25話「全武具装備」
わたしは1つ考え違いをしていた。
大サソリ討伐の道中でCランクの鎖かたびらを脱いだときに「冒険者は金属鎧が重くて活動に適さないから敬遠する」のだと理解したけど、それは誤解だったようだ。
誤解というか、不完全な理解といったほうがいい。
「そもそも使い手が未熟だと高ランク武具を扱えないのじゃ」
と、ウサギに指摘されたのだ。
レベルの低い鍛冶師が高ランクの武具を扱えないのと同じらしい。
ちなみに、鍛冶師業界にも、武具や冒険者と同じくランク制度が導入されている。
---
・Aランク : 大陸級。大陸に数人しかいない最高位の鍛冶師
・Bランク : 国家級。王や英雄の武具を扱う国で最高の職人
・Cランク : 都市級。各都市で最高の職人 ← ワグネリア親方がここ
・Dランク : 中級者。ボリュームゾーン ← 鍛冶師のほとんどがここ
・Eランク : 初級者。見習い。ゴミ製造機
---
鍛冶師が扱えるのは同じランクまでの武具とされている。
なお、武具や冒険者とちがってS級ランクは設定されていない。
なぜなら、Sランク武具は「人間には鍛造不可能な神代からの武具」であり、扱える人間など存在しないからだ。
ちなみにわたしはというと……無等級だ。
Eランクですらない。
なんでだろうね???
これでももうCランク武具を扱ってるわけだし、一応3日修行したんだからEランカーにしてくれてもいいのに……。
ワグネリアの嫌がらせかなぁ。
和解したとはいっても、なんかまだ脱走したことは許されてない気がするし……。
ん?
ちょっと待て。
高ランク武具は使い手が未熟だと扱えないって?
そんなはずはない。
だって……。
「わたしは? 戦闘力は一般人以下なのにCランク防具を装備できるんだけど」
「それは『鍛冶の神』スキルの『全武具装備』アビリティの効果なのじゃ。なんでもいけるぞ」
「なんでもって?」
「なんでもはなんでもなのじゃ」
「Sランクも!?」
「くどいのう。なんでもと言うとるじゃろー」
『全武具装備』……!?
アビリティ名はシンプルだけど、効果は絶大だ。
なにしろ、伝説的な英雄クラスじゃないと装備できないSランクの神話級武具も装備できるということなのだから。
「わしの神スキルの素晴らしさを理解したら、いいかげん感謝するのじゃ」
「感謝、うん、感謝はする。けど、もっと早く教えてよ」
「んー? 教えたじゃろ?」
「聞いてないけど」
「じゃあ、今教えたのじゃ! これで文句はないのじゃ!」
文句がないわけないだろ。
「しかたがないのじゃ。わしにもいろいろと都合があるんじゃから」
「都合って、なに?」
「それはあれじゃ……目的とか……おぬしに教えるタイミングとか……探しものとか……いろいろはいろいろなのじゃ!」
なんかもごもご言ってる。
歯切れが悪いなあ……。
まあ、今後はこういうことがないように、スキルについて根掘り葉掘り質問しておいた。
強い武具でわたし自身の戦闘力をほぼ無制限に水増しできることがわかったのは朗報だ。
けど、いいことばかりではない。
今まではとにかく防御力が高い防具をできるだけ多く作り、普及させることを考えていればよかった。
しかし、使い手のレベルが低いと装備できないんじゃ、話が変わってくる。
どれだけ防御力が高くても、誰も装備できないんじゃ、金持ちや貴族の家で調度品にされるのがオチだ。
でもメリットもある。
副産物というか、装備ランク制限のことを知れたおかげで『鑑定』アビリティの使い勝手が劇的に進化したのだ。
以前から人間のステータスの横に「C」とか「D」とか書いてあるから、どういう意味なのか気にはなっていたんだけど、そういう意味があるとは知らなかった。
記号の意味がわかっただけだけど、これはとてつもない進歩だと思う。
だって、ステータスを見るだけでその人物のだいたいの武器戦闘力がわかってしまうのだから。
また、見栄を張っている人がわかるようになった。
誰かが装備している武具を鑑定したときに、やたらと「×」がついていることがあったんだけど、あれは適正ランクを超える武具を持っているせいで、能力を発揮できていないという意味だったのだ。
要するにRPGとかで、
「おまえさんはその武器を装備できないぞ」
と言ってくる武具屋のような能力を得たわけだ。
こう例えると大したことのない能力のように思えてくるけど。
もしくは、RPGの武具屋が有能すぎるのか。
武具装備制限がわかるようになってから、わたしは以前にもまして鑑定しまくった。
その結果、平均的な冒険者の『装備力』が判明した。
ミルトンの冒険者の多くは基本的にDランクまでしか装備できず、Cランク以上の武具を装備できる人物は限られていた。
だいたい冒険者ランクとイコールのことが多い。
どうりでみんながやたらとDランク武具を装備してるわけだ。
エリンですらまだCランクはムリみたいだし。
というわけで、なんでもかんでも高ランクの防具を作ればいい、というわけではなくなった。
そういう意味で、状態異常耐性に目をつけたのは、ちょうどいいタイミングだったと思う。
―――
森の薬師グネヴィアとの出会いから2週間。
グネヴィアはいつも眠たそうなのに仕事が早く、翌日には大サソリ素材から毒成分を抽出する作業を完了した。
おかげで、防具に毒耐性をつけることができるようになった!
取り引きの交換条件といったらあれだけど、グネヴィアと友だちになったので、週一で森の家に通い、お茶することになった。
まあ、それはわたしも望むところだった。
森の中でお茶を飲むのは気分がいいし、知識豊富なグネヴィアとの会話には得るところが大きい。
なんかやたらとエロいのと会話が疲れるのはともかくとして……。
さて。
毒耐性の被験者第一号はもちろんエリンである。
グネヴィアは抽出毒だけじゃなく、耐性に使えそうな素材をいろいろ提供してくれた。
これもお友だち記念ってやつのサービスなのかな?
グネヴィアが持っている材料も限られているから一度かぎりのサービスだったけど、ありがたく活用させてもらった。
そんなわけで、生まれ変わったエリンの革鎧。
---
・形見の革鎧(+10) : 防御力40(Dランク)
(毒耐性)(麻痺耐性)
---
「状態異常ってあんまり考えたことなかったけど、けっこう危ないんだねー」
エリンはピカピカに磨き上げられたお気に入りの鎧をうっとり眺めながら言った。
鎧がピカピカなのはべつに精錬のおかげじゃなくて、いつも通りわたしが手入れしたからだ。
エリンに任せておくとすぐに泥だらけになってしまう。
「そうだね。気をつけないと」
敵を倒しても消えない状態異常は厄介だ。
たとえ死ななくても重い後遺症につながる可能性もある。
「あたしつい毒液? ってやつを食らっちゃうんだ~。でも、これでもういくら浴びてもだいじょーぶだねっ!」
「いや、毒じゃなくて酸かもしれないし、そこはよけようよ……」
エリンの剣技はすでにミルトンでも上位者に数えられる腕前だと冒険者が噂しているのを聞いた。
なのに、どこか抜けてるところがあるので、心配だ。
正直、こんな耐性じゃぬるい。
ぜんぜん足りない。
ほんとうなら。
---
・睡眠耐性 ・混乱耐性 ・魅了耐性 ・石化耐性 ・即死耐性 ・空腹耐性 ・疲労耐性 ・ケガ耐性 ・死亡耐性 ・病気耐性 ・セクハラ耐性 ・パワハラ耐性 ・金欠耐性 ・地雷友だち耐性 ・金に汚い男耐性 ・タンスの角耐性 ・ぼったくり居酒屋耐性 ・カルト宗教耐性
---
このあたりもつけておきたいところだけど、今のところ素材がよくわからない。
ムカつく連中をみんなグネヴィアに抽出加工してもらえばいいんだろうか?
冗談はともかく。
なんでもかんでも思い通り、というわけにはいかないけれど、朗報もある。
ついに冒険者ギルドが「スズキ工房」のDランク防具を初心者冒険者への支給装備として正式採用してくれることになったのだ。
これはとびきりの朗報!
冒険者ギルドのお墨付きをいただいたおかげで、わたしの活動に関心が集まることになったのはなによりも大きい。
今後は大サソリの毒腺だけじゃなく、いろいろな素材を集めやすくなるのかもしれないのだから。
まだまだ死者ゼロ、というわけにはいかないけれど、かなり死傷者を減らすことに貢献できている。
それなりの成果をだしたと思っていいだろう。
だけど新たな問題が発生した。
それも、思わぬ方向から……。




