第313話 何度でも、何度でも
坂道を一気に下り、エメラルドドラゴンフライの巣の目印である〝外敵の死骸〟をやり過ごし、いよいよ内部に滑り込む。狭い入口に全員を押し込んだせいか、俺以外の全員が転んでしまったみたいだが、どうやらちょうどよかった。地べたを這いつくばった状態から、一度頭上にいらっしゃいます、あのバカデカい物体を見上げてやろうじゃありませんか!?
狭すぎる入口に対して巣の内部は恐ろしく広く、半円形のドーム状の型を模している。さらには飛び込んだ入口側から反対側に見える出口の前に立ちはだかる巨大な物体がひとつ。背の丈は軽く20メートルくらいあるだろうか。さらには背丈の半分を軽く超えるほどデカい楕円形の顔面が、地面から僅かに浮いた状態で静止している。
リアルトゲトゲさんによく似た這い回るような口元が揺れ、トンボ特有の無数の目玉が球状の頭の上部で同時に蠢く。どうやら侵入者の存在に気付いたようで、恐ろしいほど太く屈強な六本の脚が不規則に上下し、重厚な身体を容易くヨイショと持ち上げた。
「あ、あ、あ」
そのあまりの迫力に、シーリカの口から咥えていたタバコが落下する。巨大樹の中にも関わらず、異様に泥濘んだ足場がグジュグジュと音を立て、否応なしに〝餌〟の存在を知らしめてしまう。
さて、既に戦意喪失している四バカとニコルのことは放っておこう。
悪いけど、この場は村のため、彼ら二人のためだけに利用させてもらうことにしようか!
グリュグリュと触手が動く音がしてから、今度は背中の退化した『羽だったもの』を激しくはためかせる。過去、浮力を得るために必要だった羽の幕こそ失ったものの、代わりに自由自在に動くようになった結節が恐ろしい速度で前後しており、いよいよ目に映る二人をターゲットとして認めたらしい。
ゆっくりと体勢を立て直した二人は、隣並んで戦闘態勢についた。
俺は他のみんなの一歩だけ前に出て結界を張り、「さぁ始めようか」と二人の背中を押した。
敵味方、互いに一歩も動かず間合いを測る。
そして天井から水滴が落ちた瞬間、先手を打ったフライが大口を開けた。
『 グェボァア! 』
超速度の溶解液を放つフライ。
左右に別れて攻撃を躱した二人は、挟み打つよう一気に距離を縮めていく。
二人が避けた溶解液が結界に直撃し、背後から「ヒャー!?」と悲鳴があがった。
俺は腕組みしたまま戦況を見つめ、「頑張れ二人とも」とひとり呟く。
無数の視覚で二人の姿を追いながらも、巨大な口を器用に使い、速射砲のように溶解液を発射する。しかし相手に接近しつつも余裕を持って躱した二人は、悪い足場をものともせず間合いを詰めていく。しかしそうはさせじと、いよいよフライが網の目のように広がった羽を振りかざした。
身体を支えている六本の脚とは異なり、攻撃に特化しているであろう羽の進化の形態は異様そのもので、背中から伸びる羽だったもののスジが千手観音のように数多の動きを演出している。二人の接近を拒むように、巨大な節の数々が流星群のように襲いかかった。
その様は無限に続く隕石のようで、恐ろしい威力の打撃が二人に向かって振り下ろされる。たとえ避けたとしてもその衝撃は凄まじく、地面を跳ねる数多の節が周囲の地面を抉り取り、今度はその破片が逃げた二人に襲いかかる。跳弾に似た第二撃までもが無数に展開され、さすがの二人も一旦接近を諦めて距離を取るしかない。
「厄介ね、手数が多すぎる!」
「しかし避けきれぬほどではありませぬ。我ら二人ならば、奴に一撃入れるなど容易!」
口に魔力を溜めたシルシルが氷撃を放ち、遠距離から相手を撹乱する。その合間を縫って一気に速度を上げたマーロンさんは、触手の数々を左手の短剣一本で捌きながら、いよいよ巨大なフライの顔面にまで迫った。
しかし108の眼を持つフライに死角は存在しない。彼女が溜めた右腕の一撃をおみまいする直前、急角度で動いた口が自分自身へのダメージすら顧みず、彼女とフライの間で爆ぜる溶解液を放った。
どうにか直撃を避けたものの、衝撃波に飛ばされたマーロンさん。
しかし壁に叩きつけられそうな彼女を間一髪のところで受け止めたシルシルが、グルルルと吐息を漏らす。
「ちっ、当てきれなかった。ごめんねシルシル」
「問題ありません。外したならば、何度でも繰り返すのみ!」
フライの攻撃よりさらに上回る速度で氷撃を連射したシルシルは、新たな隙を作るべく攻撃を重ねていく。しかし溶解液を放つフライも、超高速の液体を空中で分解させることで多弾化させ、反撃の隙を許さない。
「厄介な。デカい癖に速いのはズルいだろうッ!」
ならば今度は接近戦だと少しずつ距離を詰めていく。溶解液が分離する前ならば、スピードはこちらに分があると踏んだシルシルは、跳び上がり、ありったけの氷を周囲に作り出し、一気に解き放った。
一撃、ニ撃と氷が直撃し、初めてフライの動きが止まった。氷が数ある眼の一部を貫き、真緑色の血が吹き出す。しかし効いた素振りすらみせず、今度は長い触手を羽ばたかせ、残りの氷を旋回力と手数で捌き始めた。それでも――
「ありがとうシルシル、ココだぁぁ!」
触手と貫いた眼の僅かな死角を縫ってひととびで接近したマーロンさんが、両手に握ったダガーナイフを交差させた。美しく舞った彼女は、触手を一本、二本と斬り裂きながら、気合い一閃、十字に断ち切った。
「深淵十字斬り!!」
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