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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第5章 みんな大好きキノコ作り!

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第219話 私が行きます


 男のものではない、甲高(かんだか)い女性の声か。

 (さけ)ぶように助けを求めるその声には、恐怖(きょうふ)なのか、それとも悲哀(ひあい)なのか。

 どちらにも取れる()らぎのようなものが入り混じっていた。


「ねぇトア、あの人って……」


 不意に足を止め、マーロンさんが質問する。

 声の主の姿(すがた)に注力し、(うった)えを願い出ている人物を見つめた。


 首、(かた)(うで)、足、さらには頭からも出血しているその女性は、ギルド関係者にすがりつくようにして何かを(うった)えている。目には(なみだ)()かべ、衣服にすがっているものの、(かれ)らでは彼女(かのじょ)の願いに答える(すべ)がないのか、ただ聞き役になっているばかりだ。


 それら関係者に代わり、間に立ったのはテーブルだった。国内冒険者(ぼうけんしゃ)ギルド最高責任者であるテーブルへと目先を変え、(かれ)の足にしがみついていたのは、他でもない『双龍(そうりゅう)(きば)』の副リーダーとして君臨(くんりん)する、ペッツ・ドライモットだった。


「ギルマス、(たの)む、(だれ)かいるんだろ!」


 赤毛を()るわせて懇願(こんがん)する姿(すがた)はあまりにも(もろ)く、弱々しい。その姿(すがた)は、(おれ)たちがギルドで見かけた堂々としたものとは180度(こと)なり、思わず口を結ばずにはいられなかった。


「……ペッツ、何があったんだ?」


 テーブルが改めて質問する。

 すると男のズボンを伝って(むな)ぐらまで立ち上がった彼女(かのじょ)は、消え入りそうな声量で「お願い」と(つぶや)いた。


「このままじゃみんなが……、アシュリーが……、(だれ)か……」


「おい、アシュリーって。アイツらに何かあったのか!? おい!」


 力なく(ひざ)から(くず)()ちるペッツ。

 彼女(かのじょ)()すって情報を引き出そうとするも、「(たの)む」と()(かえ)すばかりで収拾(しゅうしゅう)がつかない。


「なんだってんだ、おいペッツ、下で何が起こった!?」


 しかしペッツは(のど)()まったように声が出せず、その姿(すがた)見兼(みか)ねた(おれ)は、話を聞き出そうとするテーブルを一度止め、彼女(かのじょ)回復術(ヒール)をかけてやった。見たところ彼女(かのじょ)自身の(きず)やダメージも大きく、下で何か想定外のことが起きたのは確実だが。まずは情報を引き出す必要がある。


「なぁアンタ、下で何が起こってる?」


 改めて聞き直す。

 すると身体の(きず)(ふさ)がったからか、(うで)(つか)む力が(わず)かに増したペッツが、「アニキが、アニキが死んじゃう!」と(なみだ)ながらに(さけ)んだ。


「アニキ……。それって確か、(おれ)たちがギルマスに()()されて挨拶(あいさつ)した。いや、でもアンタたち。確かポータルを持ってるから大丈夫(だいじょうぶ)って話だったはずじゃ」


 小さな口を結んだペッツは、胸元(むなもと)に手を当てるなり過呼吸(かこきゅう)のようになって(ふる)えて(だま)()んでしまった。それでも心配してしゃがみ()んだテーブルの(うで)をどうにか(つか)むなり、「(おれ)を、(おれ)()がすためにアニキの野郎(やろう)が!」と(しぼ)()した。


 ちっ、(いや)な予感がプンプンする。

 この状況(じょうきょう)ってまさか……。


「何かあったな、最下層(さいかそう)で。ちゃんと話してくれ。でないと(おれ)たちにはどうすることもできん」


 落ち着くよう、テーブルに頭を()でられるペッツ。

 だが彼女(かのじょ)の言葉から想像させられる現状は、どうやらかなり『マズい』。


 「アニキが死ぬ」。そして、「(おれ)()がすため」。

 この二言だけで、下のヤバさが想像できてしまう。Sランクパーティーのリーダーが、自らの命を投げ売ってでも、地上の仲間に対して助けを求めるなど非常事態に決まっている。しかもあれだけ勝ち気な副代表である彼女(かのじょ)が、これだけ憔悴(しょうすい)しているのだ。その深刻(しんこく)さは想像に(かた)くない。


 自分の上着をペッツに(かぶ)せたテーブルは、「落ち着いて深呼吸(しんこきゅう)しろ」と(となり)(すわ)らせた。そして顔を合わさぬよう正面を見つめたまま、「用意ができたら話せ」と平坦(へいたん)に言った。


「ちゃんと、……準備はしてたんだ。アニキの野郎(やろう)、いつもブツクサ文句は言う(くせ)にヘタレだから、事前にしっかり対策(たいさく)して、本当に警戒(けいかい)して進んでたんだ。下に残ってた冒険者(ぼうけんしゃ)だって、何人か見つけた。全部、全部順調だったんだよ!」


 自分に言い聞かすように(つぶや)くペッツ。

 (おれ)とマーロンさんは、二人(ふたり)から少し(はな)れた場所で彼女(かのじょ)の言葉を聞いていた。


最下層(さいかそう)までは特に問題なく辿(たど)()いた。確かに中は水のせいでメチャクチャだったけど、(おれ)たちなら問題なく進むことができた。……だけど、()()()()がいるなんて聞いてない」


「あんなの? あんなのってのは」


「わかんねぇ……、わかんねぇんだよ。(おれ)たちが最下層(さいかそう)に落ちた冒険者(ぼうけんしゃ)(さが)して回ってたときだ。『アイツ』は突然(とつぜん)現れた。……ギルマス、ここって本当にAランクのダンジョンなんだよな!?」


 (ふる)える指先でテーブルの顔に()れたペッツ。彼女(かのじょ)の指先からは恐怖(きょうふ)の色が(うかが)え、何らかの脅威(きょうい)(さら)されたであろうことが手に取るようにわかった。


「ああ、名目上はそういうことになってる。だが……」


 テーブルが何かを言いかけて止めた。

 しかしマーロンさんが「最後まで聞かせてください」と続きを(うなが)した。


「…………特異体(イレギュラー)。しかもそれがダンジョンボスの変異(へんい)種であったとすれば、ダンジョンのランクは一気に()()がる」


 ダンジョンボスの特異体(イレギュラー)だって?

 そいつはちょっと()()がせない情報だ。


「このダンジョンの最下層(さいかそう)については、かなり長い間、中に入った者がいなかった。その間に特異体(イレギュラー)が発生していてもおかしくはない……」


 (おれ)脳裏(のうり)にも先日の異変(いへん)(よぎ)っていた。

 通常とは(こと)なる魔物(まもの)の発生に加え、普通(ふつう)は発生するはずのないエリアボスであるマンイータースモッグの出現。生態調査を行う中でも、事前にテーブルから聞いていた情報とは(こと)なる事象があまりにも多かった。その原因が最下層(さいかそう)特異体(イレギュラー)発生によるものだったのだとしたら、ダンジョンの変質ぶりにも納得(なっとく)がいく。


「おい、それの姿(すがた)はどんなだった!? わかっていることを教えてくれ、(たの)む!」


 テーブルがペッツの両肩(りょうかた)(つか)んで(せま)る。

 すると彼女(かのじょ)(うつむ)きながら、(つたな)い言葉を(つな)()めるかのように言った。


土竜(どりゅう)……。だけどあんなデカい土竜(どりゅう)、今まで一度だって見たことない」


「ど、土竜(どりゅう)だと?」


 テーブルが驚愕(きょうがく)しながら(にぎ)っていた手を(はな)した。

 どうやら思い当たることでもあるのか、(ひど)狼狽(ろうばい)している様に目を()らしたくなる。


 自分を(いさ)めるように呼吸(こきゅう)()(かえ)したテーブルは、決心したように視線(しせん)を定め、部下にすぐ集まるよう指示を出した。「助けてくれるのか!?」と男を(つか)んだペッツに対し、ギルドマスターの立場として出したテーブルの返答は、あまりに非情なものだった。


撤退(てったい)だ。(おれ)たちではどうすることもできん。…………スマン」


「え……?」と言いかけた彼女(かのじょ)に一礼したテーブルは、部下に「すぐ集まってくれ」と怒声(どせい)混じりの号令をかけた。さらにはこれからすぐにマイルネの町へと(もど)り、土竜(どりゅう)対策(たいさく)包囲(もう)()くと宣言(せんげん)した。


「な、なに言ってんだ。まだアニキたちが下にいるんだぜ? おい待てギルマス、待てよ!」


 ペッツが必死にテーブルの服を引っ張るも、男は無言のまま彼女(かのじょ)の手を解き、静かにニ度首を()った。それだけで(すべ)てを(さと)ったペッツは、両目を見開いたまま(ひざ)をつき、(くず)()ちてしまう。


「……悪いな。(うら)むなら(おれ)(うら)め」


 彼女(かのじょ)(かた)をポンと(たた)き、言葉なく目を(つぶ)る。

 (すな)でまみれた両手を両目に(かか)げたペッツは、(なみだ)(にじ)んだ涙袋(なみだぶくろ)を指先で(こす)り、また走り出そうとする。

 しかし――


「バカ野郎(やろう)! 何もできずに()げてきたお前が(もど)ってどうなる!? 死にに行かせるわけにはいかん!」


「るせぇ! もうテメェらなんかに(たよ)らねぇ、(おれ)が、(おれ)(もど)ってアイツらを助けんだ、放せ、放せよ!」


 しかし力を失ったペッツではテーブルの手を()りほどくことはできず、「放せ」と(さけ)びながら(ひざ)を落とすことしかできない。


 ()ける言葉が見つからない。

 現実的に自分たちのすべきことを判断したテーブルのことを責められる者はいない。ただ助けを求め、命からがら(もど)ってきた彼女(かのじょ)のことを責めることも、またできない。


「公国には、お前たちのほかに、もうSランクのパーティーはいない。(おれ)単騎(たんき)で向かったところで、お前ら兄妹(きょうだい)が勝てなかった化物(ばけもの)相手に、どうこうできるとは思えん。……(もう)(わけ)ない」


 最後通告ともいえるギルドの(おさ)の言葉に、周囲は沈黙(ちんもく)に包まれた。


 だが(おれ)は知っている。


 こんな時に。

 こんな時だからこそ。〝彼女(かのじょ)〟は。


 (やさ)しすぎる彼女(かのじょ)こそは。

 (だれ)よりも進んで口を(はさ)むことができるんだ。



(わたし)が行きます」 と ――


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