18話「価格統制」
脆弱なEランク防具のせいで命を落とす冒険者を1人でも減らす。
それがわたしの新たな目標になった。
無念のうちに倒れたキャルへの、せめてもの手向けだ。
そのためにはいろいろと乗り越えなければいけない問題があるけれど、目指す目標はシンプルだ。
「Dランク防具を冒険者の標準装備として普及させる」
これだ。
道筋がどれほど複雑だとしても、達成するべき目標はこれに尽きる。
なんで新人冒険者がEランク防具を装備するかといえば、それがギルドからの支給品(有償)だからだ。
つまり初期装備。
いつまでも初期装備でゲームを進めるやつがどこにいる?
死にたくなきゃとっとと装備を更新しろこのマヌケ!
と言いたいところだけど……。
新人冒険者だってべつに死にたくてEランク防具を装備し続けているわけじゃない。
Dランク防具が高価すぎて、更新できないだけなのだ。
それはわかってる。
Dランク防具は、どの武具屋に行ってもほぼ同じ価格。
新人冒険者には到底手が出せない高価格で売られている。
しかも安売りは絶対にされない。
それはなぜか?
これは内部事情の暴露になるから身内への裏切り行為になってしまうけど。
わたしは鍛冶業界の闇を暴くジャーナリストになりたいわけではないけど。
それでも言わなければならない真実がこの世には存在する。
それでも言わなければならない正義がわたしには存在する。
ギルドは、やってる。
やってるのだ、やつらは。
武具業界は鍛冶ギルドによって徹底的に価格統制されているのである!
どこの武具屋に行っても、多少商品のラインナップが違うだけで、売買価格はほとんど同じ。
ゲームでもよく見る光景だけど、それを不思議に思ったことはないだろうか?
わたしは何度もある。
その理由は、ギルドが価格統制しているからだ。
決してゲームの製作者が、違う街の違う武具屋ごとに価格設定をし直すのをめんどくさがっていたわけではないのだ。
製作者たちは、ただギルド制の闇を忠実に再現しているだけなのだ。
そう。
ゲームであろうとなんであろうと、ありとあらゆる世界でギルドが厳しく価格統制を行っているのだ。
だから、わたしはこのふざけた価格統制をぶち壊す!
この街のDランク防具の相場をめっためたに破壊してやるのだ!
価格破壊までのロードマップを具体的に考えてみた。
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1、Eランク武具をかき集めて上限まで『精錬』
2、それをDランク防具に『合成』
3、合成したDランク防具を街の相場より低価格で販売 ← (New!)
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まあ、1番と2番に関しては今までと大してやることは変わらない。
まず「E武具」をできるだけ多くかき集めて『精錬』しまくり「上限強化されたE武具」を揃える。
そして『上位合成』アビリティで、それをDランク防具に生まれ変わらせるのだ。
Dランク防具を1つ作る過程で、だいたい20個くらいのEランク武具を始末(消費)することができる。
さて3番。
ここからが新しい試みで、かつ、危険な革命行為になる。
わたしはこれまで、お店に自分からやってくる冒険者の武具をDランクに合成することはあっても、Dランク防具そのものを熱心に販売することはなかった。
だけど、これからは積極的にDランク防具を売っていく。
しかも街の相場よりもはるかに低価格で。
ギルドの暗黙の価格統制に逆らうことは、危険で、革命的な行為だ。
だけど、わたしはもうためらわない。
「価格統制破壊計画」をただちに実行するのだ!
―――
ところが。
この「価格統制破壊計画」は開始してすぐに壁に突き当たった。
いや正確には、始める前に、と言ったほうがいい。
どういうわけか、E武具が「スズキ工房」にまったく入ってこなくなってしまったのだ。
この計画は大量のE武具を消費することが前提なので、当然のことながら大量に仕入れる必要がある。
それができなければ計画そのものが成り立たず、頓挫してしまう。
「困った……どうして……」
わたしは手にした紙を見つめながら、頭を抱えたい気分だった。
ミルトン商工会議が発表した、流通データを記した紙だ。
このデータによると、Eランク武具の流通量は減っていない。
なにしろ鍛冶産業はこの街を支える基幹産業なので、街には大小含めて何十もの工房がひしめき、何百人もの弟子がいる。
彼らが毎日の修行でせっせと大量のゴミを生産するのだから、減るわけがない。
「なのに、どうして……」
大量に流通しているはずの物が、まったく入ってこないのだ。
うちにだけ。
偶然とは思えない。
なんらかの意思が介在しているとしか思えない。
そのとき、ゴンドが工房に入ってきた。
お茶を持っている。
商売柄いい茶葉を手に入れられるようで、ゴンドが淹れてくれるお茶はおいしい。
飲むとほっと一息つける。
わたしはいつものように差し入れのお茶をいただきつつ、この件について相談することにした。
なにしろゴンドはこの街で何十年も商売をしている大先輩だ。
「その件だがな、伝手をあたってみて判明した。鍛冶ギルドが動いているようだ」
「あぁ。やっぱりそうなんですね……」
「先日ギルド員に通達された正式なギルド令だ」
と、ゴンドが文書を差し出した。
わたしも一応ギルド員のはずなんだけど、と思いながら、文書を受け取って目を通した。
なんだこれ……。
想像以上にひどい内容だ。
文書には「スズキ工房なる闇業者との物品の取引を禁ずる」とはっきり書いてある。
闇業者!
ばっちり名指しで、闇業者!
クソっ。
そう来たか……。
営業そのものを禁じることはできなくても、同業者との取引を封じることで間接的に潰しに来たってことだな。
「なにか手は考えてるのか?」
「ありますよ、当然」
「おお! さすがだな!」
なかった。
なかったけど、今、一瞬で思いついた。
こうもはっきり闇業者扱いされるとかえって自覚が出てくるというものだ。
こっちは闇業者なんだからふつうの手段に頼ることはできない。
いまさら各工房や武具屋をまわっても頼みこんでもムダだろう。
彼らがギルドに逆らう理由はない。
なにしろこのギルド令は、ギルドマスターの名で発行された正式な文書なのだから。
と、なるとやるべきことは1つ。
わたしは立ち上がり、ゴンドに宣言した。
「ワグネリア親方と話をつけます」
どんな業界でも弟子は、いつか師匠と対決する日がやってくると聞いたことがある。
師匠と対決し、倒し、乗り越えていくことが最高の恩返しになる、と。
わたしにもその日がついにやってきたというわけだ。
まあ、弟子期間はたったの3日だけど……。




