第032話 自負
どこかウキウキした様子のマーロンさんに連れられ、俺たちはマイルネの中心部から少し外れた南側民衆街にやってきた。そこは商店や飲食店が乱立するエリアとは一線を画し、文字通り人々が暮らす町並みが広がっていた。こんなところに何の用事があるんだろうと見回している俺を尻目に、彼女はチラチラ周囲の目を気にしながら、さらに入り組んだ一角へ入っていった。
「ええと、確かこのあたりのはず……。あ、あれだ!」
メモを確認しながら今一度場所を確かめるマーロンさん。しかしそこにあるのは、ごくごく普通のお家のようですが……。
気にせず目の前の扉をノックした彼女が、「失礼しま~す」と声をかけた。中から「どうぞ」という返事が聞こえ、招かれるまま俺たちは中に入った。
「あの……、マーロンさん、ここは?」
「前から一度きてみたかったんだ♪ ここね、最近町でとっても流行ってる呪術師さんがいるんですって」
マーロンさん、なんだか随分とフランクで嬉しそうですね。結構結構。
室内は妙な雰囲気が漂っており、なんとも形容し難いエスニックな空気が流れている。香が焚かれているのか、ある種独特な香りがする中、全身紫の布に覆われた怪しい風貌の女性が姿を現し、「こちらへどうぞ」と俺たちを招き入れた。
声から想像するに、歳の頃はマーロンさんと同じくらいだろうか。目元以外の全てが覆われているためハッキリとした情報は得られないものの、声や指先の肌感を見ても妙齢の女性であることを窺わせた。
ルンルン気分で招かれるまま席についたマーロンさんは、怪しい女性の対面に腰掛けるなり、前のめりになりなって話しかけた。
「あの! こちらでは、色々な未来を見ていただけると聞いてきたのですが!」
「は? ……え、ええ、そうですね。わたくし、こちらで呪術師をしております、ハロンヌと申します。少しでも皆様の助力になればと」
「ありがとうございます! お願いします!」
「は、はぁ、そうですか、わ、わかりました。では少々お待ちくださいね」
前のめりすぎる彼女に若干引いている様子のハロンヌさんは、水晶玉や呪いに用いる道具をテーブルに並べて準備を整えた。そして二度咳払いして背筋を正しながら、「何を診ましょうか」と質問した。
「あのですね、まずはこれからの私についてを!」
「貴方様の未来について、ですね。……ではまず、右手をコチラの水晶の上に置いていただけますか」
マーロンさんが水晶玉に手を置くと、玉から僅かな光が漏れ始めた。まじまじとそれを覗いたハロンヌさんは、玉と彼女のことを交互に見定めながら、終わりがけ、なぜか俺のことをチラリと見つめて言った。
「……これはなんでしょうね。貴方様の行末に『偽りの相』がございます。何かを偽り、事を進めようとしている、もしくはご自身を偽り、誰かを騙しているということも……。度を越した偽りは、自らの身の破滅をもたらすと出ております。何事にも傲らず、節度をもって進めることをお勧めいたします」
あまりにもクリーンヒットすぎるジャブに、マーロンさんだけでなく俺までもが一緒に仰け反った。嘘だろおい、コイツは本物か!?
「あの……、ではどうすれば……?」
「貴方様の本質は清廉潔白。自らを偽らず通すことで、初めて運命という一本道が開かれます。ですが自らの許容を超える虚偽は、貴方様だけでなく、他人をも巻き込み不幸を引き込むでしょう。まずはご自身の胸に手を置き、よく考えることかと」
う~んと胸に手を置いて悩んでいるさなかも、恐らくは身に覚えがありすぎて苦しんでいるに違いない。マーロンさんの額に脂汗のようなものが滲んでいるぞ!!
「あ、あの、他には……?」
「そうですね、では具体的に聞きたいことなどございましたらお伺いしますが」
「だったら、その……、こぃ……」
「なんですって?」
「あの、ですから、れんぁ……」
顔を赤くするマーロンさんの態度で何かを察したハロンヌさんは、徐ろに立ち上がり、俺とポンチョを外へ閉め出した。急になんなんだよと表に出されてしまった俺は、そのまま玄関先でしばらく呪いが終わるのを待った。
「ト~ア、ポンチョひま~」
「もう少しだから我慢しろ~。終わったら飯でも食いに行くぞ~」
「ポンチョご飯好き~。でもひま嫌~い」
「お前のそのハッキリ言う性格最高だな。普通は自重するんだぞ、そーゆーの」
ワシャワシャ腹を撫でながら楽しんでいたら、不意に扉が開き、「ちょっときな」とハロンヌさんに呼び出された。中ではもうマーロンさんの対応が終わったのか、ほんの僅かに神妙な顔をした彼女が俺のことを見つめていた。……これはどっちの反応だ!?
「でしたら最後に少しだけ。マーロン様には少々出ていただいて。……そこのアンタ、アンタだけ残りな」
……なぜだ。
なぜ俺だけアンタ呼ばわりなんだ!?
入れ替わりで出ていくマーロンさんを尻目に、急激にやさぐれて窪んだ目をするハロンヌさんは、先程までマーロンさんが腰掛けていた席に座れと命令した。そして心底ダルそうに肩肘をつきながら俺を正面に見据え、「アンタ……」と呟く。
「アンタ、一体なんなんだい。悪いけど、あたしゃアンタみたいのは初めてだよ。この力のせいで人から恨みを買うことも多いからね、歳からなにから全部を偽って生きてきたくらい、それなりに自分の力ってもんを自負してんのさ。そいつが、だよ」
敵対心剥き出しのハロンヌさんは、俺の額を指先でつつきながら、「なのに」と付け足した。そして悪意に満ちた声で吐き捨てるように言った。




