第306話 正論と暴論
マーロンさんが先程までルンゲの持っていた武器を高く掲げた。
知らぬ間に持ち去られていた武器の存在に気付き、ルンゲが「いつの間に」と驚愕している。
「ララバイ様が武器だとおっしゃるコチラ、何を隠そう、これはこういった形の〝打ち上げ装置〟にございますの。ほら、こんなふうに……」
武器に魔力を込めると、半自動的に弾がポンッと発射され、先程と同じように角度を変えて上空高くへ打ち上がり、花火となって消えていく。「た~まや~」という男女のわざとらしい声が夜の商業区に響いた。
「な、ば、バカな……」
「信じていただけましたか。そもそもこちら、人へ向けて撃つことができない仕組みになっております。こんな具合に」
横から口を挟んだ俺が、発射口をララバイへ向けて、もう一発発射させてみせる。男の直前で90度に曲がった弾は、再び夜の華となって区画の空を明るく照らした。
「なんなら試しに撃ってみます?」
ララバイに武器を渡し、どうぞと頷いてみる。しかしララバイは魔力がないのか、スイッチを押すが何も起こらず、すぐに苛ついて投げ捨ててしまった。
「この私をバカにしおって。こんな茶番を受け入れられるものか!」
「しかし事実です。それともララバイ様は、目の前の事実を捻じ曲げて無抵抗な人々を叩き伏せるおつもりと?」
「な、何を!? キサマら風情が生意気な口を。そもそもだ、キサマらまさかこの場から逃げられるとでも思っているのか。事実はどうあれ、キサマら全てが死ねば、そこでお終いよ。……目撃者などいなかったことになる」
クックックと笑うララバイ。
しかしマーロンさんは頬に手を当てながら、「ひとつ、ご忠告を」と指を立てた。
「皆様、我々がどのようにルスカに入国したかはご存知で?」
「そ、そんなもの、知ったことか!」
するとララバイの部下らしき衛兵が彼に耳打ちをする。すると驚愕したように仰け反り、苦虫でも噛み潰したかのように歯ぎしりを鳴らした。
「我らは回廊の中枢を抜け、ルスカに入国いたしました。早い話、我らにかかれば、その程度は容易いということです。言いたいことはおわかりですね?」
シルシルがひととびで衛兵たちの背後に回り込み、一瞬にして優劣を逆転させてみせる。本気を出せば逃げる程度は些細なことと実際に明示してみせた彼女は、「このまま出国し、他国にこの現状を触れ回ってみましょうか?」と戯けてみせる。恐い恐い。
「もしその事実が〝上〟に知れたらどうなりましょうか。国王様などは、さぞかしお悲しみになられるのではないでしょうか。おろおろ」
さらに額に血管を浮かせて歯ぎしりするララバイ。たまらず「奴らを殺せ!」と叫ぶが、あまりの迫力をまとってタテガミを揺らしているシルシルとマーロンさんの勇姿にやられ、誰一人動くことはできません。
カッコイイ!! (-ω☆)キラリン!
「うぐぐぐぐ、き、キサマら」
「ウフフ、お戯れはこのあたりでお開き、ということになさいませんか?」
充血した目で睨みつけるララバイは、ドカドカとニ度地面を蹴りつけてから、「いいだろう」と嫌らしく言った。しかし今度は矛先を俺たちでなくルンゲに切り替え、言葉を付け足した。
「この場のことは〝余興〟としておいてやる。クックック、しかし他国の貴族さんや。早とちりをしていただいては困りますなぁ。貴方様のお友達であられるルンゲくんや? キミ、まさかあのことをお忘れではないでしょうなぁ?」
嫌味ったらしくジメジメとした口調で訊ねるララバイ。
「あのこと?」と疑問を口にすると同時に、ララバイはさぞかし愉快とばかり全身を揺らしながら言った。
「事前に言っておいたでしょう。皆様による今宵の歓迎、私心から感銘を受けましたぞ。……しかし、それとこれとは無縁のこと。ククッ、世の理とは不条理なものですなぁ」
にこやかな笑みを浮かべたララバイが歩み寄り、ルンゲのもとへ近寄った。そして書状らしきものを提示し、「覚えているな?」とピラピラと紙を舞わせながら質問した。
「そ、それは……」
「これは我らが王の命のまま、キサマらに課されたものだ。まさかそれを破ろうとでも言うわけではないな? えぇ?」
その紙は、王からの勅命とされる商業区に住む者に課せられた税のあらましだった。ララバイ曰く、これまで溜まりに溜まった税の徴収について、払う気がないと判断した国が、彼らの財産全てを没収することにより補填をするという決定事項を突き付けるものだった。
「しかしなぁ、残念ながらキサマらの財などあってないようなものだから。……となれば、わかるなルンゲよ?」
グヘヘと太い笑みを浮かべたララバイは、徐ろに部下から受け取った物を高く掲げた。どうやら小さなリングのようで、隣にいたニコルの顔が激しく引きつった。……正直に言うと、俺の顔も同じだったに違いない。
「今後キサマらは、我ら高位の民の下僕として働いていただく。文句はないな、ルンゲよ?」
神託之首輪。
呪われたアイテム片手に傲慢な言葉を吐き散らかす男の台詞に、ルンゲの怒りが高まっていく。しかしララバイの高笑いは止まらず、我慢ならずルンゲが殴りかかった。しかし、
「ここで殴ってしまっては相手の思う壺です」
自然と身体を預けたマーロンさんが割って入る。
そして――
「さすがにそれはお戯れがすぎるかと。何よりここに書かれた値は、常軌を逸しております。このようなものが認められる道理は……」
「おやおや、他国の貴族様が他国のことに口出しでございますか。しかしこれは我が国のルール。我が国の民が、我が国の王が定めたルールに従わざるは、それすなわち大罪である。当たり前のことではございませんか」
「まぁ確かに」と頷く俺に対し、マーロンさんは一歩も引かない。
「こんなふざけた話があってたまるか!?」と正論を振りかざし、こんなものは横暴だと憤る。
「しかしルールはルール。払えぬ者に裁きが下るは世の常です。それともなんですか、よもや貴族様が此奴らに代わり、我らが求める税を払っていただけると? んん??」
あれ、なんだろうか。
とても急激な悪寒がしてきたぞ。
本当に嫌な予感がするんですが……
俺が苦笑いを浮かべた直後、悪寒を裏付けるかのように、彼女は我が身を振り乱しながら高らかと宣言するのだった。
「そのような不条理、私は決して受け入れない。いいでしょう、その条件、この獣傑の狩人マーロンが引き受けた!」




