第309話 下層域とはこれ如何に
「ハァァァッ!?」と喧しいニコルと四バカをシルシルの背中にくくりつけ、やはり自分たちも連れて行けと縋るルンゲたちを超硬化で硬直させる。そして「町のことはお願いします」と彼ら全員に頭を下げ、堂々と出発します。
目指すは『源初の回廊』の最下層。木の根が広がった地中深くにのみ生成されるという『カリチノニウムの結晶』を最終目標としたダンジョン攻略が始まります。しかしダラダラしている時間はありませんので、ナルハヤで攻略を進めてまいりましょう!
居住区で数日分の食材を購入した俺たちは、その足ですぐさま回廊の入口に立った。各々が入口に背を向け、高台から望む美しい風景を眺めながら、「どうか無事に戻ってこられますように……」と手を合わせる。そうしていると不意に何者かが声を掛けてきた。
「おやおや、誰かと思えば、生意気なご貴族様と貧乏冒険者諸君ではありませんか。ルンゲなどという愚か者のために、わざわざこんな場所に入ろうだなんて、これまた愚かな話ですねぇ?」
雁首揃えていたのはララバイと数名の衛兵たちで、どうやらわざわざサヨナラを言いにきたらしい。
嬉しそうに腹の肉を揺らして高笑いした男は、四バカとニコルの顔を一瞥するなりプッと吹き出し、部下の衛兵と目を見合わせ、足を踏み鳴らして爆笑した。
「これは滑稽だ、まさかこの者たちと下層を目指すだと!? お仲間はFランク冒険者に毛が生えた程度のザコと、トリの獣人だけときたものだ。これは可笑しい、いちいち笑わせてもらえますなぁ、ハッハッハ!」
笑いすぎて涙を拭ったララバイは、フゥフゥ呼吸を整えながら失礼と前置きし、わざとらしくも深々と頭を下げて挨拶をした。そして悪意に満ちた目を向け、「期間はこれより一週間、是非無事にお戻りくださいませ」と真顔で述べ、もう一度部下たちと声高に爆笑しながら帰っていった。
「なんなのよあれ、根性から全部腐ってるわね」
腰に手を当てて憤るマーロンさん。
あの煽りっぷりにはニコルや四バカも腹が立ったらしく、先程までの不安はどこへやら、鼻息荒く怒っているようです。
しかしまぁ我々がすべきことは一つです。ララバイが絶対に不可能だと信じて提示したアイテムを、一週間で根こそぎ手に入れてやる。そして高笑いしている野郎の鼻先に突きつけ、最後はこっちが全員で高笑いだ!
「よぉし、それじゃあ行こうか!」
『ヨッシャー!』と全員が声を合わせて右手を掲げる。
良くも悪くも、全員の心が一つにまとまったのは不幸中の幸いかな?
こうして俺たちは、たった一週間という短期間で、近隣諸国屈指の難関ダンジョンである『源初の回廊』の攻略へと乗り出した。
しかし当たり前といえば当たり前だが、一筋縄ではいかない事態が待ち受けていることなど、この時の俺たちには知る由もなかった――
★ ☆ ★ ☆ ★
出発から一日後 ――
見覚えのある景色を辿った先に、これまでの明るさとは打って変わったような闇が広がっていた。緊張か、それとも武者震いか、軽く震える唇を噛んだ男は、欠けて切れ味の悪い剣を片手に闇の奥を見据えていた。
「……な~んて浸っているとこ悪いんですが、キミら四人、ちっとも役に立たないじゃないのよさ。うわ~とか、ひえ~とか、逃げて悲鳴あげるばっかで、それでも本当に冒険者なの?」
シュンと肩を落とす四バカと、ただひとり彼らに同情しているニコル。
よくよく聞けば、彼らは回廊のほんの上層にしか入ったことがないらしく、道案内どころか足手まといにしかならず、常に魔物に怯える子羊状態だった。
「だ、旦那ぁ、無茶言わねぇでくださいよ。俺たちゃこう見えて、本当にそのへんにいる冒険者なんすよ。アンタらみてぇなバケモノとは違うんだ!」
反論したバーサムに激しく同意する三人+ニコル。
しかしそれにしたってザコすぎませんかね……。
「お店では生意気に絡んできたくせに……」
マーロンさんにトドメの一撃を刺されてグロッキーな四人がズゴンと膝を落とした。しかしそんなことはどーでもいいので、さっさと先へ進みましょう。
通路が暗くなっていくにつれ、先日初めて千年樹に足を踏み入れた穴底が近付いていることを再確認する。ニコルや四人は「ここでハグレる=死」を自覚しているため、一時たりとも油断する素振りはみられない。可能でしたら、いつもそれくらい緊張していただきたいものです。
「にしても兄さん、アンタどうして一切迷わずここまでこれたんです?」
ランドの疑問にニコルも同調する。
「そんなの簡単さ。一定距離ごとに進路の目印を付けてあるんだよ。もし目印を壊されても、シルシルに匂いで探ってもらうだけだけどさ」
「目印ぃ? そ、そんなもん、どっかにありました!?」
壁を指さし、以前自分がつけておいた岩盤の切れ込み(※壁を加工した)に触れ、コレだよと教えてやる。
「コレだよって、こんな切れ込み、そこら中にあるじゃねっすか!?」
「いや、ちゃんと魔力も付与してあるし」
「ハァ? 魔力って、そんなもん普通見てもわかんねっすよ!」
ウンウンとニコルも頷く。
どうやらこれはアレだな。また自分が特殊であることがバレる原因になりそうだ。今後は気をつけよう。
しかしそんなことはどーでもいい。
目印にしていた壁のキズがなくなり、自分たちが穴底に到達したことを知る。いつしか周囲は完全な闇に包まれ、通路も少しずつ狭くなっている。いよいよだね。
「ようやくスタートラインといったところか。村長殿、……はいいとして、貴様ら、これより先は何が起こるかわからぬ。決して気を抜かぬことだ」
小型化したシルシルが4+1人を鼓舞し、「ハ~イ!」とポンチョが返事をした。そこには陰と陽の見事なコントラストが浮かんでおり、俺は思わず顔を反らして笑いをこらえた。
松明を咥えたシルシルを先頭に、回廊の〝合流点〟に到達した俺たちは、いよいよ千年樹の地下、下層域へと足を踏み入れるのだった。
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