第098話 折衷案
据わった目でまばらに手を叩くローリエさん。その奥にはメラメラと燃え滾る怒りのようなものが滲んでおり、これ以上この私に迷惑をかけてくれるなという情念のようなナニカを感じる。これは、本気でマズいやつだ!!
「ちょ、ちょっと待ったぁ! Sランクってなんすか、飛び級昇格とか意味わかりませんから。EからSランクとか意味不明ですから!!」
「え~? そんなの知りませんよぉ。そちらが本当のことを言ってくださらないのでぇ、こちらは目の前にある事実だけを吟味してぇ、ポチッと当てはめるだけの作業ですもぉん。こーんなアイテムぅ、一人で入手できるんですもんねぇ。そりゃあSランクの冒険者様でもなければ無理ですよねぇ~?」
あ、これマジなやつだ……。
こっちが折れないと、死ぬほど目立たせたうえ、出るとこ出てやるっていう本気の目だ!
「そ、それは勘弁してください……。これ以上目立つのは本当にご勘弁を……」
「でしたら~!? 本当のことを~!? 話していただけるんですよねぇ~!!?」
もうダメだ!
これはもう、ただの輩でしかない!!
完全に降参した俺は、彼らに事実を打ち明け、ちょうどいいところに納めてもらえませんかと平身低頭お願いしたのであった……。
「それでずっと実力を隠して生きてきたと。別に俺たちは構やしないが、どうしてそんなことをする意味がある。訳ありか?」
「兎にも角にも俺はここで静かに暮らしたいだけなんです。村の人と、ウチのモコモコと、日がな一日なにもせず、ボーッと生きていくのが夢なんですよ。わかります?」
「ボーッとねぇ……。それにしたってそんなもん、ずっと隠れて生きてくなんて無理だろうが。そもそもこうして冒険者登録をしちまった以上、アンタのことは自然と誰かにバレちまう運命だったんだ。隠そうったってそうはいかねぇよ」
「だから大人しく生きたいんですよ。今回のことだって、俺が進んでやったわけじゃない。村のみんなやマイルネの町の人たちに世話になってきたから、それだけで……」
「ったくよぉ、前々からおかしいと思ってたんだ。この二ヶ月ずっとお前らを見てきたが、そもそもあの嬢ちゃん、俺の見立てじゃ良くてランクはBってとこだ。とてもじゃねぇがボアやウルフを屈服させるなんて不可能だ。しかしそいつをアンタがやったと言うなら頷ける。……ま、そもそもウチのエンボスは最初からアンタだとわかってたみたいだけどな。ったく、だったら最初からそう言っとけっつーのな」
どこかで予感はしていたが、どうやらエンボス親方には最初からバレていたらしい。こうして話し合いの結果、折衷案として俺の冒険者ランクをBに昇格させることで彼らにはご納得いただき、「今後緊急招集の際には必ずマーロンさんと同行して俺も出動すること」という要望に応えることで手打ちとなった。
「だが先に言っておく。俺たちはそれで良くても、もっと上のもんがそれで納得するとは限らねぇぜ。国のトップに至っては、それはそれは優秀な御方だし、その下の貴族連中だって黙っちゃいねぇだろうしな。お前を利用しようって輩は必ず現れる」
「その点はお構いなく。こっちはこっちで勝手に対処しますんで。どちらにしても、あまり勝手なことをするなら、こちらにも考えることがありますんで、その点はご勘弁を」
「おいおい、あまり無茶なことはしてくれんなよ。こちらとしても、アンタんとことは上手にやっていきたいんだ。今回みたいな無茶に応えてくれる奴ぁ、俺も大事にしていきたいんでね」
なんだかんだ言って話が通じる二人は、「町を救ってくれてありがとう」と俺に手を差し出した。俺は二人と握手し、「俺だけじゃなくて村のみんながね」と付け足した。
「……で、早速悪いんだが、アンタんとこの嬢ちゃんに呼び出しだ。ウチの公爵付き大臣から今回の農作物について聞きたいことがあるんだとよ。お前も一緒にこい」
「え゛? ……それはちょっと」
「拒否権はねぇ、残念だが諦めてくれ。ってことでローリエくん、マーロン女史を呼び出していただけるかな?」
こうして半ば強引にコーレルブリッツ公国の大臣との面会をセッティングされた俺たちは、その日のうちに公爵らが住まうコーレルブリッツ城へと招かれることと相なった。
逃げられないように同行するというテーブルとローリエさんに手を引かれた俺とマーロンさんは、いやいや城門を潜り、初めての城内へと歩を進めるのだった――
こんなのは詐欺だー!
また騙された!
いつもこんなことばっかしだー!!