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第079話 村長です


「魔物と取引だと? ふざけたことを。そもそもそんな保証がどこにある。そいつらが冒険者たちを襲わないという証拠など、どこにもありはしない」


「だからこそ、私とローリエ殿がいるのだ。双方の証人として、我々が見届人となって契約を結べばいい。そうすることで、一方的に契約を破棄することはできなくなる。お前たちもそれで良いのだろう?」


 マーロンさんの質問に、シルシルが深く頷いた。しかしまさか魔力を用いた契約まで持ち出すとは思っていなかったのか、「ちっ」と舌打ちするテーブルが面食らっているのがよくわかった。


「双方にメリットはあるはずだ。マイルネとしては南国へすぐにでも間者を送りたいが、彼らウルフの存在がネックとなっていた。しかし彼らとて、それが本意ではない。これまでの行いの罪が晴れるというのなら、これ以上の障壁にはならないと約束してくれた」


「ふん、しかし南へ抜ける冒険者を襲えなくなったのなら、奴らはこれからどうするつもりだ。食い扶持もなく、帰る場所もない者が、一体どうして生きていける!? 十中八九、別の場所に移って冒険者を襲うだけだ。それではなんの解決にもなっていない、違うか?」


 (いきどお)ったテーブルがヒートアップしているのを見計らって、俺はタイミングよくパンと一つ手を叩いてやる。「なんだキサマ」と不機嫌な彼を「まぁまぁ」となだめた俺は、彼らに一つ提案をしてみせる。


「そこで皆様におひとつご相談が。そんな行くアテがなくなってしまった彼らについて、どうか我が村に連れていく許可をいただけませんか。もちろん、まだ定住すると決まったわけではありませんが、その終着点に向けて前向きにお話をさせていただきたいなと思っており。どうです、悪い話じゃないですよね?」


「なん、だと? ……ボアに続き、貴様らウルフまで囲い込もうというのか。フン、馬鹿げている。そんなことが可能なものか!」


「しかし彼らは我らと赴くことを同意してくれた。我が村の者たちが同意することが条件ではあるが、私たちとしては彼らにも村に定住してもらいたいと考えている。当然そうなれば、これまでと同様、マイルネの町とは相互の関係として良い付き合いをしていきたいと思っている。どうだろう、考えてもらえぬか?」


 マーロンさんの提案に、シルシルは絶対服従を示す腹這いの格好で俺に頭を撫でられながら頷いた。そのあまりに不可思議な光景にローリエさんは目を回すばかりで、もはやフラフラのグロッキー状態だ。ごめんなさい、ローリエさん!


「どんな方法を使ったか知らんが、シルバーグロウウルフまでも懐柔(かいじゅう)したというのか……。ふざけた奴め」


 などと色々口では言っているものの、しかし俺は知っている。


 この提案は、彼らギルドにとって渡りに船。面倒事が一つ解決できるうえ、何よりギルドも町も余計な損害を被らなくて済む。だが、これだけではまだ弱い。そこで俺は一本指を立て、彼らに追加の提案をしてみせる。


「ならばもう一つ、こんなのはどうでしょう。南の国へ向かうマイルネの面々に、彼らウルフの仲間を同行させましょう。彼らの機動力は人や馬と違って雪道でも関係なく歩を進めることができます。何より彼らの動きはとても速い。マイルネの間者を運ぶには、彼ら以上の適役はいないと思いますよ」


「なに? そ、そんなことが可能なのか」


 シルシルに話を聞くと、事も無げに頷いてみせた。「問題ないそうです」と返事したマーロンさんは、俺に目で合図をしながら改めてテーブルに質問した。


「もう一度聞きます。彼らに間者の邪魔をさせない代わりに、これまで述べた条件を認めていただけませんか。もちろん町に迷惑をかけませんし、何かあれば我々も責任を負います。ですからお願いです、彼らの願いを聞き入れてください、お願いします!」


 深々と頭を下げるマーロンさん。

 ぴょんと彼女の前に飛び出したポンチョも、同じように頭を下げた。……まったく、そんなことされたら俺もやらないわけにいかないじゃんよぉ。ぺっこり90度!


「……ちっ、どうしてアンタらが、魔物であるそいつらのためにそこまで。魔物が死のうが飢えようが、アンタらには関係のない話だろうが。違うか!?」


「確かにそうですね。……ただ、私は私を頼ってくれた者たちを無碍に見捨てることをしたくない。それだけです」


 うわっ、マーロンさんイケメン!

 ……じゃない、イケジョ! 俺、惚れちゃいそうです!


「アンタがどう思おうが、そんなのはアンタの勝手だ。後で痛い目をみようが、殺されようが、俺は知らん。悪いがこの件、ギルドとしてはアンタらのことについての保証はしかねる。よってギルド側は一方的にそっちの提案を享受することにはなるが……、それでいいならのんでやる」


「構いません。我々はギルドが彼らをターゲットとしないことを約束いただけるのなら、それだけで……」


「いいだろう、しかし勘違いするなよ。もしお前らがおかしな行動を取れば、そのときは直ちにギルドの冒険者を動かす。何より当然契約は交わさせてもらう。口約束では意味がないからな」



 こうして双方同意の上で交わされた契約によって、シルシルたちの村への移動、及びギルドによる身元の保証(※無干渉)が認められた。しかもギルド側としては移動手段+同行する間者の安全保証付きとなり、これ以上ない条件のはずだ。


「我々のわがままを聞き入れていただき感謝する。ローリエ殿も、いつも無理を言って済まないな」


 マーロンさんの謝罪にプクッと膨れたローリエさんは、ポンチョを抱え、「なんだかもう慣れてきましたよ!」と嫌味に言った。するとそこで、「あっ」と声を上げたマーロンさんが、二人に伝えることがもう一つありましたと付け加えた。


「な、なんだよ。まだ何かあるのか。そろそろいい加減にしてくれ……」


「我が村について、このたび新たな村長を迎える運びとなりましたのでご報告を。こちら、我が村の村長となりましたハクです。以後お見知り置きを」


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