第222話 能力解放
刹那の閃光。
弾かれて離れていった巨大な首が、地面で跳ね返るようにバウンドする。
未だ潰れず目の前で倒れている妹の姿を見つめ、本当に現実なのかと唯一動いた右腕を伸ばす。微かに届いた指先が、まだ微かに息をしているペッツの頬に触れ、それが現実であることをアシュリー自身に伝えていた。
「ぺ、ペッツ……ではない。ならば一体誰が!!?」
アシュリーがこちらを見上げた。
俺は彼の額をツンと押し返し、「アンタはそいつのことを頼む」と呟いた。
「お、お前は、む、村の……」
「さすがはSランクパーティーのリーダーだな。咄嗟にそいつを逃がしたアンタの判断は正しかった。しかしね、ちゃ~んと手綱だけは握っといてもらわないと、こっちが困んだよ」
「手綱? お前は一体何を……」
「あとはこっちでやる。アンタは隅っこでそいつを守ってな」
起き上がった巨大な土竜がこちらへ向き直った。
攻撃を弾かれてご立腹なのか、四つの口から漏れ出た生臭い息に、怒りの色が滲んでいた。
「や、やめろ、無謀だ、殺されるぞ!」
大きく息を吸い、大きく吐く。それから精神統一と称して口をへの字に結んで手を合わせ、ポンチョのリュックから取り出した『我が一振』を真っ直ぐに握り込む。
「自分より格下をいたぶって、絶望に沈んでいく者の顔を見るのがそんなに楽しいかよ、このウスノロ」
再び振り下ろされた巨竜の首を払い除け、ひとり呟く。
俺は知っている。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
幾千、幾万、幾億と見続けてきた。
「……もう見たくもねぇんだよ、そんなもんは」
もう沢山だ
「俺はなぁ、もう俺の目の前で、そんなもんを見たくねぇんだよ。もう二度と、金輪際、死んでも見たくねぇんだよ!」
ニ撃、三撃。
弾く、弾く。
「なッ、ば、馬鹿な……、Bランク冒険者が、奴の攻撃を……?」
息を飲む音が聞こえてくる。
俺は「フゥ」と息を吐き、まだ背後で息をしている二人に声を掛けた。
「アンタたち、口は堅いほうか?」
「え、く、口……?」
「口は堅いかって聞いてんだ。早く答えろ!」
「よ、よくわからんが、そうそう簡単に秘密を漏らしや……」
「そっか。ならここで見たことは黙って墓場までもってけ。妹にもよ~く言い聞かせとけよな」
改めて柄を握り込む。
土竜。Sランク冒険者の攻撃を軽く跳ね返した装甲の硬さ。
硬度だけでいえばS+、いやSSランクか。
硬鱗海獣よりスピードはないが、攻撃の質、量ともにコイツが上。さらには今にも崩れそうな柔い地面での対戦ときてる。面倒なことこの上ないな。
「…………このままでは無理か」
四つの口から放たれる炎や熱線を弾くことができるだけでは、この土竜を倒すことはできない。何よりペッツの全力の一撃をもってしても壊せなかった外装だ。そんじょそこらの攻撃じゃびくともしない。
「もういい、無理だ。アンタはどうにかここから逃げる方法を考えろ。妹を、妹だけでもいい!」
アシュリーの叫びに反応し、気を失っていたペッツが目を覚ました。
しかし瀕死のダメージであることには変わらず、うっすらと目を開けるだけで精一杯だった。
『 グギョァアアアアアアッッッ! 』
攻撃を阻まれ、土竜が怒りの声を上げた。
俺は瀕死の二人を背後に置いたまま、「約束、絶対忘れんなよ」と呟いた。
「…………魔力解放。安定釘第一階層を未制御に調整」
自分自身の内部に物理的にかけている『鍵』を、調合師スキルで解放させる。
もう一生使うまいと思っていた。
それでも――
「見たくもないものを見るくらいなら、意地くらい簡単に捨ててやらぁ」
【 能力解放 】
魔力覚醒
魔力増大
身体強化
体力強化
体魔力強化
腕力強化
脚力強化
体術強化
武器強化
武器耐性強化
回避強化
速射強化
火傷付与
呪詛付与
出血付与
魔毒付与
強毒付与
麻痺付与
睡眠付与
弱体付与
昏睡付与
気絶付与
防御低下攻撃
魔力防御低下攻撃
武器破壊攻撃
防具破壊攻撃
水耐性
火耐性
土耐性
風耐性
氷耐性
雷耐性
光闇耐性
火傷耐性
呪詛耐性
出血耐性
魔毒耐性
強毒耐性
麻痺耐性
睡眠耐性
弱体耐性
昏睡耐性
気絶耐性
泥雪耐性
竜耐性
裂傷耐性
寒さ無効
暑さ無効
魔法ダメージ軽減
会心率上昇
剛心
心眼
不屈
疾風
属物強化
悪霊の加護
速力増大
強化持続
そして、
『 闇属性、解放 』
全てを掻き消すほどの闇が全身を覆い尽くしていく。
ゆらりと動いた首の一本が、俺のことを押し潰さんと振り下ろされる。
しかし……
「闇は、……上書きできないんだよ」
土竜の一撃が地面を激しく抉り取る。
しかしそこには誰もおらず、ただ歪んだ地面から水が染み出すだけだった。
「毒穿孔」
刀身が歪むほどまとわせた闇の魔力に、オリジナルの毒を調合し叩き込む。
それでも、硬い。
「……とでも言うかと思ったかい、糞三下がよォッァッ!」




