13話「リサイクル作戦1」
この街の新人冒険者は、デススパイラルに囚われている。
そのプロセスを簡略化すると、以下のようなものになる。
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1、防具が弱いせいでケガをするから、治療費がかかる。
2、そのせいでお金が貯まらない。
3、お金がないから強い防具を買うことができず、またケガをする。
4、1に戻る。
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主要顧客である新人冒険者をこの悪循環、無限ループから抜け出させないと、我が工房に未来はない。
そこで、新アビリティ『合成』の出番。
これが起死回生の一手となるかもしれない。
……しれないんだけど、その前にやることがある。
それは、実態の調査だ。
新人冒険者が実際にどれくらいの確率でケガをしているのか、具体的なデータが欲しかった。
具体的な数字を持っていれば、他人を説得するときにもやりやすい。
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エリンに協力してもらって調べてみた結果、新人冒険者がケガをしたり死亡したりする件数は異常に多かった。
想像以上にひどい。
この一か月で冒険者登録してデビューした新人のじつに8割が重傷を負った経験がある。
そのうち2割が死亡し、3割が再起不能もしくは引退。
1か月後も冒険者として活動をつづけられるのはたったの5割しかいない。
数か月後も冒険者稼業をつづけられる率はさらに低下する。
1年生き残るとベテラン扱いされはじめるらしい。
いくら危険を冒す者だからって、これは行き過ぎでしょ……。
まるで新人冒険者の墓場だ……。
こんなインフェルノな稼業に愛娘がとびこんだら、そりゃゴンドも心配するよ。
もっとも、冒険者サイドは危険と隣り合わせなのは当たり前のことと思っていて、新人が死んだり再起不能になったりするのは「洗礼だ」と、割り切った態度だ。
洗礼を乗り越えてこそ、ようやくいっぱしの冒険者を名乗れる。
ある意味で『選ばれた者』と誇りに思っている節すらある。
いやその感覚はおかしい。
洗礼じゃなくて洗脳されてるでしょ、全員。
冒険者としての資質とか才能以前の問題で、防具が弱いだけだって。
こんな異常な状況がつづいている原因も調査ではっきりした。
Dランクの防具が高すぎるのだ。
なにしろEランクの防具が銅貨数枚で買えるのに、Dランクの防具には最低でも銀貨10枚以上の値がついているのだから。
たしかにこの世界の武具は性能にものすごい格差がある。
けど、性能差は約10倍なのに、値段差が数十倍に跳ね上がるのはいくらなんでもコストリターンのバランスが悪すぎる。
このアンバランスの要因には、Dランク武具が高すぎることもあるけれど、その逆にEランク武具が安すぎることもある。
なぜこんなにEランクの武具が安いのか?
わたしはさらに調査を進めた。
武具がめちゃくちゃ強い世界なので、強い武具を作れる鍛冶師は、貴族や聖職者からも尊敬され、富も権力も持てる。
だから、立身出世を夢見る若者が鍛冶ギルドに弟子入り志願者として殺到する。
そうして生まれた大量の弟子たちは修行の過程で大量のゴミ武具を生産することになる。
結果、Eランク武具が捨て値で市場に放りだされるという寸法だ。
そういえば、ワグネリア工房でも兄弟弟子が作った武具を「捨てとけ」と命令されたことがあった。
あ、いや、命令の口調が不正確だった。
「おいケラァァァ!!! これ捨てとけっつったるるぉお!?」
……疲れないのかね?
ともかく、弟子の作ったEランク武具なんて、名のある工房では捨てるもの扱いなのだ。
つまり、ゴミが余ってる。
それも、大量に。
わたしはこの状況を利用することにした。
ゴミ掃除が新人冒険者を救う、名づけて『リサイクル作戦』!
ふつうだな。
―――
『リサイクル作戦』発動から数週間後。
わたしは朝から自分の工房で、エリンの帰りを今か今かと待っていた。
もちろん鍛冶屋の営業をしながら。
このところエリンの帰りが遅くなることが多いので、ずっとこんな感じで気を揉んでいる。
結局、エリンが帰ってきたのは夕方だった。
「初心者冒険者エリン、ただいま帰還しましたー!」
「おかえり! 状態を見せて!」
元気よく帰ったきたエリンの全身を、挨拶もそこそこにすかさずチェックする。
よし、ケガはないな。
お次は『鑑定』チェック。
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・ショートソード(+10): 攻撃力40(Dランク)
・皮の小盾(+10) : 防御力40(Dランク)
・形見の革鎧(+10) : 防御力40(Dランク)
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よし。
武具に損傷もない。
エリンはパーティの仲間も連れてきていた。
テルマというクールビューティな弓使いと、ルイーズというロリ巨乳魔術師だ。
彼女たちの武具ももちろんすべてDランクだ。
ぱっと見損傷はないけど、ちゃんとチェックする。
とくにルイーズの体防具は念入りにね……。
「あ、あのう……防具性能に胸は関係あるんですか……?」
「あるある。胸部は心の臓があるから、むしろいちばん肝要なのですぞ!」
「そう、ですか? うぅぅ恥ずかしいです……」
あーおっぱい柔らけー。
ぷるんぷるんというか、ほわんほわんというか。
なに食ったらこんなに柔らかくなるんだ?
メンテナンスと称せば、好きにおっぱいを揉みしだいてもいいのは鍛冶師の役得だね。
「よーし。チェックおわり!」
『なんのチェックをしておるんじゃ……』
ウサギが犯罪者を見る目を向けてきたが黙殺した。
ここはもう21世紀ではない。
さて。
この数週間、エリンたちは目覚ましい成果をあげている。
エリンは冒険者になってからの数か月間、自転車操業みたいにギリギリの線でなんとか冒険者稼業にしがみついていた。
冒険者等級も最低のEランク(初級者)でずっと据え置き。
受けられる依頼は近隣の低ランク魔物の退治という簡単なものばかり。
それでも毎回苦戦して、ケガをして、そして、治療費をぼったくられていた。
しかし、状況は変わった。
一通り武具のメンテナンスチェックを終えたわたしは、3人にお茶を出した。
「お疲れ様。今日も遅かったね」
「1日で討伐依頼を3件達成したからねー。時間かかっちゃったー」
「そんなに? すごい!」
「えへへ、新記録達成だよー!」
エリンが自慢げにグッと親指を立てた。
ちょっと前まで1件の討伐依頼をこなすのにもケガだらけだったのに、3件もこなして無傷なんだから、そりゃ誇らしくもなるよね。
「さすがに疲れたよ。今度から低ランク依頼をたくさんこなすんじゃなくて、もっとランク高いやつに絞って受注しないか?」
テルマがすらりと長い手足を伸ばしてストレッチしながら言った。
かなりお疲れのようだ。
エリンはぶんぶん首を振る。
「だめー! Dランク昇格がかかってるんだから、今は達成数を稼がないと!」
エリンの話では最近の活躍を認められて、近々Dランクに昇格できるかもしれないとのことだ。
冒険者は依頼の「達成数」や「達成率」によってギルドから評価され、ある程度の実績を積むとランクアップするシステムらしい。
少し前までEランクの底辺をうろちょろしていたエリンが、もうDランク昇格目前。
この躍進には、わたしも貢献できていると思う。
わたしはエリンにDランク武具を用意した。
エリンだけじゃなく、仲間2人の武具もすべてDランクで揃えた。
しかも、上限まで精錬強化済み。
「わたしたちまで、いいんですか……?」
と、ルイーズは恐縮してたけど、ぜんぜんいい。
むしろ頭を下げて頼むのはこっちのほうだった。
『リサイクル作戦』を成功させるためには、エリンのパーティに活躍して名をあげてもらう必要があったのだから。




