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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第3章 雪雪危機一髪!

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第076話 桃源郷


 ウルフの鼻先に触(ふ)れながら問う。

 しかし目と鼻の先にウルフの巨大(きょだい)な顔が迫(せま)り、気が気でないマーロンさんの顔は盛大(せいだい)に引きつっているぞ。いつもいつも申(もう)し訳(わけ)ない!


 グルルと牙(きば)の隙間(すきま)から吐息(といき)が漏(も)れ、マーロンさんとポンチョの肌(はだ)に生暖(なまあたた)かい息がかかる。しかしこちらの意図を読み取ってくれたのか、それとも全(すべ)てを諦(あきら)めてしまったのか、シルバーグロウウルフはその場で伏(ふ)せの姿勢(しせい)を取り、そのまま完全降伏(こうふく)を受け入れた。


「ふぅ、脅(おど)して悪かったな。だけど安心してくれ、キミたち家族に危害(きがい)は加えない。……って、ちゃんと通じてるのかな。マーロンさん、通訳(つうやく)してもらえる?」


 驚愕(きょうがく)した表情でウルフと俺(おれ)とを交互(こうご)に見回した彼女(かのじょ)は、ずっと我慢(がまん)していた声にならない声を漏(も)らしつつ、「ふぇぇぇぇぇ」と腰(こし)を抜(ぬ)かした。しかしそれとは対照的にご満悦(まんえつ)でウルフの鼻先に触(ふ)れたポンチョは、同族を感じ取った喜びなのか、すぐに気を許して飛びついた。


 しばし彼女(かのじょ)が落ち着くのを待ってから、俺(おれ)たちは改(あらた)めてウルフとの対話を試みた。しかし遅(おく)れてやってきた取(と)り巻(ま)きのウルフたちが、俺(おれ)たちを取り囲み、怒(いか)りを露(あら)わにして牙(きば)を剥(む)きジリジリと距離(きょり)を詰(つ)めてくる。


「あわわ、う、ウルフがいっぱい……!?」


「さすがにそうそう上手(うま)くはいかないか。どうしたもんかね?」


 いてもたってもいられず、最初の一頭が熱(いき)り立(た)って襲(おそ)いかかってきた。「ヒャー!」と逃(に)げ腰(ごし)なマーロンさんを抱(かか)えた直後、ずっと大人(おとな)しくしていたシルバーグロウウルフが仲間を首だけで跳(は)ね飛(と)ばして一喝(いっかつ)した。途端(とたん)に大人(おとな)しくなった面々は、諦(あきら)めて地面に腹(はら)をつけ、嫌々(いやいや)ながらこちらの言葉に耳を傾(かたむ)けてくれた。


「マーロンさん、お願いしていいかな?」


「は、はひ……。え、ええと、私(わたし)たちはここから東にあるモリスの森に住んでいる猫(ねこ)族のマーロンと、こっちは私(わたし)たちの村の長(おさ)であるハクです。よろしくお願いします」


 睨(にら)みつけるウルフたちを制し、背後(はいご)に彼(かれ)らを並(なら)べたシルバーグロウウルフは、どうか自分の命と引(ひ)き換(か)えに同族の命だけは見逃(みのが)してもらえないかと命乞(いのちご)いした。どうやら彼(かれ)は自分との圧倒的(あっとうてき)な戦力差を感じ取り、全(すべ)てを諦(あきら)めて交渉(こうしょう)にのってくれたのだという。……俺(おれ)の意思、全然伝わってなかったじゃん!


「だ、大丈夫(だいじょうぶ)、私(わたし)たちは皆(みな)さんに危害(きがい)を加える気はないし、討伐(とうばつ)しにきたわけでもありません。……あれ? でもだったら私(わたし)たち、何しにきたんだろう?」


 自分の役目がわからなくなって混乱(こんらん)しているマーロンさんの肩(かた)に手を置いた俺(おれ)は、ギルドで話を聞いた時点でどうにも気になっていた点を彼女(かのじょ)に耳打ちした。


「え? それをみんなに聞けばいいの?」


「うん。お願い」


「ええとね、見たところみんなは、この平原に昔から住んでいたわけじゃないよね。みんなはどこからきたの?」


 マーロンさんと同じく困惑(こんわく)した様子のシルバーグロウウルフのシルシル(※仮名)は、自分たちがここよりさらに南の国の、とある森から移り住んできたことを俺(おれ)たちに伝えた。しかしその直後、彼(かれ)らはこちらが思いもしなかった言葉を口走った。


「え? ……桃源郷(とうげんきょう)?」


 マーロンさんが言葉の意味を読み取れず聞き直す。しかし彼(かれ)らが改めて口にした言葉は、一言一句違(たが)えず同じものだった。


「みんなはこの近くにあるという、『桃源郷(とうげんきょう)』を探(さが)しにやってきた、ということなのね? ねぇハク、どういうことなんだろう」


 話を聞けば、どうやら南の国周辺でも長い降雪(こうせつ)が続いており、その影響(えいきょう)から餌(えさ)となる作物や魔(ま)物の数が激減(げきげん)し、飢饉(ききん)が発生しているのだという。よくよく見れば、毛並(けな)みだけは体裁(ていさい)を整えているものの、確かに彼(かれ)らの身体もどこか覇気(はき)がなく痩(や)せている。こけた頬(ほお)や脇腹(わきばら)あたりには肉感が乏(とぼ)しく、食うに苦労している様子が窺(うかが)えた。上位の魔獣(まじゅう)ですらこの状態だとすれば、その下は想像に難(かた)くない。


「なるほど、それでわざわざこんな所まで。しかし桃源郷(とうげんきょう)とはね、悪いけどそんな噂(うわさ)は聞いたことがないなぁ」


 俺(おれ)とマーロンさんの相槌(あいづち)に、シルシルたちウルフの顔が伏(ふ)せてしまった。どうやらその情報だけを頼(たよ)りに長旅をしてきたらしく、もはや焼け野原にも等しい故郷(こきょう)には期待できず、戻(もど)る場所すらないのだという。


「それで仕方なくたまに通りかかる冒険者(ぼうけんしゃ)を襲(おそ)っていた、と。その情報を聞きつけ、お前たちは我々(われわれ)を討伐(とうばつ)しにきたのではないかって? 確かにギルドでそんな話を聞いたけど……、ハクがそうじゃないって言うなら、私(わたし)はそれに従(したが)うよ。なんたって、ハクは私(わたし)たちの村の村長だからね」


 どこか安堵(あんど)した様子のシルシルたちだったが、どちらにしろアテが外れた事実は変えられず、自分たちの行く末を想像し、悲観しているようだった。


「マーロンさん、もう一つ聞いてほしいんだけど。ちなみにその桃源郷(とうげんきょう)って、どこにあるって聞いてきたのかな? 少しばかり興味があってさ。もしそんなものが本当にあるなら、俺(おれ)も探(さが)してみたいし」


 しかしマーロンさんの質問に、シルシルたちは大きく首を振(ふ)った。自分たちはこの周辺に動物たちの楽園があると聞き、ただ漠然(ばくぜん)とした情報だけを頼りにやってきたのだと語った。


「動物たちの楽園? ……ちなみにマーロンさんや、ちと変なことを聞くけど、その噂(うわさ)、誰(だれ)から聞いたか確認(かくにん)してもらえる?」


 するとシルシルは、自分たちウルフの仲間ではなく、全くの異種族(いしゅぞく)から得た情報だと明かしてくれた。しかもその相手は、彼(かれ)らと縄張(なわば)り争いすることが多い種族だったようで、あくまでも半信半疑(はんしんはんぎ)であることを付け加えた。


「え゛? いや、まさかそんなはずは……。さらに変なこと聞くようだけど、まさかその情報を聞いた相手が『ボア』だった、なんてことはないよね?」


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