第304話 愚かな作戦
「酷い……」と絶句するマーロンさん。
だからこそララバイを叩いてほしかったとこぼすシーリカは、それも叶わないと諦めて天を仰ぐ。そして……。
「アタシらは他国の冒険者だ。安いとはいえ、仕事をもらえるだけまだいいよ。だが商業区の奴らはそうもいかねぇ。国のためって大義名分を盾に、食いもんを得る術がない奴らを、さらに安い金でこき使ってやがんのさ。しかもそれをしてんのが、かつて仲間だったはずのララバイときたもんだ。……で、ルンゲの奴が立ち上がったってわけ。必然だろう?」
全てを嘲笑うかのようにクククとこぼすシーリカ。「何が可笑しいの!?」と憤るニコルを押しのけ、「これが笑わずにいられる?」と両手を広げた。
「まさかアンタら、ララバイの奴が気付いてないとでも思ってんの? ルンゲも馬鹿な奴だよ。まさか今日が最期になるとも知らずにさぁ」
「最後……? 最後って何よ!?」
「言葉の通りよ。アイツはルンゲが武器を隠し持ってることも、打って出ようとしてることも知ってんのさ。満身創痍なバカ共の計画なんて、全部筒抜けさ。そんなバレバレの計画、野郎が見逃すとでも思う?」
「こうしちゃいられない」とニコルがルンゲを探して駆けていった。「酷い」と呟いたマーロンさんに、「ひでぇよな」と頷いたシーリカは、「だからといって」と項垂れた。
「国の主導権は完全に握られちまってる。そのうえ情報まで筒抜けじゃあ、打つ手すらねぇよ。……もう詰んでんのさ」
だからこそ、状況を打開できる何かが必要だったと締めたシーリカ。
どうやら彼女はその役目を俺たちに望んでいたみたいだけど、それはさすがに無理ってものだ。
もし俺が関われるとすれば……。
「だからって犬死にさせるわけにはいかないよ。悪いんだけど、少し手伝ってもらえるかな」
慌てるニコルの襟首を掴まえて回収した俺たちは、いよいよ行動を開始させる。気怠そうに遅れてやってきた四壁の三人に概要を伝えた俺は、いよいよ迫った時計の針を見据えた。すると時間きっかりになって、町の中央にある広場の方角から多数の咆哮が響き渡った。
「じゃあ四人とも、手筈通りに頼んだぞ」
「いや、頼んだじゃねっすよ! そんなのあっしらじゃどーにも!?」
「いいから黙ってやる。頼んだぜ」
四人を持ち場に散らした俺たちは、彼らから得た情報を元に、ララバイが姿を現すという商業区へと向かった。商業区内の開けた場所には、既に発起した町の住民たちが武器を片手に集まっており、今にも暴発せんほどに膨らんでいた。しかし……。
「ふん、愚かな民衆どもめッ!」
どこからか響いた声とともに、突如多数の衛兵たちが商業区を取り囲む形で姿を現した。
武装し集結していた民衆は、意図せぬ形で周囲を固められ、逃げ場なく集結するしかない。
「貴様らぁ、だ~れに断ってここに集まっている! ここが取引の場だと知っての狼藉か!?」
中央に備えられた高台の上で人影が揺れた。
マーロンさんより小柄な背丈で、太った不摂生極まりない身体を震わせて現れた派手な男は、部下である衛兵を左右に従え、集結した民衆をギロリと見下ろした。そして周囲を取り囲む衛兵たちに武器を構えるよう指示し、右腕を高々と掲げた。
「バカな奴らめ、情報が筒抜けとも知らずに。おいルンゲ、いるんだろ、出てこい!」
太った身体を揺らしてララバイが叫んだ。
その姿に怒りを露わにした民衆が「奴を撃て」と叫ぶも、すぐに取り囲んだ衛兵に押さえられてしまった。
「ムダ、ムダムダ! ちゃちな素人が武器を手にしたところで、我が国が誇る精鋭部隊に敵うと思ったか。逆らうようなら皆殺しにしてしまうぞ、キサマら!」
取り押さえた民衆を盾にルンゲを呼びつけるララバイは、出てこなければ人質を一人ずつ殺していくと恫喝した。
簡単に計画が頓挫し、民衆の武器を持つ手も自然と沈んでいく。血気盛んに猛っていた民衆の列も散り散りになり、一瞬の高鳴りが嘘かのように静まり返っていく。
「ルンゲ、さっさと出てこい。それともキサマの仲間が死ぬのを見なければ出てくることもできんか」
おいと合図を出したララバイの命令に続き、衛兵が無抵抗な女性二人を選別してララバイの前に跪かせた。涙を流して慈悲を願い出る二人を正座させて頭を押さえた衛兵は、全員に見えるよう、大袈裟に首元にロングソードを構えた。
「冗談だと思っているようだな。ならば仕方ない」
衛兵から剣を受け取り、ララバイが高々と剣先を掲げた。「やめてくれ!」と叫ぶ民衆と泣き叫ぶ女性の声が響く中、「待て!」という野太い男の声が広場を抜けていく――
「待てララバイ。私はここだ、その者たちを離せ」
モーセの海割りのように人々の列が割れ、その間をルンゲが歩いてくる。
その姿に満足気なララバイは、ようやく現れたターゲットを見下ろし、ガハハと笑った。
「どこにコソコソ隠れているかと思えば、ゴミどもを盾にしておったわけか。無様なキサマらしい醜態だな」
「なんとでも言うがいい。キサマらゴミにどう言われようと、我ら民の怒りが消えることはない!」
ルンゲの言葉に不機嫌な表情を浮かべたララバイだったが、何かに気付き「うん?」と眉をひそめる。目下に迫った宿敵の姿に見え隠れする違和感。そしてその正体に気付き、思わず仰け反った。
「き、キサマ、足を痛めていたはず……!? ま、まさかこの私を図ったか!」




