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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第1章 村作り開始!

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第037話 森のバケモノ


 俺(おれ)が張(は)り巡(めぐ)らせた『検出(ディテクト)』の罠(わな)に何かが反応を示した。


 侵入者の数は六名。

 足音の気配や存在(そんざい)の消し具合から見るに、CからBランク程度の冒険者(ぼうけんしゃ)パーティーだろうか。


 形跡(けいせき)を残すことなく、目的地だけをまっすぐ目指して進んでいるところをみると、まず間違(まちが)いなくギルドから派遣(はけん)された手練(てだ)れであることが窺(うかが)える。


 寝(ね)ぼけ眼(まなこ)の俺(おれ)は、蹴飛(けと)ばしていた布団(ふとん)を被(かぶ)り直し、再び眠(ねむ)りにつく。


 あれくらいの冒険者(ぼうけんしゃ)なら別にいいや。

 ボアボアだけならまだしも、ア(・)イ(・)ツ(・)の(・)壁(・)は絶対に突破(とっぱ)できないから、と……




――――――――

――――――

――――

――

―





「緊張感(きんちょうかん)を保ち続けろ。この先に待つのは、かの名高いゴールデンワイルドボアだ。しかも周囲は奴(やつ)の取(と)り巻(ま)きどもが跋扈(ばっこ)していると聞く。……なによりボアを操(あやつ)る猫(ねこ)の民(たみ)のこともある。奴(やつ)らに恨(うら)みはないが、いざというときは……」


 闇(やみ)に紛(まぎ)れながらひとりが呟(つぶや)き、他(ほか)の五名が頷(うなず)き応(こた)えた。


 ギルドから聞いている目的の場所は目と鼻の先。ここから先はより慎重(しんちょう)にと足を止めた六名は、姿(すがた)を隠(かく)す魔法(まほう)やスキルを二重三重(にじゅうさんじゅう)に掛(か)け直(なお)し、万全(ばんぜん)を期して身を固めている。


 しかし、彼(かれ)らは気付いていなかった。

 村だけでなく、彼(かれ)ら自身を取り囲んでいる巨大(きょだい)なナ(・)ニ(・)カ(・)が、少しずつ、その距離(きょり)を縮(ちぢ)めていたことに……



「奴(やつ)らは泥(どろ)の中に潜(ひそ)むこともできるらしい。視覚(しかく)だけでなく、魔力(まりょく)を使って相手の位置を感知するんだ。そもそもバカでかい魔力(まりょく)を持ってる魔物(まもの)だ、完全に存在(そんざい)を消すなど不可能に決まっている」


 魔力(まりょく)検知が得意な冒険者(ぼうけんしゃ)のひとりが、ボアボアのいる位置を特定するため、広範囲(こうはんい)にスキルを発動した。泥(どろ)場の中央で安心しきって眠(ねむ)りこけているボアの位置を探知(たんち)した冒険者(ぼうけんしゃ)は、イビキをかいたまま微動(びどう)だにしないボアの存在(そんざい)を確かめ、「あちらだ」と呟(つぶや)いた。


「今ならば奴(やつ)らを出(だ)し抜(ぬ)ける。夜明けがやってくる前に片付(かたづ)ける。ぬかるなよ」


 彼(かれ)らがそう声をかけたときだった。

 中のひとりが、「ぐぁッ!?」と悲鳴を上げた。


 何事だと慌(あわ)てた五人(ごにん)が辺りを窺(うかが)うも、数秒前までそこにいたはずの仲間の姿(すがた)が影(かげ)も形もなくなってしまった。


 まるで理解できず、ひとりが「近くに寄れ」と声をかけて連携(れんけい)を図(はか)った。それぞれが背中(せなか)を預け、全方向へ視線(しせん)を向けながら警戒(けいかい)を解いていないはずが、数秒後、また彼(かれ)らの背後(はいご)で誰(だれ)かの悲鳴が上がった。


「ば、馬鹿(ばか)なッ!? 我(われ)ら五人、ここで密着(みっちゃく)し、目を凝(こ)らしていたはず!?」


 しかしいつの間にか、またひとり、仲間が消えてしまった。状況(じょうきょう)が読めず、疑心暗鬼(ぎしんあんき)に陥(おちい)り自分しか信じられなくなった冒険者(ぼうけんしゃ)たちは、他人よりまず自分の身を案じ、上下左右に視線(しせん)を動かした。


 チロチロと何かが揺(ゆ)れるような音が聞こえ始め、四人の冒険者(ぼうけんしゃ)がそれぞれ耳を澄(す)ませた。次第(しだい)に近付いてくるその音は、無数の鈴(すず)が地面に当たるような音色で、チロチロチロチロと無作為(むさくい)に繰(く)り返(かえ)されている。しかし音の出どころは掴(つか)めず、四人の冒険者(ぼうけんしゃ)は周囲を警戒(けいかい)するほかなく、「何が起こっている!?」と慌(あわ)てるしかない。


 すると今度は、周りを濃(こ)い霧(きり)が漂(ただよ)い始(はじ)めた。森を覆(おお)い尽(つ)くすように広がっていく濃(こ)い霧(きり)は、一人(ひとり)ひとりの姿(すがた)を森に飲(の)み込(こ)んでいく。四人それぞれが離(はな)れるなと連携(れんけい)を取っているはずが、それなのに少しずつ声が離(はな)れてしまう。敵の魔法(まほう)かと勘(かん)ぐるが、まるで見えない敵の正体に警戒(けいかい)する術(すべ)すらない。


「な、な、な、何が起きてる!?」


 誰(だれ)かの声に続いて、また悲鳴が轟(とどろ)いた。チロチロと続く音だけが、森を囲うように接近しては、また離(はな)れていく。仲間の名を呼(よ)んだ冒険者(ぼうけんしゃ)は、もはやすっかり見えなくなってしまった森の様子を手探(てさぐ)りで窺(うかが)いながら、「みんな、どこなんだ!?」と叫(さけ)んだ。


 また新たな悲鳴が聞こえてきた。


 これで合計四人、声が消えてしまった。

 残された二人(ふたり)は、怯(おび)えながらも声の出どころから仲間の位置を予測し、「俺(おれ)はここだ」と口々に自分の位置を知らせた。しかしその声は、右になったり、左になったり、上になったり、下になったりと秒ごとに位置を変え、二人(ふたり)の思考を混乱(こんらん)に陥(おとしい)れた。


「な、な、な、なんなんだ、なんなんだよ!? 何が起きてる!!?」


 困惑(こんわく)した言葉の直後、仲間の悲鳴が森を抜(ぬ)けていく。しかもその言葉の最後に微(かす)かにのった「バケモノ!」という言葉だけが、ひとりきりになってしまった冒険者(ぼうけんしゃ)の耳に鮮明(せんめい)に残っていた。


「な、何かがいやがる。幻惑(げんわく)系(けい)の魔物(まもの)か、それとも猫(ねこ)族のスキルか!?」


 魔力(まりょく)を検知するため、冒険者(ぼうけんしゃ)は広範囲(こうはんい)にスキルを展開(てんかい)した。しかし近くには魔物(まもの)どころか僅(はつ)かな魔力(まりょく)の淀(よど)みすらなく、冒険者(ぼうけんしゃ)は困惑(こんわく)する。


 そんなはずはない。

 そんなわけがない、と。


 未(いま)だチロチロと繰(く)り返(かえ)される異音(いおん)。

 反応しない魔力(まりょく)検知。

 理由なく削(けず)られていく仲間たち。


 そんな極限状態にハマり、冒険者(ぼうけんしゃ)は踵(きびす)を返し、走り出す。


 これ以上、留(とど)まってはいられない。

 このままでは、殺されてしまう。


 そんな本能の叫(さけ)びだったに違(ちが)いない。

 しかし…… それはもう手遅(ておく)れである――


 彼(かれ)を囲んでいたその無数の脚(あし)は、確実に、より圧倒的(あっとうてき)に、彼(かれ)の身体の一節一節を、無闇(むやみ)に掴(つか)んで離(はな)さないのだから……



 必死に逃(に)げる彼(かれ)の目の前から、突如(とつじょ)霧(きり)が晴れ、森本来の姿(すがた)が見えてくる。漆黒(しっこく)に沈(しず)んだような森の中でも、彼(かれ)の夜目は、はっきりと前方を見据(みす)えていた。


 しかし。なのに。

 すぐそこに、はっきり見えていたはずなのに。

 大木の、その先にそびえ立っていたはずの木が、もう見えない。

 闇(やみ)に溶(と)けてしまったかのように、さもその先に、壁(かべ)でもあったかのように。


「境目、境目が、なんだッ!?」


 そこでようやく冒険者(ぼうけんしゃ)は気付く。

 チロチロと続いていた音。

 その音が、自分が見ている境目付近から鳴っていたことに。


 その瞬間(しゅんかん)、境目が突然(とつぜん)畝(うね)り始めた。

 そして畝(うね)は上下に膨(ふく)らみ、冒険者(ぼうけんしゃ)の行く手をすっぽりと阻(はば)んでしまう。


 そして成す術なく尻(しり)もちをついた冒険者(ぼうけんしゃ)は、漆黒(しっこく)に取り囲む壁(かべ)の正体を始めて目撃(もくげき)する。


 無数の脚(あし)。

 その数は、百本、二百本、では足りない。

 千本、二千本でも足りない無限にも思えるほどの細かな脚(あし)が、取り囲む壁(かべ)から無数に生えており、蠢(うごめ)いていた。しかもその巨体(きょたい)は闇(やみ)を思わせるほどに広く深く続いており、さらにまた先で、チロチロと嫌(いや)な音を奏(かな)で続けていた。


「ヒィ、ば、バケモノ!」


 彼(かれ)の悲鳴も、畳(たた)まれた無数の脚(あし)たちに吸収(きゅうしゅう)され、また闇(やみ)に飲まれた。

 そうして全(すべ)ての望まれぬ来客を飲(の)み込(こ)んだバ(・)ケ(・)モ(・)ノ(・)は、音もなく静かな森の奥(おく)へと静かに消えていくのだった。




―

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