第031話 行きたい場所
「そう言われても、存在するものは存在するのだから仕方なかろう」
「否定はしないと。しかし仮に貴方様の言う情報に虚偽があったとして、我々としてはその個体が確実に町を襲わないという確証があれば何も問題はない、とも言える。ローリエくん、それで間違いないかね?」
「え? なんですか?」
「察しが悪いね。早い話、その個体が以前目撃されたものだったにしろ、新たに発生したものだったにしろ、しっかり手綱が握られたモノであるなら問題ないということだよね?」
「は、はい、そうです!」
「では本題に入ろうか。貴方は先程、そのボアを管理できていると言った。しかし我々としては、それを『ハイそうですか』と認めることはできない。理由は省略するが、そこに異論は認めない」
ムッと口を結びながら、マーロンさんが仕方なく頷いた。当然、そういう流れになるよなぁ……
「ならばどうするか。もちろん、証明いただくしかない」
嫌らしくマーロンさんを覗き見たテーブルは、ギルドのマスターらしく堂々と、かつピンポイントに距離を詰めてくる。ただ、そんなことはあらかじめ覚悟していたわけで。
「……わかりました、仕方ありません」
「ということは、何かしら我々を相手に証明をいただけると?」
「彼をここへ連れてきます」
マーロンさんの言葉に、テーブルとローリエさんがピタリと静止した。そして「は?」と口を開け、呆然と押し黙った。
「ですから、ゴールデンワイルドボアを町へ連れてきます。それでよろしいですか?」
「い、いやいやいやいや、連れてくるって、さすがにそれはダメでしょう!? 貴方が管理しているとはいえ、一つ間違ったら町が一つ吹き飛ぶ! 認められるわけないでしょうが!」
冷静さを欠いたテーブルがテーブル叩く。
……テーブルが、テーブルを。
……テーブルが。
よしとこう。
今はそんなことどーでもいいよね。
「それではどうすれば信じていただけますか?」
「どう、と言われますと……?」
「ならば、どなたかが我が村を訪れていただくほかないと思いますが、いかがですか?」
「ほう! 確かにそれならば確実に状況を整理することができるかもしれん。しかし、本当によろしいので?」
「構いませんよ」
「……わかりました。すぐにギルドの選抜隊を準備させましょう。もちろん、そこには私も同席させていただく。よろしいですかな?」
厳かな雰囲気で進められる議論の中でも、この場に存在しているとある違和感に気付いている者はまだいない。しかしそんなものはただの偶然で、簡単なきっかけひとつで軽く崩壊するものだ。
「ねぇねぇねぇ、ト~ア、これな~に?」
そう、違和感の正体とは、まさに俺たちのことだ。
本来、この場にいるのはマーロンさん一人で構わないのだ。なのに、なぜかここに俺とポンチョも一緒にいる。
しかも、だ。
なぜかポンチョがテーブルの前髪をむんずと掴んで離そうとしない。こんな違和感、もはや気付かない奴がいるわけないだろ!!
「で……、マーロンさんでしたかね。コイツらは一体誰なんです!? どうしてこのような重要な場に、こんな関係ない奴らがいるんですか!?」
ですよね~。
そりゃ、気になりますよね~。
ローリエさんも、薄々気付いてましたよね~。
「ええと彼らは……、縁あって我らの村を手伝ってもらっています。今回のボアの件も、彼らの尽力なくしては不可能だったと付け加えておきましょう」
マーロンさん。
本当は全部暴露したいって顔に出ちゃってますけど……。今はまだ勘弁してください。
「コイツらが? Fラン冒険者がボアの管理の手伝いって……。奴らに抵抗されたら普通に死ぬだろ、不可能だ」
ですよね~。
ではマーロンさん、反論をお願いします。
「二人には直接的に彼らと接しない部分を手伝ってもらっています。ボアを直接管理しているのは我々だけです」
「……ふん、まぁいいでしょう。どのみち、実際に見てみれば明らかになるまでのこと。してローリエくん、人員はいつ頃集まりそうかね?」
「猫族さんの村へ向かうためのメンバーだけなら、明後日にも準備ができるかと思います」
「ならば明後日の正午、モリスの森の入口で落ち合いましょう。それまでに、姿を消すなどないように願っていますよ」
含みを持たせて嫌らしく言ったテーブルたちとの会話を終え、ギルドを出た俺たちは、終始不機嫌なマーロンさんを労うためマイルネの町で買い物を楽しむことにした。
「本当によろしかったのですか。すぐにギルドの者たちもやってきます。準備しなければならないというのに」
「そんなの別にいいよ。それよりどこか行きたい場所はない? 付き合うよ」
「行きたい場所……? でしたら以前より一度行ってみたかった場所があるのです。そちらへ参りましょう!」