かれようとして半泣きのロリ巨乳を見てるとますます邪な気持ちがふくらんでいく。
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『ルイーズ』(D)
・力 : 20
・知力 : 25
・魔力 : 35
・耐久力 : 24(+30)
・速度 : 25
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え、すご……。
なんていうかバランス型?
全体的に高能力値だ。
平均するとだいたいの能力値が「2.5おっさん」くらいある。
半べそかきながらエリンにいじられてる姿からは想像できないけど、ルイーズはハイスペックガールだったのだ。
エリンが特定の能力に特化しすぎているのか、ルイーズがバランスによりすぎているのか、わからないけど、これだから人間鑑定はおもしろい。
残念なのは自分のパラメータが見れないことだ。
自己分析だと、たぶん知力は15くらいかな?
たぶん速度も2ケタで、他は7、いや8ってところかな。
「笑わせるな。ぜんぶ1ケタじゃろ」
「うるさいバカウサギ。おまえを鑑定してやるぞ!」
「ふふん。やってみればいいなのじゃ」
見えなかった。
どうやらクリーチャーの類には通用しない、人間限定の能力のようだ。
魔物相手に使えれば、戦闘にも応用できそうなんだけど、そうそう都合よくはいかないか。
人間もHPとかMPとか見えないし。
あ、そうか。
戦いに関係のあるパラメータじゃなくて、武具に関係のあるパラメータなんだ。
鍛冶師の能力なんだし、そう解釈したほうが納得いく。
エリンたちが冒険に出かけ1人になると、あらためて考えてみた。
冒険者の能力はたしかにすごいけれど、それでも武具の影響は絶大だ。
エリンの場合、本人の耐久力パラメータが「20」で防具による「+40」補正の結果、最終的な防御力は「60」。
エリンは「装備力」が低いからまだ装備できないけど、上限まで強化したCランク防具で全身を固めれば、500や600の補正値を乗せることができる。
薄々感じてたことだけど、この世界では武具の強さが尋常じゃない。
生きるも死ぬも武具次第。
わたしが思っていたよりずっと鍛冶師の影響力は大きいぞ。
しっかりしないと!
―――
ベスが弟子に来てからしばらくたった。
やはりいいとこのお嬢さまらしく、家事的な能力は壊滅的だ。
たとえば料理。
よくあるメシマズヒロイン、なんてものではない。
そもそも、食事をするためには料理する必要がある、という発想すら持っていなかったのだ。
ま、期待してなかったけど。
出自どうこう以前に12歳だし。
そのかわり、といってはなんだけど、鍛冶屋的な能力面にはとても助かっている。
読み書きが完璧だし、数字にも強い。
安心して帳簿を任せられる。
そして、対人スキルがすばらしい。
ベスがニコニコしながら小首をかしげるだけで、お客さんはなんかお金を使いたくなってしまうみたいなのだ。
べらんめえな連中が多い界隈ではバカがつくほど丁寧な話し方も好評なので、お使いをよく頼んでいる。
その日も忙しかったので、ベスにいろいろお使いを頼んだ。
夕方になり客足も少なくなってきたことだし、そろそろ店を閉めるかなと思っていたとき。
「たのもう」
「はいはい、しょうしょうお待ちを……!?」
とんでもない美少女が軒先に立っていた。
このうえなく整った顔。
透き通る白い肌。
チュニックからすらりと長く伸びた手足。
夕日に輝く繊細な銀色の髪。
わー。
きれいだなー。
スマホがあったらぜったい写真撮ってたのに……。
と、アホ面で口を半開きにしていたわたしは、あることに気づいた。
この人……耳が長い。
エルフだ。




