第214話 無理筋すぎる条件
サワーから得た、あの情報。
アナグマ族の可能性があるという「はぐれ冒険者」が、ダンジョンに入るための高ランクパーティーを探していた、という件について。俺たちが目指す先は、この一点のみだ。
「では早速、砂漠地帯の町を巡って情報収集をしてみましょう。トアの頭の上で眠そうにしているポンチョくん。準備はよろしいでしょうか?」
寝ぼけ眼で「おー」と返事するポンチョ。
しかしその直後、ポンチョの約100倍の声量で「おー!!」と応える者が突如として現れた。
急な号令に城門前が騒然とし始める。
何事だと確認に現れた城の関係者が警戒を始める中、俺たちの前に現れた『モコモコ野郎』たちは、美しい扇形で整列するなり、跪きながら高らかと宣言した。
『我らビーバー族、主であるハク様の命に従い、全身全霊をもって協力させていただきます!!』
ざわつく人々。
唖然としている俺とマーロンさん。
と、くれば次に何が起こるか。騒ぎを聞きつけた衛兵が城内からわんさか現れ、平身低頭なモコモコさんたちをしょっぴき始めました。俺は彼らのやり取りを無言で見つめながら、マーロンさんに「そろそろ行きましょうか」と提案する。
「ちょ、ちょっとお待ちくだされ、ハクたま~! 僕ら急ぎ本国へと戻り、慌てて用を済ませ、またこうしてハクたまのお役に立つべくやってきたので~す! グヘッ!?」
衛兵に押さえつけられたビーバー、もとい『モコモコたち』が何かを叫んでいる。その姿に見覚えはあるものの、今は他人のふりをしておこう……。
「ね、ねぇトア、あのままだとモックさんたち、みんな捕まっちゃうよ?」
「……う、う~ん。やっぱり助けなきゃダメ?」
「ダメじゃないけど……、寝覚めは悪くなっちゃうかも?」
ハァとため息を一つ。
彼女に促され、仕方なく助けに入った俺は、大捕物になっているビーバー族を助け出したのだった――
「今後はこのような面倒事を起こしてくれますな。たとえ村長殿といえども、今後はそれなりの対応をさせていただきます」
思いっきり釘を刺されたのちに解放された俺たちは、人目を避けるように一度町を出てから話をすることにした。マイルネの町全体を囲っている壁の外へ出るなり俺たちを取り囲んだビーバー族は、なぜか号泣しながら輪になってフォークダンスを踊り始めた。ナニコレ、どういう状況……?
「ちょっとモックさん。悪目立ちするんでやめてください!」
「我ら部族に伝わる感謝の舞なのです! さぁ、ハクたまもご一緒に!」
俺たちを取り囲んで、マイムマイムを踊る園児のように開いて閉じてを繰り返す。ですがさすがに付き合いきれないので、強制的に輪を断ち切って帰ることにしましょう。オープンザマイムマイムー!
「は、ハクたま、しょんな~(泣)」
「感謝いただくのは勝手ですが、これ以上は迷惑ですからやめてください。では我々は帰りますので!」
シュビっと敬礼して挨拶する。
しかしモコモコ集団はそのたび俺たちの前へと回り込み、そそくさと跪いて邪魔をする。もういい加減にしてくれ……。
「モックさん、こう見えて俺たちも色々と忙しいんですよ」
「僕たち! あ、いいえ、我ら! ダンジョンでの御恩を果たすため、こうして舞い戻った所存なのです! 是非ともこの命、ハクたまのためにお使いしたく参上仕りました!」
いやね……、ですからそれが迷惑なんですよ。
しかも前に助けた時よりも数が増えてませんか?
ひぃふぅみぃ……、30人くらいいますけど。
「でしたら不要ですので、このままお引き取りください。特に恩を返していただく必要もございません」
「そ、そう仰らず! 我らハクたまに見捨てられたら、路頭に迷うことになってしまいます!!」
いや、意味わからんし……。
ついさっき国に返ってきたと言ってたじゃないか。
コイツら酒でも引っ掛けてるのか?
これは面倒だ。どうしたものだろうか。
「ね、ねぇ、ハク?」
「ダメですよマーロンさん。こういう困った人たちは、一度甘やかしたら調子にのるんです。ちゃ~んとキツく言ってやらないとダメなんです!」
そうだ!
面倒くさい人にこそ、ちゃんと態度で示してあげないとダメなのです。
俺はピーと指笛を鳴らして、町の外で待機していたシルシルを呼び出した。
「待ちわびておりましたぞ、村長殿」
身体を震わせて疾風のように現れたシルシルが、モックさんたちを蹴散らすように割って入った。そのあまりの迫力に縮みあがった彼らは、尻もちついたまま「ひぃぃ」と震えている。モコモコたちがモゾモゾ。……確かに愛らしくはあるけども。
「村長殿……? この者たちは」
「前にダンジョンで助けたビーバー族なんだけど、どうしても恩返しさせてくれって聞かないくて困ってるんだよ」
ふむとしばし考えたシルシルは、俺とマーロンさんをよそに「でしたら」と頷き、怯えるモックさんたちを一喝し言った。
「我が主であられる村長殿に対し、忠誠を尽くすと願い出た件。しかと受け取った。ならば貴様らの覚悟、この我が見届けてやろうぞ!」
モックさんらビーバー族に並べと命じたシルシルは、ゴキュンと息を飲む彼らの喉を見つめながら、牙を露わにし「一つ条件をくれてやる」と呟いた。
「じょ、条件とは、な、なんでしゅか!?」
「フン、我が求める条件は簡単だ。この町から我らが村までの距離を、我らから遅れを取らず辿り着くことができれば、貴様らを我らが村の民として認めてやろう」
は……?
ええと。ちょいとシルシルさんや、何を勝手なことを仰っておいでで?
呆然としている俺とマーロンさんをよそに、勝手に話を進めたシルシルは、此奴らの覚悟を見定めると条件を出し、ビーバー族に実施の有無を迫った。
「どうだ、挑戦せぬのか。ならば我らと貴様らはこの場までのこと」
煽っていらっしゃる。
確かに迷惑だと言った手前、半ば強引に諦めさせようとしているシルシルの提案はわかる。だけどこの人たち、そんな無茶な提案すら、ほっといたら考えなしに飲んじゃう気がするんですけど……。
「ほ、本当に村までついてけば、僕らを村人にしていただけるんですね!」
「無論だ。男に二言はない」
ほ~らね……。
だけど彼らがシルシルを追って村まで辿り着くなんて最初から無理に決まってる。俺の足ですら森のプロである彼らについていくのは難しいんだ。言い方は悪いが、こんな遅そうなモコモコさんたちでは、百回挑戦したとしても不可能に決まっている。
「あ、あのね、シルシルさんや。それはさすがに無理筋すぎる条件なのでは……?」
「村長殿には黙っておいていただこう。これは我ら村の民と、小奴ら新参者とのこと。我らいち村人にすら認められぬ者なぞ、わざわざ村長殿のお手を煩わせるようなものではないということ」
シルシルの提案に「やります!」と手を挙げたモックさん。
ニヤリと笑ったシルシルは、俺とマーロンさんを背中に乗せ、彼らに必要な情報を提示するのだった。




