第218話 いざダンジョンへ!
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村を出発してから、既に半日が過ぎていた。
シルシルの背に揺られた俺たちは、三度目となるガーンビア地下迷宮へ向けて歩を進めていた。
自分たちも一緒に行くと騒ぐ村人たちをどうにか諌め、マーロンさんと俺(+ポンチョ)の少数精鋭で、どうにか『双龍の牙』に接触を図るため頭を悩ませたが、やはりいい考えは浮かばず、二人して難しい顔になってしまう。
ギルドの登録上、俺の冒険者ランクはBで、マーロンさんがAランク。
残念ながら俺のランクではテーブルの求めるレベルに足りず、最下層領域に足を踏み入れることはできない。かといってマーロンさんひとりに行かせるわけにはいかず、どうにかその場にいるであろうテーブルを口説き落とす以外に入る方法はなさそうだ。しかし、
「今回ばかりはテーブルといえど認めちゃくれないだろうなぁ。あれでも一国のギルドマスターだし、何よりそのために俺たちをわざわざ呼び出して牙の二人に情報を展開させたんだ。正面からじゃ到底無理だと思う」
かと言って騙し討ちでダンジョンに侵入するなどもってのほかだ。
仮に下層でうまいこと彼らと会えたとしても、その事実は必ず明るみに出てしまう。そうなれば即アウト。間違いなくペナルティを受け、最悪の場合、冒険者資格の剥奪すら考えられる。
「なら双龍の牙のメンバーが帰ってくるのを待つしかないってことだよね?」
「うん。そうなんだけどねぇ、どうしたものか……」
「ならばいっそ我が門番どもを蹴散らしますか」とシルシルが。
いやいや、そんなことしたら、さらに問題が大きくなるだけだからね!?
「ギルドを通さない『無敵の人』が相手って部分が、さらに大きな問題なんだよ。その人個人に限っては自己責任で終わる話だけど、追ってる俺たちからすれば条件が悪すぎるんだ。そんな不確かな人物を探すためにダンジョンに入りたいと説明したところで、拒否されるに決まってる。ヤバいよなぁ、下手したら本当に死んじゃうぞ……」
ハッキリ言って、今のダンジョンは相当ヤバい。
彼らがSランクパーティーであったため俺も四の五の言いはしなかったが、『双龍の牙』がAランクに毛が生えた程度の連中ならば、俺も全力で止めていた。
そこにきて、実力の知れない単騎のはぐれ冒険者?
普通に考えて、生きて帰ってこれる想像ができねぇって!
「どうしたものか、どうしたものか……」
頭を悩ませてみるが、やはり解決策は見当たらない。
そんなことを言っている間にも、未だ雨が降り続く砂漠地帯を滑るように進んだ俺たちは、いよいよガーンビア地下迷宮のあるオアシス地帯の一角に足を踏み入れていた。
数日前からさらに変化した周囲の様相に驚いてしまう。砂漠地帯には通常存在しない一級河川のような水の流れに加え、ボトム状に窪んだ穴がいくつも増えていた。中でもダンジョン入口へと続く穴の周辺は、蟻地獄のように周囲の砂をえぐり、さも隕石が落下したかのような巨大なクレーターのようになっていた。底のあたりでは、溜まった水を除去しているギルド関係者らしき者が出入りし、今なお忙しく走り回っている。
よく見てみれば、入口の空間確保のため、奔走しているテーブルの姿があった。
正面から入口を突破するとなると、彼に見つかってしまうことは確実だ。姿を隠す以外で、ダンジョン内部に入り込む方法は皆無といったところだ。
「マーロンさん、……どうしようね」
「どうもこうも、ちゃんと相談するしかないと思うよ」
「だけどさぁ……。だからこそ大人しく入れてくれるはずない気がするよ」
窪みの縁に身を隠しながら項垂れる。
正面突破も隠蔽も、結局アウトになるのが目に見えてる。だったら……
「今回ばかりは諦めますか?」
「…………」
どうやらマーロンさんも悩んでいるみたい。
頭上で寝ているモコモコさんはいつものように無関心ですが、少しは俺たちの悩みも聞いてほしいものです。
次の行動を決めあぐねている間にも、雨はまた強くなり始めていた。
分厚く重なった空の雲は、陽の光を遮ったまま、しとしとと雨粒だけを降らし続けていた。
「いつまで続くんだろうね、この雨も」
そう俺が呟いた時だった。
穴底の方が突然慌ただしくなり、誰かの声が聞こえてくる。俺たちは顔半分を縁から出し、聞こえてくる声に耳を傾けた。
「どうしたんだろう。なんだか慌ててるみたいだけど……?」
距離が遠くて聞こえないまでも、テーブルが身振り手振りで部下に何か伝えている。これまで配置についていた者が、急に慌てて走り始めた。何かが起こっている?
「ここでジッとしてても何も始まらないよね。ならどうするのがいいと思う?」
マーロンさんに聞いてみる。
すると彼女は俺の頭上からポンチョを抱き上げ、「行こう」と頷いた。
砂の縁を蹴り、穴底へ滑り降りる。逆方向へ駆け上がっていくギルド関係者の顔からは悲壮感のようなものが漂っており、否応なしに嫌な予感がつきまとう。なんだってんだよ!?
「急げ、救護班を向かわせろ、今すぐにだ!」
〝救護班〟という言葉に加え、〝すぐに〟ときた。
これはもう緊急事態しかあり得ない。
無意識的にマーロンさんの一歩前に出た俺は、司令役として指示を出しているテーブルに駆け寄り、「何があったんですか?」と声を掛けた。しかし彼は俺を一瞥だけして、視線でダンジョンの入口方向を示してみせた。
人だかりができている。
その中心では、血を流した人物が、声高に何かを叫んでいた。
『 頼む、助けてくれ! 』




