第6話 失われた過去/壊された未来③
全てを、思い出しました。
ルークさん、今ならあなたの言葉が理解できます。
僕は、僕を殺した存在が憎くて堪らなかったようです。
ですが何故でしょう。
この一年と半年の間、記憶を失い活動してきたことで、その憎悪が他人事のように感じてしまいます。
そうでなければ、僕は間違いなく手にした力を用いて復讐を計画したことでしょう。
僕から全てを奪った魔術師という存在を滅ぼすために。
だからこれは、むしろ救いなのでしょうか。
ですが悲しくもあります。
何故なら僕は、死んでいった彼らのために怒ることすら出来ないのですから。
◇
あれからどれだけ立ち尽くしたままだったのだろう。
「――ネロさん」
突然の声に我に返り、ビクッと身体が震える。後ろに振り向くとそこにはカレンが立っていた。あわててアルバムを閉じて棚に戻す。
「カレン、いたのか」
カレンは「うん」と頷く。
「お待たせ。わたしはもう大丈夫だよ。もう、帰ろう」
いつものような覇気は全く感じられない。目は赤く、さっきまで泣いていたであろうことがうかがえる。
僕にできることは何かないのだろうか。
「もう、いいのか?」
「もう、いいよ」
弱々しい声で返答するカレン。
「もう、どうしようもないんだよ。だって、この街には誰もいないんだから」
結局、良い成果を何一つ得ることがないまま帰路につくことになった僕たち。
バイクで走れるところまで押して移動し、バイクに乗りエンジンをかける。
カレンも続けて僕の後ろに座る。
「じゃあ出発するぞ」
カレンが頷いたことを確認してからバイクを走らせようとする。
その時だった。
『――わたしはここにいるわ』
声が聞こえた。
「――え?」
いや、そもそもこれは声なのか? 空気を伝わって届いたものというより、頭の中に直接書き込まれたかのような感覚。気のせいか、と自分を疑いたくなる。
「カレン。おまえ、何も言ってないよな?」
と確認。
「? うん、わたしは何も」
「だよな」
違うとわかっていた。そもそもカレンの声とは似てもつかないもの。
間違うはずもないが、聞かずにはいられなかった。
『――あなたたちを待ってるから』
続けて語りかけてくるそれ。何故だろう、妙な心地よさを感じる。
声が聞こえてくる方向は分かる。
音の発信源、というわけでなく、妙な存在感がある。
「少し寄り道をさせてくれ」
言って、帰り道とは別の道にバイクを走らせた。
「ちょ、わたしまだ何も言ってない。まあ、いいけれど、一体どこに?」
「今僕たちの目の前に見えるの山の上までだ」
◇
目的の山の麓まで到着する。
木々のトンネル。石でできた階段がその中に続いている。
ここから先は階段で上るしかできないらしい。バイクはここに置いていくことにした。
そして十数分上り続けたところで頂上付近の開けた場所にたどり着く。
目前に広がる池には蓮の葉が敷き詰められている。
そして一直線状に掛けられた木製の橋。その先には小さな島ができていて、ポツンと寂しく祠が建てられていた。
やはり、人の手が加えられていないためか、街と同様廃れきっている。
「ここは」
後ろをついてくるだけだったカレンが口を開く。
「ネロさん。どうしてこの場所を」
「知っていたわけじゃない。誰かに呼ばれたような気がして。その声の主の気配がある場所に向かったらこの祠があっただけだ」
と答えるものの、カレンの質問の仕方が気になる。
――どうしてこの場所を?
それはまるで自分は知っているがネロは知らないはず。なのに何故この場所を知っているのか。そんな言い方にも聞こえてしまうじゃないか。
「カレン。おまえはこの祠を知っているのか」
「……うん」
「僕はこの場所が何なのか知らない。ここには何があるんだ」
聞くと、カレンはついてきて、と言ってから祠に向かって橋を渡る。
言われるがままに後ろについて歩いていく。
カレンは祠の前で立ち止まり、僕の方へ振り返る。
そして、この場所が何であるかを告げた。
「ここは普通の人間だった頃のわたしが最後に魔術を発動した場所。そして魔導十二至宝が一柱、無の属性を司る霊獣ジェミニが封印されている聖域だった場所だよ」
「ここが、そうだったのか」
カレンの記憶に残された一部分。
名も知れない魔術師に唆され星座の魔術を発動させた場所。
聞いたことはあった。
というより噂程度で。
レイベルと他の街を隔てる山のどこかにレイベルの守り神が祭られていると。
だが、その場所に行ったことはないし、行こうとは思わなかった。
どこにあるのかも定かでない。
そこに何があるのかもわからない。
そんな怪しい場所に行くほど物好きではなかったのだ。
ただ、一度だけ不思議な感覚に苛まれたことがある。
僕はある目的地に行くため一度だけこの山の麓を横切ったことがあった。
当然、階段があるところも見ている。
だが、そこで登ってみようなどという考えには至らなかったはずだ。
そこで感じたことは面倒だ、とかでも怪しいでもなかった。
ただ早く、早く離れないと、だった。
時間に余裕がなかった訳でもない。
そう感じた理由。
思えば、典型的な人払いの魔術、もしくは結界だったのだろう。
今ではその魔術も消え去っているため確認のしようがないが、ここは星座の魔術という一端を担う聖域だ。それくらいの予防があってもおかしくはない。
祠を見る良い機会だと思い、一直線に歩き出す。
そして、橋を渡り終えカレンと並ぶ。
カレンは僕が横についたと同時に祠へと向きなおした。
祠の前には供え物を置くためのものなのか、石造りの台座が一つ設けられていた。
僕はそこで思い出す。
テレジア学園、旧校舎の最奥。
霊獣レオが守護していたあの領域を。
「……出てこないよな」
「まさか、ここは何年も前にわたしがこの手で魔力を絞りつくした場所。霊獣も、たぶんその名残があるだけでレオさんのように実体化はしないはず」
「……ん? レオさん?」
「うん、レオさん。……あれ、おかしかった」
「いいや。霊獣の名前に『さん』をつける奴を始めてみたってだけだ」
「それ、暗におかしいって言ってるようなものだよ」
「そうか。すまないな」
それはそうとして。だったら、あの時聞いた声は誰のものだったんだ。
一種の可能性として霊獣のものではと考えもしたが違うのか?
二人同時。一歩踏み出した。その時。
『――ははは、やっと姿を現したな。愚かな人形どもよ。もう逃がさんぞ。復讐の時だ。我ら霊獣の怨嗟の声を聞け!!』
虚空から少年のような、少女のような狂気の叫びが響く。
まったく予想外だった、というわけではない。
むしろその逆。霊獣が現れてくれるのではないかと予感していたくらいだ。
レオの時と同様に空に向けて一直線に光の柱が放たれる。
柱は円状となり、その中心から徐々に外側へと黒く澱んでいく。
そして、人の形をした影。光の柱は細くなり、徐々に内側の正体をさらけ出そうとする。
さあ、拝ませてもらおうか。レイベルに奉られる霊獣の正体ってやつを。
「――え?」
そんな唖然とした声を発してしまう僕。
霊獣が姿を現すまで、あの場でじっとしているものだと思っていた。
そして莫大な魔力と圧力を発しながら、己が真名を名乗りをあげるのだと。
レオの時がそうだったから、と言ったところで前例が一度しかない。
あてにはならない情報なのは分かっていた。
分かっていたのだが……
「――っていうのは冗談でーす。ひゃっほ~ぅ」
柱の内側から何かよくわからないものが弾丸のように飛んできて僕の身体にのしかかる。
そのあまりの衝撃になすすべもなく後ろに背中から倒れてしまった。
「ギャーッ!!」と猫のような悲鳴をあげるカレン。
雲一つない青空を見上げることになった僕には彼女の声しか聞こえず、その表情までは分からない。
だが、今までに聞いたことがないくらい馬鹿みたいな悲鳴をあげている。そこから察するに危険ではないが尋常でないことが起こっていることが窺える。
とっさの出来事だったが、何かに襲われる直前に状態保持の能力を発動していた。
そのため、腹に孔が開こうとも、頭が潰されようとも、元の状態に戻ることは保証されている。状況的に身体的な面で僕に心配事は何もないと言ってもいいだろう。
だが何故だ。カレンの叫び声は一向に止まなかった。
「ちょっと、あなた誰ですか。早くネロさんの上から退いてください!」
「あら、この娘ったら焦っちゃって。こんなに触れ合っているわたしにやきもちでもやいているのかしら」
「やいてません! だから早く!」
「嫌じゃ~」
「嫌じゃ~、じゃありません!」
……。
何だ、この平和空間は?
何が起こっている?
カレンの声とは別に落ち着いた少女の声が聞こえる。腹の上にはほんの少しの重圧と、ふにふにと柔らかい感触がある。
痛みも徐々に薄れてきたので、首を動かし腹の上に乗っているものの正体を確認する。それは僕の身体に馬乗りになって、そこから頑なに離れようとしない。
そこにあったのは確かな霊獣の気配。だが、それは獣のような姿をしておらず、ましてや人外の姿すらしていない。
そこにいたのは紛れもない人間の形をした女の子。
まるで雪のように真っ白な髪。そして白の着物に身を包んだ年端もいかない少女。
しかし額の、右目の上付近から生えた一本の赤黒い角は、やはりこの少女が人間ではないのだと警戒心を植え付けさせる。
カレンと言い合う彼女は僕に見られていることに気が付くと、「ふふ」と少女の姿には似合わない妖艶な笑みをこぼす。
「ようやく会えたわね。ネロくん、カレンちゃん」
霊獣ジェミニ。無の属性を司る魔導十二至宝の守護者。
ジェミニという名の通り二つで一つの霊獣だそうだ。しかし、そのうちの片割れが過去に起きたある事件の影響で消滅してしまったらしい。
テレジアで出会ったレオとは違い力の大半を失っている状態だ。
しかし彼女は紛れもなく霊獣。それでもなお強大な存在であることに違いはないだろう。
「へー、カレンちゃんは見た目も雰囲気も全然変わらないわね。あの時のままで安心したわ。あ、これって失礼だったかしら。でも悪くとらえないで。変わらず健康そうでよかったって意味だから。
でも、君はなんだか雰囲気が変わったわね。えっと、今は『ネロ』くんなんだよね。前はもっとこう、熱血少年、って感じがしてたんだけど。
今じゃ、クールな美男子じゃないの。わたしの好みからは少しばかり外れてるけど、これはこれでいいかも」
ジェミニはゆったりと浮遊し僕たちを観察する。
「君は何を言っている。一体何者なんだ。僕たちは君に会ったことがあるのか」
このような子供の形をしているが、僕はレオという光の霊獣を知っていて、さらにそれが初めて目にしたものである。その強烈なイメージはどうしたって脳裏から離れない。だから否が応にも警戒してしまう。
僕はたぶん、彼女を訝しむ目で睨んでいたことだろう。
ジェミニが「落ち着きなさいな」となだめてきた。
「あなたはわたしと会ったことはないわ。わたしが一方的にあなたを知っているだけ。対してカレンちゃんは久しぶりになるわね。姿は分からずともこの声に覚えはあるはずよ」
カレンは目を逸らすも、ジェミニの言葉に答える。
「はい。あの時はご迷惑をおかけしました」
ぺこりと頭を下げるカレン。
「別に責めるつもりはないわ。あの時はもう、あの方法以外の選択肢を奪われていたのだから、どうしようもないわよ」
そうか。二人のやり取りである程度の予想はついた。カレンは最後のあの日、ジェミニの声を聴いていたのか。そして、その声を振り払い魔術を行使した。無理やり力を引き出されたジェミニも紛れもない被害者だったのだ。
「それでもだ。あの時はすまなかった。僕からも謝罪させてくれ」
「あら、義理堅いのね。あなたはあの時の魔術に関係していないというのに。でもね、二人とも。さっきも言ったけれど、わたしはそもそも怒ってすらいないから。気負う必要はどこにもないのよ」
「そうか、それでもすまない。ただその寛容さはありがたく受け取るよ」
「見つけ出して呪ってやりたいって思ったことはあるけどね」
それを聞いたカレンは「うう」と唸りをあげる。今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「ふふ、冗談よ」
「いやらしい性格してるよ、あんた」
「あら、それって誉め言葉?」
「どこがだよ」
こほん、と咳ばらいをするジェミニ。
ともかく、と言ったところ本題に入ろうとしているのだろう。
僕はこれ以上追及することはしなかった。
「ともかく、わたしはずっとあなたたちに会いたかった。わたしの魔力を継承したあなたたち二人に」
継承した?
つまりはジェミニの試練を乗り越えた、ということになるのか?
そして彼らの力の根源、至宝を手にした。
だがそのような記憶は持ち合わせていない。
今の僕ならはっきりと断言できる。
「継承した? 信じられないな」
疑い深い僕にジェミニは微笑みかけてくる。
「けれど事実よ。あなたたちの最期の日、十四年前の地獄の中、あなたたちの命を繋ぎとめるために力を貸したの。わたしの内に秘める全ての魔力を使用して、奇跡を起こす手助けをした。
でも、それ以降のあなたたちの行方は知れず。どうしているのか気にしていたの。知りたくても、わたしはこの場所から離れることはできないから。
もう、他の霊獣と念話する力さえも残っていない。今となっては何の力も持たない地縛霊みたいなものよ。
あなたたちのこと抜きにしても、以前のように賑やかな街中を駆け巡ることもできない日々。本当につまらなかったわ」
皮肉気に自身の内情を語るジェミニ。
「だから、こうしてわたしの前にあなたたちが来てくれたことはとてもうれしく思っているの。これも神のお導きかしらね。少しだけはしゃいじゃったわ」
少女は笑みを浮かべる。
見た目の姿に相応しい、霊獣には似つかわしくないほどの可愛らしさで。
もう霊獣なんて言葉は失礼なのではなかろうか。
日の光に照らされた白い少女はまるで、守り神そのものだったのだから。
「そうか、僕たちが今もこうして生きていられるのも、君の加護のおかげってことだったのか」
「加護だなんて、もてはやし過ぎよ。まるで女神の所業みたいじゃない。見た目や力に惑わされないで。わたしはただの十二体いる霊獣の内の一体にすぎないのだから」
謙遜するジェミニ。
それでもだ。
僕は彼女の行為に感謝したいし、彼女をただの生きた道具だとは思いたくなかったのだ。
「――でも、それだと納得がいかないところがあるよ」
とカレンは疑問を言う
その質問に僕は聞き返した。
「どうしてそう思ったんだ?」
「以前、光の霊獣であるレオさんと会ったよね。その時、わたしたちはレオさんに力を示せと言われた。
同じように至宝の所有者として相応しいかの試練が行われるのではないのかな、って。まさか無償で力を貸してくれた訳でもないだろうし」
と言うカレン。
確かにそれは僕も思った。僕はもちろん試練を行ってはいないし、カレンもそのような質問をするということは、やはり僕と同じなのだろう。
ただ、僕たちの知らないところで、意識を失っているところで、何かの取引を勝手にされていたのなら別になるが。そこのところはどうなのだろう。
「ジェミニ。カレンの疑問に答えてくれないか?」
その問いに、ジェミニは呆然とした顔で答える。
「あれ? 無償で貸しちゃ悪かったかしら?」
「「……はい?」」
と僕とカレン、二人同時に声に出してしまった。
「だから、無償。聞こえなかった?」
「「いや、聞こえています」」
またしても同時に返答する僕とカレン。
――え? どういうことだ?
そういう霊獣もいるってことか?
ロゼさんは確か霊獣の試しのようなものがあるということを言っていた。そして僕たちはレオの時にそれが事実であると確認した。だが、ジェミニは無償という。
無償。無償。ああ、無償か。
よくフランやミラさんが言っていたな。只より安い物はない、と。
「何、二人して睨んで。恐いわよ、あなたたち。言い方が悪かったかしら。いや、悪いのよね。そんな反応をされるということは。
訂正するわ。試しを行ったのは事実よ。だけどそれを受けたのは君たちではないの。別の子がわたしの試練をクリアして、そしてわたしの恩恵を受けたのが君たちってところ」
「他の誰かが肩代わりをした、ということか?」
そんなことができるのか。
霊獣の試練ってかなり霊獣自身の性格や考え方に影響されるってことになるのか。
意外と固定されたルールの中にあるものじゃないんだな。
だからこそ、至宝を収集する難易度が高いことに繋がるのだろうか。
「でも、そんなことを誰が?」
と、質問をする。その質問はジェミニにとって意外だったのか、彼女は目を丸くして言う。
「あれ、そのことも知らなかったの?」
ああ、彼はずっと隠していたんだね、と聞き取れるかどうかの小ささで囁く。
「あなたたちを救うためにそれを受け入れたのは君たちもよく知っているあの少年よ」
そして僕たちの反応を待たずに続ける。
僕もカレンも、彼女の言葉を止めようとはしなかった。
たぶん分かっていたのだろう。
予感はあったのだろう。
僕たちをあの場から救った人物。
僕たちのために試練を肩代わりするほどのお人好し。
もう、あの人しか思い当たらなかった。
「君たちの親友。そして、今では魔導の三賢者という最上位の称号を得た至高の魔術師。
――ロゼ・フェイズよ」
そう告げられた僕は、そしてカレンもまた意外なくらい落ち着いた心情だった。
「そっか。やっぱり所長だったのか」
「そうよ。彼はわたしの試練を見事突破した。そして、彼の願いを一つ受け入れた。結果的にわたしはこうしてただの矮小な存在になってしまったのだけれど、それでもね……」
そして、すっと目を瞑る。
昔のことを思い出しているのだろうか。
ほんの少し、微かに頬を染めるところから、決して悪い思い出ではなかったのだろう。
ロゼさんとジェミニの関係が少しばかり気になった。
ロゼさんのことだ。科学者としても優秀だった彼は魔術師としても昔から優秀だったに違いない。
そんな過去を思い出して、あの子は良かったな、なんて回想しているのだろう。
「――そういえば、昔の彼はとても優秀な魔術師とは言えなかったわ。なんだかお情けで合格にしてあげたような気がする」
不意にそのようなことを口にしたジェミニ。
「……」
「ええ、そうだったわ。彼の信念に心を奪われて、つい合格にしちゃったんだわ。わたしとしたことがお馬鹿さんね」
「……」
すごく、すごく嫌な予感がする。
「ということで試練の合格に足りない点数分はあなたたちで何とかしてもらえないかしら。ああ、あなたたちがここに来てくれたのも、神のお導きよ」
ジェミニは胸を張るように腰に手を当て満面の笑みを浮かべる。
「嘘だー!! 受け入れる。受け入れるけどっ!」
と心の底から叫ぶ僕。
「いやぁ―!! 当然なのは分かってる。分かってるけどぉー!」
と頭を抱えるカレン。
「ははは、それじゃあ残りの対価を支払いなさいな~」
と、なお大笑いをするジェミニだった。
「で、何をすればいいんだ、ジェミニ?」
その問いに人差し指を一本立てて答える。
「欲しいのはあなたたちの時間よ」
「時間?」
訳の分からなさそうにカレンが首を傾げる。
「ええ、時間。そのままの意味」
ごくりと唾を飲み込む。
どのような過酷な要求が待っているのか。
時間、という言葉から連想されるのは第一に寿命だ。
僕たちの身体年齢はあの十四年前の地獄の日から変わっていない。
その分の時間を経過させることになる、なんてことを考えてしまう。
僕たちでいうと三十台前半になるということか。
流石にきついな。
カレンにとってはまさに自殺案件そのものだろう。
精神攻撃も甚だしい。
「ネロさん。時間って、わたしたち老けちゃうのかな」
「あ、やっぱりそう考えちゃう?」
はぁ、とやっぱり同時に反応して大きなため息を吐く僕たち。
「ちょっとちょっと、あなたたちは何を考えているわけ? そんな残酷な要求はしないわよ。わたしがほしいのはね」
そしてまた、霊獣としてではない少女の姿に相応しい笑顔を浮かべる。
「どれだけ時間をかけてもいいわ。あなたたちが目覚めてから今日までの思い出話を聞かせてほしいの。わたしたちが救った君たちがどう生きてきたのか。それを知りたいの」
それを聞いて顔を見合わせる僕とカレン。そして同時に微笑む。
言葉に出さなくとも、僕たちの意見は一致していることが受け取れた。
二人そろってジェミニの方へ向きなおす。
そして――
「それくらいならお安い御用さ」
「少し長くなるかもしれないけどいくらでも」
さて、どこから話そうか。
やっぱり物語を語るのだったら時系列はひとつながりの方がいい。
だから、そうだな。
まずは僕があの研究所で目覚め、ロゼさんや仲間たちと出逢ったところから話すとしよう。
そして、カレンとの再会。
特に制限はないんだ。
面白おかしく、冗談も交えながら、僕たちが生きていた証を伝えよう。




