第308話 回廊探索開始!
あぁと頷くマーロンさん。
すると彼女は俺の背中をポンとニコルに押し付けた。
「え、なに。またアンタなの!?」
「またと言われましても。……まぁそうなんですけど」
俺は転がっていた武器を一つ拾い、さらにポンチョのリュックからくず鉄を取り出して、二つを調合師のスキルで組み合わせ、内部構造を思いのままに作り変えてやる。そうして新調した銃のような玩具をポンチョに手渡した。
「ハワワワー✨️ ポンチョ、これ好きー!」
押すと音が鳴る玩具にご満悦なポンチョさんと、「なんなの、それ……」と絶句するニコルたち。確かに初見だとびっくりしますよね。うん……。
「……そうだったのですか。なるほど、私が慌てて地下を出たときには、既に手は打っていたと。……私の脇の甘さが招いた結果なのですね」
地面を見つめたまま肩を落とすルンゲ。
でもそのおかげで命を落とさずに済んだのよと、ニコルが彼の肩を抱いた。
「はぁ、それはまぁ結果的に良かったんだけどね。……これからどうなんべさ」
前途多難である。
項垂れる俺やルンゲ、反面やる気満々なニコルやマーロンさんと、妙なコントラストは浮き彫りなものの、どうにもならず夜は更けていくのでした ――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
―― 翌日
即日のうちに知らされたララバイからの通達は意外なものだった。
俺たちはてっきり多額の賠償金や絶対不可能な無理難題をふっかけられるものだと思っていた。しかし見せられた書面には、過去にどこかで見たことがある、『この世には確実に存在している物』がつらつらと並べられていた。
「ドルマベートの角笛に、メディナの依代。それにマーベルマナティの八重歯に、千年樹の根菜粉。あとはなになに……?」
書き連ねられていたのはいわゆるアイテムの数々で、聞けば自分たちの真下にある『源初の回廊』で手に入るものばかりだと言う。確かに入手難易度は激高かもしれないが、絶対不可能でないならば、まだ可能性はある。これはもう、ツイているとしか言いようがないよね!?
「ツイてるじゃないわ、バカじゃないの!? アンタね、この意味が本当にわかってんの? ここに並んだものはね、どれも伝説級のアイテムばっかりで、しかも全部が全部、過去に伝説級の冒険者がどうにか一つ二つ持ち帰ったことがあるだけの超が付つレアもの。こんなの、アタシたちみたいな〝ぽっと出〟がどう集めろってのよ……」
膝をついて項垂れるニコル。
しかし反対に諦めがついたのか、ルンゲは小さくニ度頷きながら彼女の肩に触れ、「受け入れるさ」と笑いかけた。
「中でも特にヤバいのはコレよ。〝カリチノニウムの結晶〟、コイツは回廊の最下層にあたる根の部分に触れた岩盤にだけ極稀に生成されると言われる『ゲキヤバ物質』で、主に病気の治療や毒物の精製に使用されてるらしいわ。……あ、でも勘違いしないで。されてる、なんて言ってみたけど、ほとんど見つかったことなんてないから詳しいことはわからないの。要するに、『ほぼ幻の石』ってこと。ご理解いただけたかしら?」
恫喝に近い講釈を終え、デカい顔面が俺の鼻面に迫る。
どぉどぉとニコルを遠ざけた俺は、「確かにそれは見たことないなぁ」とカラ笑いしながらボリボリと頭を掻く。
「笑い事じゃないわよ! しかもなんなのよ、この条件。期間はこれから『一週間』て、そんなの普通のパーティーじゃ千年樹の根本にだって行けないわよ。そもそもこれからメンバーを集めるだけでも大変なのに、こんなのどうしたらいいのよ……」
ニコルが頭を抱えて掻きむしっている。
単純に痒い俺とは意味が違いそうだけど……。
「ニコル、そう急くな。構わないさ。どのみち私は、奴と撃ち果てると決めている身。今度こそ奴の喉元にこの一閃を突きつけ、目にものを見せてやるだけのこと」
そう言って新たに用意した武器を構えたルンゲ。
彼の仲間たちも同じく新たな武器を手に、「おう」と猛々しく応えた。
「あのぉ……、盛り上がってるとこ申し訳ないんですけど、少々よろしいですか?」
小さく手を挙げ、おどおどと進言する。
村の面々に改めて説明する必要はないけど、この様子だと、皆々様にご納得いただくのは難しそうですね。ならば――
「ルンゲさんと、そのお仲間さんたち。あと強力してくれる町の皆さんは、私たちに帯同いただかなくて結構です。メンバーは村の面々とニコル、あとそっちのバカ四人だけ連れていきます」
俺の言葉に、しばし村の面々以外が呆然とする。
そして数秒後、「ハァッ!?」と一斉に立ち上がった。
「な、なぜですか!? どうして私を連れて行っていただけないのです!?」
「いやいや待てって、どーしてあっしらまで一緒に行かなきゃなんねーんすか!?」
「俺たちに死ねってのか! さすがに付き合いきれねぇよ!!」
ルンゲ、ランド、バーサムが一斉に顔を寄せ迫ってくる。ロッデムは気絶して白目を剥き、シーリカは咥えていたタバコを落とし、口を開けたまま放心している。どうやら反応はそれぞれだけど、全員が全員乗り気というわけではないみたい。ちなみに俺は『行きたくない派』です。
「ふん、ならばついてこずともよい。しかし四バカは、今後もこの町で仕事をしていくつもりなのだろう。今回の遠征を断ったと町の者たちに知れれば、これからの仕事は難しいことになりそうだな。ま、知ったことではないのだが」
シルシルが四壁の面々にグサリと釘を刺す。反応してギロリと睨みつけたルンゲの取り巻きの迫力にやられて、四人は誤魔化すように壁に身を寄せた。
「しかし我らは納得がいきません。どうして我々は皆様と行けぬのですか!」
ルンゲと取り巻きがさらに一歩踏み込んだ。しかし反対にぐいと体を寄せたシルシルは、その巨体で彼ら全員を恫喝するように言った。
「わざわざ口にせねばわからぬか。足手まといなのだ。うぬら弱者など、行動するだけで邪魔にしかならぬ。察せ、愚か者どもめ」
一撃で全員を黙らせてしまう。
俺ならすご~く遠回しにしか言えないけど、嫌われ役を買っていただきありがとね、シルシル。
「だけどよぉ、それだったら、あっしらだって同じですぜ。皆さんご存知のように、あっしら四人も、その……、強くはねぇですし」
「だね」とマーロンさんが即答する。
グサッと胸を一刺されつつ頷く四人。
「キミらには内部の案内役をしてもらいたくてね。俺たちも一度下からここまできたけど、回廊特有の魔物やドロップアイテムの情報は乏しいからさ。あとはいざというときの囮として……(爆笑)」
ぞぞぞと血の気の引いた顔で棒立ちになる四人を尻で跳ね除け、「村長殿、そろそろ参りましょう」とシルシルが進言する。一週間という短期間で、これだけ多くのアイテムを手に入れるのは簡単ではない。可能な限り、急ぎ出発したいのが本音だ。
「ちょっと待ちなさい。そろそろって、まだ何の準備もしてないわよ。まずはギルドへ行って、できる限り強い冒険者を雇って、回復アイテムや食料を調達して、それだけでも時間が足りないのに!」
ニコルが指折り数えながら嘆いているが、死んだ目で彼女の肩を叩くマーロンさん。それから俺の目をジッと見つめ、「急ぎましょう」と頷くのだった。




