第216話 モコモコ村の村長さん
今になって思うことがある。
あの時、あの場所で。
本当に俺はあんなことをする必要があったのだろうか、と ――
「で、お前ら……」
「ハーイハーイ、なんでしょうかハクたま~♪ こうして僕ら、めでたくも村に住まわせてもらえることになり、本当に万々歳でーす!」
「いや、だからそうじゃなくてだな……」
ホクホクしたほっぺをモチモチと触りながら、とっても嬉しそうなモックさん。
ウチのモコモコさんともすぐに意気投合し、モコモコの毛並みを互いに褒め合ってはいるものの、今はほっこりしている場合じゃない。聞くべきことを聞かねばならぬのだからな!
「キミらね、そんだけ速く泳げたなら、ダンジョンで俺が助けなくても逃げられたんじゃないの?」
「そ、それは無理でしゅよー! あんなデッカいデッカいのに追いかけられたら、手も足も尻尾も震えて泳ぐどころじゃないっす!」
「……あれだけ泳げるのに?」
「ハイっす!」
ビシッと敬礼して堂々と答えるモコモコ。
なんだか質問しているのがバカバカしくなってきたぞ。
隣ではご機嫌斜めで不貞腐れているシルシルが会話に聞き耳を立てているが、モックさんは相変わらずのマイペースで気にする素振りすらない。
「まったく……。シルシルが勝手に変な約束しちゃうから、コイツらの面倒みることになっちゃったんだぞ。お前が責任持って面倒見てやるんだぞ」
苦い顔で丸くなったシルシル。
ゴールまであと10メートルあれば着順が替わっていたほどの僅差で辛勝したものの、雑魚と舐めていたモコモコたちに既のところまで迫られたのが相当悔しかったのだろう。戻ってからずっとこの調子で、珍しく凹んでいるらしい。誇り高きウルフ族らしくないメソメソぶりだ。
「ただ約束は約束だ。仕方ないから村に住むことは許そう。しかしこれだけは言っておくぞ。ここにはウルフ族だけでなく様々な種族の者たちがいる。喧嘩せずに仲良くやるんだぞ、わかったな?」
「ヒャッハー!」と気の抜けた敬礼が。
本当に大丈夫かコイツら……。
「何やら騒がしいですな」
などとガヤガヤ喧しい彼らに気付き、猫族の族長がコツコツと窓をノックした。どうやら村の者たちも集まってきたらしく、アリクイ族にウォンバット族やボアたち、トゲトゲさんまでもが中の様子を窺っていた。
「う、うわぁ、モコモコがいっぱいだ! ハクたま、なんだか凄いですね!?」
そりゃこっちの台詞だ!
でも確かにこれだけの住人が集まると壮観だ。
どこを見てみても、多種多様なモコモコばかり。
……しかしウチはいつからモコモコ村になったんだ?
「おやおや、なんだか凄いことになっていますね、村長さん?」
さらにヒツジ族のクラッカーまでもが様子を見にやってきた。
おれはこのまま毛玉に押し潰されて死ぬのだろうか。……それはそれでアリかもしれない。
「ふぁ? あれ、あれれ!? も、もしかして貴方様は、クリムゾン・グローリーの副代表、エドワード・クラッカー様ではございましぇんか!!?」
モックさんが尻もちついてひっくり返った。
そしてそのまま転がって壁で頭を打ったぞ。……コミカルだ。
「そう言う貴方はビーバー族の若頭殿か。以前王妃様の件でお世話になりましたね。お久しぶりです」
モチモチ握手をする二人。
どんな関係かは存じませんが、どうやら面識があるらしい。
しかし……、モックさんが若頭?
ヤ○ザ組織の上役ですか? この見た目で?
いやいや、モコモコすぎるだろ!
「ま、ましゃかこのようなところでクラッカー様にお会いできるとは思いもせず、お久しぶりでございましゅ!」
「ハハハ、我々も色々ございましてね。村長さんとは切っても切れぬ縁なのですよ」と袖を眺めるクラッカー。するとそこにはポンチョと手を繋いで遊んでいるガロウが。
「え、エドワード・ガロウしゃま~!!? ま、ましゃか、ガロウしゃま御本人が、どうしてこのようなところに~!!!?」
再びひっくり返ったモックさん。
いちいち可愛くて腹立つな……。
「はいはい、もう充分ですので話はそこまで。ではせっかくですので皆さんに紹介しちゃいましょうか。こちら、本日から村に住むことになってしまったビーバー族の皆さんと、代表のモックさんです。色々大変なこともあると思いますが、みんな仲良くしてやってね」
パチパチと温かい拍手が。
この村の人たちって、本当に心が広いですよね。
しかし……
「ちょーっと待ったー!!」
だれかがドカンと扉を開けて入ってきた。現れたのはミナミコアリクイ族のマルさんで、モックさんの前に立ちはだかるなり、全身を大きく広げながら、「む~」と威嚇し始めた。
「待ってほしいんだな! 村長さん、コイツらのことは信じちゃいけないんだな!」
珍しく温厚なマルさんが怒りを露わにしているぞ。
……可愛いけども。
「ど、どうしたのマルさん。何かあったの?」
「どうしたじゃないんだな! コイツら、おいらたちが困ってるのを見て笑って見捨てた薄情な奴らなんだな。絶対に許さないんだからな!」
アリクイ族の登場に顔色が悪くなったモックさん。
わなわな身体を震わせるマルさんは、その短い腕をビシッと伸ばし、突き付けるように言った。
「おいらたちがご飯を分けてって相談したあの日のこと、もう忘れたとは言わせないぞ! ガオー!」
「しょ、しょれは……。で、でも僕らだって、あの時はキミたちに分けてあげられるほどの余裕もなかったし……」
「だからって、あんなバカにする必要なかったよね!? おいらたちをバカにする、あの王妃様の顔を思い出すだけで、おいらたちがどれだけイライラしたか。全然わかってないくせにー!」
今にも取っ組み合いを始めそうな二人を止めた俺は、彼らが怒っている理由を聞いてみた。どうやら村へやってくる前に食糧難で他国を彷徨っていた際、救援をお願いしたビーバー族の王妃にバカにされ、一蹴されたことを根に持っているらしい。しかし我が村もマルさんには勝手に蟻を食べられた立場のため、王妃が彼らを嘲笑した理由がわからなくもない。ですが……
「まぁそれくらいにしとこうか。あの時はどこの国も大変だったみたいだし、許してあげなよ」
「うむむぅ、村長さんがそこまで言うなら、この場は矛を収めてやるんだな。でも調子にのるんじゃないぞ、いつでもやってやるんだからな、ガオー!」
シュッシュとシャドーボクシングを表現するマルさん。
ただ一点、忘れてるかもしれませんが、アリクイ族のみんなはとってもお弱いので、喧嘩したらきっと負けちゃうと思いますよ。
しかしことのほかシュンとしている様子のモックさん。
どうやら彼らにも色々と思うところがあったのだろう。
ま、それもきっと時間が解決してくれるに違いないよね(と思い込むことにしよう)!




