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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
1章

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28話「弟子入り志願」


 弟子入り志願者がきた。


 まあこのところわたしもちょっと目立ってしまっているし?


 名目上はミルトンでナンバー2の鍛冶師だし?


 そろそろそんなイベントが発生してもおかしくはない頃だよねー?


 なーんて薄々思っていた。


 けど、ほんとうに来られると困る……。



「親方! どうか俺を弟子にしてくれ!」



 額を床にこすりつけんばかりに、弟子入り志願の若者が頭をつく。


 若人よ、悪いことはいわない、交渉のときに土下座をするのはやめなさい。


 日本人は日常的に土下座を見慣れてるから、ただの土下座なんてなんとも思わないのだよ……。


 下に熱々の鉄板でも敷いてない限り。




 断られた若者は肩を落としてすごすごと工房から出て行った。


 入れ違いに、エリンが工房に入ってくる。



「また断っちゃったの~?」


「わたしには弟子は早いよ」



 なにしろまだ鍛冶師になって1年も経っていない。


 そんなぺーぺーが前途ある若者の人生の責任を持つなんてできるはずがない。



「えーもったいない。弟子がいればこき使えるのにー」



 その口ぶりだと、まるで自分がこき使おうとしているように聞こえますよエリンさん。


 もし弟子をとったとしてもこき使うつもりはない。

 技術習得になんの役にも立たないブラック労働のクソさは身に染みて知っている。


 それに……正直、教えることがない。


 わたしは他の鍛冶職人のように、修行して鍛冶の技術を会得したわけじゃない。

 チートスキルのおかげで最初からできることをやっているだけだ。



「まず一回死にます。『鍛冶の神』スキルをもらってきてください。話はそれからでーす」



 そんなことを教えられても困るだけだろう。


 弟子入り志願者が何人来ようがすべて断っているのは、これがいちばんの理由だ。


 弟子入り初日に「死ね」と言われる職場なんて、どこよりも漆黒のブラックになってしまう。



「いらっしゃ~い。お客さん? それとも弟子入り? 弟子入りだといいなー」



 考え込んでいたわたしは、エリンの声で我に返った。


 見れば、帽子を目深にかぶった小柄な少年がおずおずとこちらの様子をうかがっていた。


 この感じは弟子入りのほうだ。

 まちがいない。



「こちらはスズキ親方の工房でしょうか?」



 かわいらしい声。

 女の子だった。


 わたしがうなずくと、女の子はパッと顔を明るくする。



「わたくし、弟子にして頂きに参りました」



 ずいぶん丁寧な話し方だ。

 職人志願者の話し方としては珍しいタイプ。


 服装は簡素だけど、そこはかとなく滲み出る上品なオーラが雄弁に語っている。


 うん。

 どこからどう見てもいいとこのお嬢さんの変装姿だね。


 つまり、関わってもめんどうなことにしかならない。



「あぁ、悪いんだけど、わたしは弟子とってないんだ」


「そんなっ……!!!」



 女の子の顔に絶望が浮かんだ。


 こんな些細なことで絶望までするの……?

 こうもあからさまにショックを受けられるとこっちも罪悪感を覚える。


 そんなに鍛冶師になりたいんだろうか?

 それならわたしにも手伝えることはある。



「あーあなた、名前は?」


「わたくし? わたくしの名前ですか?」



 他にだれがいるんだよ……。



「……そうですね、わたくしのことはベスとお呼びください」



 うわぁ、すごい偽名感!

 これで偽名じゃなかったらむしろ驚くレベルだ。



「んで、ベスさん? なんで鍛冶師になりたいの?」


「はい! わたくし、『黒の魔女』に憧れております!」



 でた~。


 『黒の魔女』というのは、もちろんわたしのことである。


 公衆の面前でよりによって神官相手に派手なパフォーマンスを演じたおかげで、そう呼ばれるようになったのだ。


 黒、の理由は単純。

 わたしが黒髪と黒い目だから。


 どうやらミルトンでは黒髪も黒い目もほんとうに珍しいらしい。


 黒髪に黒い目の組み合わせが珍しいのではなく、そもそも黒髪や黒い目をパーツとして持つ人すらいないようなのだ。


 多くの場合『黒の魔女』は蔑称として使われるけど、一部の頭の柔らかいひとたちの間では尊称扱いらしい。


 で、この品のいいお嬢さんは頭の柔らかいひとサイドの人間のようだ。


 尊敬されて悪い気はしないけど、なんかかわいそう……。



「さっきも言ったけど、わたしは弟子をとらない。だけど、もしあなたが鍛冶職人に興味があるなら、ふさわしい親方を紹介することはできるよ」


「ふさわしい親方……です、か……」


「うん? なんか見るからにテンション下がってない?」


「い、いえ! とってもありがたいです!」



 ほんとかなぁ……?


 しかし、乗りかかった船だ。

 わたしはしばらくの間エリンに店番を頼むと、ベスと名乗る女の子を連れて、しかるべき場所に向かった。




―――




 ふさわしい親方、というのは当然ワグネリアである。

 そんなわけで、わたしはベスを連れてワグネリア工房を訪れた。



「いいぜ。おいらんとこに来な」



 あっさり。

 ワグネリアは事情もほとんど聞かずに承諾してしまった。



「なにを驚く? おめえのことだって引き受けただろ。おいらは基本的に弟子入りを断らねえんだよ」


「そういえばそうでしたっけ」


「やらせてみないとそいつがモノになるかどうかなんてわからねぇからな。3日で逃げだすやつもいるけどよぉ」



 チクリとやられた。

 いやグッサリか。


 まあ、脱走したのは言い逃れしようのない事実なので反論はすまい。



「にしてもヨシノ。おまえおいらのこと嫌いじゃなかったのか?」


「はい。人間としては嫌いです」


「言うじゃねえか……」


「でも、職人としては尊敬してます。心の底から」



 この街でCランクの武具を扱える本物の鍛冶師はワグネリアただ1人。


 そのためにどれほどのものを犠牲にし、どれほどの修行と研鑽を重ねたことか……。


 教えを請うとしたら、ワグネリア以上にふさわしい親方はいないだろう。


 なにしろコーマックみたいなサイコ野郎でも、一人前の職人に育ててしまったのだから、その育成手腕は疑いようがない。


 しつけに関しては疑いの余地しかないけど。



「ただ、コーマックみたいなのはマジで勘弁してくださいよ」


「わかってる。二度とあんなことにはならねえ」



 ワグネリアは苦々しく言った。

 ベスの件が片付いたので、帰ろうとして、思いだした。



「あ、そういえばわたし無等級なんですけど!」


「だな」


「だなってなんですか、だなって! わたしは親方の一番弟子でしょうが! 一番弟子がランク外なんて恥ずかしくないんですか!」



 あくまで形の上で、だけど。

 鍛冶ギルドの体面を保つためにそういうことにしてあるだけで、本来は弟子ですらない。


 でも、周囲からすれば一番弟子だ。



「バカ野郎。一番だろうが百番だろうが、ろくに修行も見てねえやつに等級なんてつけられるか」



 と、ワグネリアはまったくごもっともなことを言った。



「それによ、おまえには等級なんて必要ねえだろ」



 それもごもっともで……。




―――




 それから3日後の朝。


 営業の準備をするフリをしてエリンとイチャついていると、またベスがやってきた。


 職人服も顔も灰や泥で薄汚れているので、みっちりしごかれているようだ。



「ベス、修行はどうしたの?」


「はい。逃げだして参りました」



 しれっと言いやがる。

 わたしでももうちょっと悪びれてたぞ。


 いくら憧れてくれているとはいえ、3日で脱走するところまで真似しなくても。



「スズキさま。やはりわたくしはあなたの弟子にして頂きたいのです」



 ベスの面構えには後ろめたいところがまったくない。

 なんだろう、確固たる信念みたいなものを感じる。


 どうやら、修行がきつくて脱走してきたどっかの情けないやつとは違うようだ。



「あ~よければ事情を聞いても?」


「はい、ぜひ!」




―――




 聞けばベスは予想どおり、いいご身分のご令嬢らしい。


 金持ちのお嬢さんなんてなんの苦労もない、と下々の者としては思いがちだけど、ここは自由の風が吹く世界とは程遠い封建社会……。


 女に自由などない。


 生まれたときから礼儀作法や上流階級の慣習にがんじがらめになり、やりたいことをやる自由など許されない。


 しかも女だから大人になって家督を継いで好き勝手にふるまう、という未来すら待っていない。


 待っているのは、当主の決めた相手との政略結婚だけだ。


 家のため。

 それがすべてに優先する。


 飢えや貧困と無縁の代償。

 と、いえばそうかもしれないけれど、それに耐えられる女とそうじゃない女がいる。


 そして、ベスは後者だった、というわけだ。


 それでも運命を受け入れて父親に言われるがままに生きていたベスだったが、ある日、とんでもない光景を見てしまったのだ。


 ふだん家では絶対者として君臨する父親ですら逆らうことのできない神官さまに、たかが女ごときが盾ついて、よりによって負かしてしまった。


 それが『黒の魔女』だった。


 その勇姿はベスの目に、光り輝く道しるべに見えたのだ。




―――




「で、家出して今に至るってことで……?」


「はいっ!」


 ベスは尊敬の眼差しで答える。

 目がキラキラしてる。

 まぶしい……。


 やべー。

 やらかしたぞ、完全にやらかしたぞ。


 事情なんて聞くんじゃなかった……。

 こんな話を聞いてしまったら、もう放り出せないじゃないか……。


 どうりで初対面のとき、帽子なんか被って変装してたわけだ。



「うーん。じゃあベスはべつに鍛冶師になりたいわけじゃないんだね」


「わたくしは、あなたになりたいのです」



 ぶっ刺された。


 もう、心臓を貫かれたね。


 こんなことを言われてうれしくならないやつがいるだろうか?


 人生を通して尊敬されたことだってろくにないのに、わたしになりたいだって?


 はっきり言って有頂天だ。


 まあ、鍛冶師になりたいわけじゃないなら、わたしにもなにかできることはあるかもしれない。


 金持ちのご令嬢なら、それなりに教育を受けているだろうから、読み書きや計算はできるだろう。


 最近わたしもかなり忙しいし、マネージャーみたいなことをしてもらうのはアリかもしれない。



「……うちの修行は優しくないよ」


「はいお師匠さま! ベスはあなたのものです!」



 あかん、もう完全にやられてもうた。

 この子まるで麻薬やで……。



1章はここまでです。

読んでくれてありがとナス〜!

よろしければポイント、ブクマおねがいします!

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