第038話 トゲトゲのトゲトゲさん
「とまぁこんな感じで追い払っておきましたので、皆様は御安心を」
時にあっけらかんと、時に熱を帯びながら語った俺の流暢な講談に、心躍らせる猫族の族長や村人たち、そしてマーロンさんにボアボアも。
昨夜のギルドによる襲撃の全容を知った彼らは、口々に「恐いわねぇ」「物騒な世の中ねぇ」とオバサマのように悲哀を嘆いているご様子。ですがまぁなんというか、そこまで緊張感がないのが救いというか、適当というか、芯のところで人任せというか……
「しかしおかしいではないか。ボアボア、お前も侵入者に何も気付かず、ずっと寝ていたのだろう。では誰が奴らを追っ払ったというのだ!?」
猫族とボアを代表して手を挙げたマーロンさんが質問した。俺は「うむ」と偉そうにひとつ頷いてから、「きたまえ」と背後に隠していた人物を招き入れた。すると……
「ポンチョ、朝ご飯食べるー!」
満を持して嬉しそうに現れたポンチョさん。朝から元気に挨拶できて偉いね~。
でも今はキミの番じゃないの。
ちょっとだけこっちで待ってようか~。
ポンチョを抱えた俺の足元。
そこにちょこんと、彼とはまた別の何かが俺の足にしがみついていた。
むむむと目を凝らして覗き込むマーロンさんに怯え、足元の何かが「ギギギ」と尻込みする声を漏らした。
「な、なんだコレは。これは、こ、小型のムカデか何かか!?」
「そう、彼はずっと昔から俺の手伝いをしてくれてる魔物のトゲトゲさんだ。ポンチョとは以前からの友達で、一緒にいるときは常に二人で一組かな。まぁそれはいいとして……。はい、それじゃあ挨拶をお願いします!」
デフォルメされたムカデのぬいぐるみのような彼を持ち上げた俺は、ぺこりと頭を下げたトゲトゲさんを皆に紹介した。
見た目は四節にわかれただけのポヨンポヨンな可愛らしいフォルムで、各節から申し訳程度の八本の脚が覗いている。二本の触覚と、さらに小さな口はチャーミングで、身体を折り曲げ、「トゲー!」と愉快に挨拶することができました!
なのに……
「いやいやいやいや、こんな可愛らしいムカデのぬいぐるみさんが、高ランク冒険者たちのパーティーを撃退したといわれても。たとえハクの言葉でも、にわかには信じられないよ!」
マーロンさんともども、猫族やボアですら信用してくれません。それもそうか。
「いつもはこんな感じで消費魔力を抑えていますが、いざというときは本当に凄いんですよ。ならトゲトゲさん、少しだけ皆さんに見せてあげようか」
俺が一本指を立てると、「トゲー!」と返事したトゲトゲさんが身体を起こした。すると直後、辺りに濃い霧が立ち込め、急激に視界が悪くなった。
「な、なんだ、急に霧が!?」
「トゲトゲさんは魔界の釜と呼ばれるデモンズウォールの番人として有名なブラックデモンズフォーグ。通称『地獄のムカデ』と呼ばれる一族の三男さんです。実際の体長は約三キロありますので、夜間は村全体を取り囲む形で警戒をしてもらってます」
超超巨大なトゲトゲさんの顔がマーロンさんの目の前で黒光りし、ギロリと蠢いた。あまりの衝撃に言葉を失って俺に抱きついた彼女は、「あ、あ」と言葉にならない感情をぶつけながら、目に浮かんだ涙を流すばかりだった。
「はーいトゲトゲさん、もう十分ですよ。ということで、こうして夜間は彼が村を守ってくれますので、皆さんは今後も安心してお過ごしください」
小さく戻って「トゲー!」と手を振ったトゲトゲさん。そしてそのギャップに絶句している猫族とボアの皆さま。
うん。
……まぁ言いたいことはわかるよ。
でもあのときテーブルがマーロンさんへ向けてたみたいな目をするのはやめてよ。トゲトゲさんがショック受けちゃうからさ。こうみえて彼、実は繊細なのよ……
「もちろん安心してくださいね。トゲトゲさんは村を丸呑みにしたりしませんから。なんちゃって♪」
丸呑みという単語に怯え、マーロンさんが「ヒィィ」と縮こまった。いや、だから大丈夫ですって……
「冗談はさておき、ひとまずAランク以上の複数パーティーでも襲ってこない限り、今後も問題は出ないと思います。ということでトゲトゲさん、今後ともよろしくお願いします。皆様、拍手!」
ポンチョと手を繋いで「おー!」と声をあげた二人。よし、これでひとまず一件落着だな!
こうして村人たち全員が納得したわけではなかったものの、村の守りについては一定の目処がついた。
―― と思ったのもつかの間。
それから数日後、命からがら町に生還したパーティーの報告(※もちろん殺さずに解放しました!)によってまったく別の脅威が森に蔓延っていると報告されてしまい、森の脅威度が急激に上げられたことは言うまでもないのであった……(しょんぼり)
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