第307話 二言はない!
やっぱりだー!!
ちょいとマーロンさん、アナタ勢いに飲まれて何を言っちゃってるんですか!?
アタシたち、他国の部外者なんですよ!!?
「ちょ、ちょ、ちょ、ストーップ。マーロンさん、少し落ち着きましょうか!」
「私は落ち着いている。ララバイ殿、その条件はこの私が責任をもってお引き受けしますわ」
「タンマタンマ。その話ストップ! おいオッサン、この話は一旦なしで!」
こちらの制止を無視しマーロンさんを品定めしたララバイは、ニタァと卑猥な笑みを浮かべながら「ほほぅ」と呟く。あかんて、アタシら、そんなんしてる場合やないんですって!?
「なるほどぉ、獣傑の狩人様が、小奴らゴミクズのために一肌脱いでくださると! これはこれは、民思いのご貴族様ですこと。さすがは公国の宝でございますなぁ」
パンパンと手を叩き、「望むところだ」と鼻息荒く顔を突き付けたマーロンさんと視線を交差させるララバイ。ダメだ。魔物が相手なら言った言わないは誤魔化せるけど、相手がヒューマンじゃ、どうやっても誤魔化せない!
ルンゲを一瞥してウヒャヒャと高笑いしたララバイは、「ご貴族様に礼を言わんとなぁ」と男の肩を叩き、ご満悦に目を見開いた。
「まさかまさか、獣傑の二つ名を持つ貴方様に二言はなかろうな?」
「二言などない!」
デコを突き合わせて睨み合いを始める両者。
えらいこっちゃ、えらいこっちゃやで!
「これはこれは、第二皇子様の件があって以来、お国に明るい話題がなかったものの、これは久しく愉快なお話だ。わかり申した、貴方様の提案を受け入れましょうぞ!」
いや、待てって!
そんな提案、受けてもらっちゃ困るんですけど!?
「私どもが求める項目については、また後日改めさせていただきます。もうしばしお待ちいただけますよう。……獣傑の、ともあろう御方が、よもやお逃げにならぬよう」
「くどい!」と念を押したマーロンさんの言葉に満足し、ララバイは大層満足そうに全身を震わせ喜びを表現しながら兵を引き上げ帰っていった――
しかししかし、これは困ったことになってしまった。
ただでさえ時間がないのに、まさかの足止めに加えて、ガッツリ他国の国政に関わることになってしまった。キュリオス王国のことだけでも大概なのに、また別の第三国にまで喧嘩を売るなんてどうするつもりだよ!?
しかしルンゲの肩代わりをすることになったマーロンさん自身は気にする素振りもなく、「どんな無理難題を言ってくるのかしら」と去っていくララバイの姿を遠く見据えている。まったくこの人は……。
ですが、ちゃんと釘を刺すところは刺しておかねばなりません。肩を上下させて興奮している彼女の肩をポンポンと叩いた俺は、彼女のオデコにポーンとチョップし、目の前に人さし指を立ててやる。
「マーロンさん、……俺の言いたいこと、わかりますよね?」
オデコを押さえながら正気に戻った彼女は、周囲の視線と状況を見回してから、シュンと肩をすぼめ、「……ごめんなさい」と謝罪した。
「まったく……。どうして貴女はいつもいつも」
そうして説教を始めようと思いきや、「悪いと思ってます」と俯く彼女。
しかしそんな彼女に対し、突如跪く人物がいた。それはルンゲとその取り巻きで、中には涙を流しながら忠義を示すように片膝をつき、頭を下げている者もいる。……どうしたの?
「よもや貴方様が隣国の高名なる冒険者、獣傑の狩人様だとは存じ上げず、我ら何たる無礼を。謹んでお詫び申し上げます」
だがルンゲはどこか複雑な表情で、ララバイ襲撃が失敗に終わったことをまだ悔いているのだろう。僅かに肩を震わせながら俯いたままだった。
しかしその時、俺たちの前に割って入る者がいた。そいつは跪くルンゲの前に立つと、男の襟首をたくし上げ、思い切り頬を張った。そしてさらに両襟を掴み、「アンタ、何考えてんのよ!?」と涙ながらに叫んだ。
「に、ニコル……」
「アンタ、死ぬ気だったでしょ。どうして、どうしてアンタはいつもそうなの!?」
もう一発、重たい一撃が男の頬を叩く。
地面に突っ伏した彼をそのままに、改めて俺たちの前に直立したニコルは、深々と頭を下げながら言った。
「この人のこと、助けてくれてありがとう。……アンタたちには本当に悪いことをしたと思ってる。だけど、もうアタシには頭を下げることしかできない」
頬を伝う涙が地面に落ちる。
するとマーロンさんは、「私は私の思うままのことをした。それだけよ」と彼女の目も見ずに答えた。いつもながらのイケメンぶりです。
「いいえ、それだけじゃアタシの気が済まないわ。……アイツがどんな難癖をつけてくるかわからないけど、アタシも命を賭けてアンタたちの手伝いをするわ。任せてよ!」
任せて、と言われましても。
唖然とする俺とは対照的に、マーロンさんは彼女の肩にそっと触れ、「ありがとう」な~んてさ。
うぐぅ、これじゃあ俺だけ文句を言いづらいじゃないか!
などと心の葛藤を繰り返していると、ニコルが思い出したように「あっ」と声を上げた。そしてマーロンさんの肩を掴み、「アレはどういうことだったのよ!?」と質問した。
「アレって……?」
「アレはアレよ。あの武器のことよ。どーして武器が、全部花火になっちゃってたの!?」




