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第7話 願いの果てに②

 ずっとこのまま話したい気分だが、この状況でそんなことは許してくれそうにないので話を戻すとしよう。

 君たちの置かれている状況、そして君たちの辿ってきた軌跡についてネタばらしの時間だ。

 レイベルに帰った時、不思議に思っただろ。何故数年前まで過ごしていた故郷があんなにも荒れ果てていたのか。

 予想もしただろうし、もしくは霊獣から聞きはしただろうが、僕や君たちが普通の人間として過ごしていたのは十四年も前のことなんだ。

 あの地獄の日以降、君たちは眠り続けた。故郷は魔術機関による調査後に封鎖された。そして朽ち果てていき、解除された時には既に地図から抹消された地となっていた。

 住人の遺体はなかったという情報を受けているが、それはおそらく喰われたか、魔術の生贄として溶解した、という理由だろう。

 君たちが巻き込まれた事件が終結した際、僕は回収した君たちの死体、というより死ぬ寸前の身体に霊獣の核を埋め込むことで、消えゆく命を無理やり繋ぎとめた。君たちを甦らせるための時間を作るために。

 そこから十一年、様々な研究所を回り、協力者を得て、そして人間の死体と機械を用いた能力者開発の研究を続けてきた。

 そしてやっとのことで死体を用いた能力者を生み出せた。肉体の崩壊も起こらず、精神も安定していた。まるで、温もりを持つ生きた人間のように。それがフランとミラの二人だ。

 二人続けて成功したことで、僕は念願の君たちの蘇生に取り掛かった。結果は勿論成功だ。まあ、眠っていた十四年という時間はどうしたって取り戻せないのだけれど。

 しかし、それとは別に問題が二つあった。

 ひとつは元々死んでいた者と違い、十数年もの歳月体内に霊獣の核があったことで、君たちはその核なくして生きることのできない身体になってしまった。

 ゆえに、霊獣を狙う者からその身を保護し続ける必要があったこと。それをどこまで続けることができるかは僕の根気次第かなって思っていた。

 もうひとつは記憶が限りなく薄れていたことだ。もはや僕の力では復元が不可能なほどに。僕の夢だった昔の関係に戻るというのがその時点で困難になった。

 だが、それにはある解決策は持っていた。それが霊獣との邂逅。ライブラ、もしくはレオであれば記憶の復元も可能だという情報を手に入れていたからね。

 しかしどちらもジェミニほど温厚ではなく、そして融通もきかないという情報も同時に手に入れていた。戦闘になることはほぼ確実。代理で試練を受けることもままならないはずだ。

 どうしたものかと一時期悩みはしたものの、解決策はいたって単純だった。ネロ、カレン、君たち二人を異能の力をただ発するだけの人間でなく、それを用いて戦うことのできる力をつけさせることだ。

 そのために本来フランをメインにやらせるはずだった仕事もネロに割り振り実践で戦い方を学ばせ、カレンには研究所内でミラとともに支援術を学ばせ、共に能力をなじませるよう図った。

 そして時間はかかってしまったが、二人は見事、魔術師としての僕からしても認めざるを得ないほどの能力者に仕上がった。

 あとは君たちの知る通りさ。

 光の霊獣レオとの邂逅。

 能力者ルークとの戦闘。

 レイベルへの帰省。

 無の霊獣ジェミニとの出逢い。

 そして今に至る。

 すべては僕の図った君たち二人を本来の姿に戻す一連のものだったというわけさ。

 以上、君たちが陥っている状況に対するネタばらしだ。

 納得してくれたら幸いだが、納得しなかったとしてもこれ以上僕が語るための材料はないのでね。

 一旦はこれで終了として今の状況をどう打開するか考えようか。

 ご清聴ありがとうございました、ネロ、カレン。



          ◇



「――で、これからどうします?」


 戦闘の激しさは収まりを見せず、むしろ激しさが増すばかり。早急に手を打たなければそれこそ手遅れになる。

 その問いに対してロゼさんは静かに首を振る。


「無理だ。どうすることもできない。僕も戦闘において数年のブランクがある以上、ジェインはともかくルークに勝てる見込みはあまりないよ」


 いつになく弱気なロゼさん。彼はそう言うが、僕にはたった一つだけこの絶望的な状況を打破できる策を知っていた。


「いいえ。ロゼさんはあることを忘れています。勝てる見込みならありますよ」


 そう確信を持って言った。


「――なに?」

「ロゼさんは以前、能力者の強化薬を開発していたはずです。その研究には僕も関わっていたのでごまかしても無駄ですよ。だから、僕がその薬品を投与して戦えば――」

「ネロ、君は勘違いしている。あれは強化薬なんてものじゃないよ」


 ロゼさんは間違いを咎めるように言う。


「その薬の開発を中止したことはネロも知っているはずだ。強化とは名ばかりの身体変化薬。能力者でも魔術師でもない、理から外れた力を手にすることで能力や身体のさらなる強化を図ったものだ。

 確かにあれは高い効果が見込める。だが、逆に強力すぎるが故に、肉体、精神ともに多大な付加をかけてしまう。実験のために今まで薬を投与した個体は全て、例外なく肉体は耐え切れず、精神は崩壊し死亡した。

 そんな命の保障ができない危険な薬を君に与えることはできない」

「危険なことは重々承知の上です。少なくともこの戦いを終わらせられる可能性が、そこにはあるんだ」

「馬鹿な。君らしくない。根性論でどうにかなるレベルの話ではないんだ。もしもの話その場では戦えたとしても、その後の君の身体が無事である保証はないんだ。僕はもう、この手で君たちを苦しめたくはない」

「――そうですか」


 これ以上は無駄か。ロゼさんの頑固さは分かっている。ロゼさんの考えを一転させる決定的な何かを見せない限り、話は先に進まない。

 ソファーから立ち上がり、所長室から出ることにした。カレンが続けて立ち上がる。


「ちょっと、ネロさん」

「いいんだ。カレン。所長の言うことにも一理あるよ」


 立ち止まり、けれど振り返りはせずに言う。


「あなたは優秀な科学者だ。それ故にか、なかなかの諦めの悪さを持ち合わせている。そんなあなたが失敗作を失敗作のままに終わらせますか?」

「そうだな。確かに失敗作のまま終わらせるのは歯がゆい。僕にとってそのようなことはあり得ない。

 しかし、だ。それを完成させたところで能力者にとってデメリットがわずかにでも残り、継続的に益のもたらすものでないとすれば、それは完成させたところで意味はない。

 極論を言えばそれは完成ではなく失敗作の中で最も出来が良かったものだ。つまりはね、僕には見えてしまったのさ。

 この強化薬はどこまで突き詰めたところで、最終的には使用者の身を崩壊させてしまうと。だから僕は放棄した。僕でさえ手が負えなかった。もう、あの薬の研究は凍結しているよ」


 そんな。

 最後の望みの綱が断たれたような気分になった。

 他力本願なところがあるが、僕にはもうこれしか残されていないと思っていた。

 こうなれば最後は自分の力でどうにかするしかない。

 しかしはっきり言おう。この状況を打開する術を、僕は持ち合わせていない。

 さらに言えば後に控えているルークさんに僕が生きたまま勝利する自信はない。

 だけと、それがどうしたっていうんだ。

 僕は願ったはずだ。カレン、そして今はロゼさんとも、あの頃のように笑い合いたいと。

 だったら何をすればいい。

 答えはもう見えているじゃないか。

 そうだろ、ネロ・ヴァイス。


「……それじゃあ仕方がないな。諦めるよロゼさん」

「そうか。だったら今すぐ二人でここから逃げ――」

「逃げませんよ」


 その一言。ロゼさんの提案に異を唱える。


「……何?」

「僕は逃げません。たとえ打開できる可能性が極限にまで低くとも、それは決して零ではないはずだ。わずかにでも可能性という希望の芽があるのなら、僕はどれだけ足掻いてでもそれを掴んで見せますよ」


 それを聞き、ロゼさんは顔を下げ、くっと唇をかみしめる。

 僕はソファーからロゼさんに振動が伝わらないよう静かに立ち上がり出口へ向かって歩を進める。

 ロゼさんは重い体を起こして問う。


「――何故、君は自分の身を削ってまでして戦うんだ。何が君を駆り立てるんだ」


 その問いに、ふっと微笑する。それは当然――、


「家族を、大切な人たちを守りたいからです。昔のあなたと同じですよ」


 いよいよ、戦場に向かおうと、扉に手を掛ける。

 カレンがロゼさんに一礼してから僕の後ろにつく。

 ぎいっと甲高い音が鳴り、戦場への扉が開かれようとした、その時だ。


「……ネロ。持っていけ」


 微かに聞こえる友の声。無意識に振り返る。

 シェルプがふよふよと近づいてきて、僕に小さなプラスチックのケースを手渡した。


「これは……」


 ケースの中には錠剤が数粒。

 意外な出来事に僕の思考が追い付かない。


「覚える必要はないが、この薬品の名は竜化薬。竜になるなんてことはないが、副作用として皮膚が爬虫類のような鱗状になるためそう名付けた。

 効果が表れるのは服用してから数分後。効力の継続時間はおよそ三十分程度だ。それを踏まえて服用してくれ」


 竜化薬。なぜこの薬を渡してくれたのか。

 どうして、あれほど頑なにしていたのに。

 凍結したとまで言って僕に渡そうとしなかったのに。

 僕の言葉に、昔の自身の姿を見たのだろうか。

 推測でしかないが、それが彼の心を動かしたしたのかもしれない。


「お目当てのものを手に入れたんだろ。さあ、行きなよ。ネロ、カレン。僕も傷の手当てが終わり次第すぐに向かう。それまで死ぬんじゃないぞ」


 ありがとう。僕は強く感謝し、頭を下げる。

 僕たちは踵を返し、戦場へと駆けた。

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