12話「営業開始」
いざ営業開始!
わたしは、鍛冶屋開業のためにクリアしなきゃいけないクエストを、ついに完了したのだ!
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・鍛冶ギルドに登録 (Complete!)
・作業場を確保する (Complete!)
・店舗をゲットする (Complete!)
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これで、初心者のチュートリアルクエストはオールクリア!
しかもラッキーなことに住むところまで確保できた。
サブクエも抜かりなくコンプリートですよ。
わたしはゴンドの商店の裏手にある倉庫を間借りして鍛冶屋の営業を始めた。
屋根裏部屋に1人と1匹が寝起きするだけのスペースがあるし、元々鍛冶工房だったから鍛冶炉や水槽ななんかの設備も揃ってる。
正式なギルド員になれたかどうかという件は怪しいところで、はたから見たらほぼ闇営業だろう。
でもわたしは、弟子入りという筋は通した。
正式に破門されていない以上、わたしは今もワグネリア親方の弟子のはず。
それに闇営業も立派な営業だ。
違法行為じゃないらしいし。
というわけで、胸を張って営業している。
まあ、お客さんはいないんだけど……。
開業したといっても、屋号も看板もなく、知名度はゼロ。
わたしがここで鍛冶屋をはじめたことを知っている住民はほとんどいないのだから、ある意味当然といえば当然の結果だ。
存在を認識されなければお客さんは来ない。
だからといって、宣伝するような資金もない。
そんなわけでほとんど開店休業状態だ。
とはいえ『ほとんど』だ。
客はゼロじゃない。
エリンが冒険者仲間を熱心に勧誘して連れてきてくれるのだ。
ほんまええ子やで……お嫁さんにしたい……。
連れてきてくれるのはありがたい。
ものすごーくありがたい。
いくらお礼を言っても足りないくらい感謝してる。
だけど……エリンの冒険者仲間は駆け出しばかりだ。
何人かの装備を見させてもらってわかったことがある。
どうやら駆け出し冒険者の装備はEランクが基本のようなのだ。
これが問題だ。
エリンのように家族が冒険者だったり、武具屋だったり、あるいは守備兵や騎士だったりすれば武具のおさがりを貰えるかもしれないけど、そういうのはレアケース。
なんの伝手もなく、身一つで冒険者稼業に飛びこむ貧しい若者が大半なのだから、自前で高ランクの装備を新調するようなお金を持ってるわけがない。
だから新人冒険者はギルドから格安で支給されるEランク武具で身を固めている、というわけだ。
いわゆる初期装備ってやつだね。
それで困るのは、Eランク武具だと『上位精錬』アビリティの効果をあんまり発揮できないことだ。
攻撃力2とか3のゴミ武器をちまちま10%ずつ強化したってたかが知れているし、そもそも「下位ランクの武具を素材にできる」というアビリティの強みがまったくいかせない。
自然と、わたしのできる仕事は『修復』に限られていった。
数秒間ペタペタ触るだけで終わってしまう修復作業で料金を取るのは正直気が引ける。
しかも相手はわたしとどっこいレベルの貧乏人。
うーん、これじゃなかったはずなんだけどなあ。
よし。
開店セールをやろう!
わたしは駆け出し冒険者たちの装備をタダで修復することに決めた。
―――
「ありがとう鍛冶師さん!」
本日10人目のお客さんが満面の笑みで帰っていった。
タダで武具のメンテナンスができたんだから笑みにもなろう。
出血大サービスの「修復無料キャンペーン!」をはじめてから数日、開業以来はじめてお客さんが2ケタに到達した。
まあ、売り上げはあいかわらずゼロなんだけど。
「順調そうじゃないか」
商店のほうから様子を見にきたゴンドが感心したように言った。
「まあ、ぼちぼちです」
「ほれお茶だ。のみな」
「お、ありがとうございます」
差し入れのお茶をすすりつつ、わたしは申し訳ない思いがした。
倉庫を借りるときゴンドに提示した、売り上げのパーセンテージを渡す、という契約は生きている。
ただ、売り上げがゼロなので、ゴンドに渡るお金も当然ゼロである。
「まだ開業したばかりだ。そう焦るものじゃない」
こう言ってくれるのはありがたい。
自分でもいまは「顧客開拓」「信頼獲得」「知名度向上」が大事で、儲けは二の次だと思っている。
とはいえ、それをスポンサー? パトロン? 出資者? にまで強いるのは気が引ける。
日が暮れたので店を閉めた。
ちゃんと考えないといけないな。
このままでは家賃と生活費でジリ貧だ。
神殿に年収分ぶっこ抜かれたわたしに自己資金はほぼないのだから、あっという間に破産してしまうだろう。
それはそれとして。
最近、多くの新人冒険者と接するようになって疑問に思ったことがある。
新人冒険者はなぜいつまでもゴミみたいなE武具を装備し続けるのか、という疑問だ。
大怪我や死亡も珍しくないのに。
「E防具じゃなくてもっといい防具を装備すればいいのに……」
なんちて。
「わしもおるんじゃぞー。クソ寒い冗談は1人のときにやってくれなのじゃー。同居人へのサムハラじゃぞー」
しまった、だれも聞いてないと思って油断した!
エリンの革鎧はDランクで、基礎防御力が「20」もあった。
一方、Eランク防具の基礎防御力は「2」とか「3」しかなく、10倍近い性能差がある。
大工房に潜りこんだ経験があるからわかるけど、Eランクの武具なんて見習い鍛冶職人が修行がてらに作る粗悪品だ。
わたしだったらこんな裸みたいな性能の防具で危険な冒険にでたくない。
依頼で稼いだ報酬は、すこしでも高いランクの防具を買うために費やすだろう。
それこそ、生活費を切り詰めてでもそうする。
「なんでちゃんと防具を買わないんだろう……?」
「ププッ!」
と、ウサギが吹きだした。
「おぬしマジで言っとるのか?」
「な、なんだよ。なんで笑うの!」
「自分の財布に聞いてみることじゃ」
自分の財布……?
もうそろそろ必要がなくなるくらい中身が軽いんだけど。
こんな軽い財布になにを聞けって――!?
「あっ!!!」
思わず声がでた。
そうか治療費だ!
そういえば、神殿で治癒術をかけてもらったとき、冒険者が長蛇の列をつくっていた。
あれみんな新人だったのかな?
紙装甲のゴミ防具で冒険にでるから、魔物や野盗との戦いでどうしても傷を負ってしまう。
その傷を治癒術で癒してもらうために神殿にいって、依頼報酬を悪徳神官にケツの毛までむしり取られる。
よって、防具の新調など夢のまた夢……。
完全に悪循環。
まるで新人冒険者を搾取するシステムみたいだ。
まさか冒険者ギルドと神殿が癒着してる……?
いやいや、さすがに考えすぎだろう。
冒険者ギルドのほうにはたいして利益がない。
弱い武具を装備した冒険者が依頼の失敗をくりかえせば、ギルドの評判にもかかわる。
とはいえ、そこに悪意があろうとなかろうと、ほぼシステム化している悪循環をどうにかして断ち切らないと、新人冒険者の命はいつまでも危険にさらされたままだ。
とにかく新人冒険者が神殿に有り金を没収されている現状をなんとかしないと、わたしの店が繁盛する未来は訪れない。
「なんとかして防具を強くしないと……でもどうすれば……」
E防具を上限まで強化しても「2」しかない防御力が倍の「4」になるだけだ。
これでは5本骨折していたものが4本に軽減される程度の効果はあっても、骨折することにはかわりがない。
根本的な解決策にはならない。
「どーすればいいんだー!!!」
わたしは頭を抱えた。
すると、ウサギがとてとてと器用に2足歩行で近寄ってきて手というか前足をピンと上げた。
「なに? チンチン?」
「誰が犬の芸を披露するか! よう見ろ! 人差し指を立てとるじゃろうが! 定番のアドバイスポーズしとるじゃろうが!」
そう言われてみれば。
人間の人差し指に該当する部分がかすかに立っている気がする。
小っちゃくてぜんぜんわかんなかった。
「人間が人差し指を立ててドヤバイスするときの感じを出したかったわけね。それで、アドバイスってなに?」
「新アビリティならおぬしの悩みを解決できるかもと思ってな」
「新アビリティ!?」
「そうじゃ」
ウサギは深くうなずいた。
「『合成』なのじゃ」




