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元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
第5章 みんな大好きキノコ作り!

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第207話 悪いのは、わたし


 やはりどうしたって様子がおかしすぎる。

 不自然なほど力のこもった指先と、目を合わせようともしない彼女(かのじょ)の横顔が、また(おれ)困惑(こんわく)拍車(はくしゃ)をかける。


 悲嘆(ひたん)()れたような、そんな表情。

 どうしてそんな悲しそうな顔をしてるんだよ。


 気付かぬうちに、(おれ)はキミに何かしてしまったのかい?

 ずんずんと進んでいってしまう(おれ)たちを、ネイサンが(あせ)って追いかけてきた。しかし彼女(かのじょ)の歩様は次第(しだい)に早くなり、いつしか()けるほどになっていく。たまらず「マーロンさん?」と声を()けるが、彼女(かのじょ)()()きもせず走り続けた。


「待ってください、ハク様。どうか見捨(みす)てないでぇッ!」


 それでも男の声にピクリと反応した彼女(かのじょ)

 足は止めたものの、やはり様子がおかしい。さすがに誤魔化(ごまか)せず、理由を聞こうとした次の瞬間(しゅんかん)、険しい表情で()(かえ)った彼女(かのじょ)は、息切れして(ひざ)に手をついているネイサンに冷淡(れいたん)な口調で言い放った。


貴方(あなた)は、……キュリオスの商人だと、そう言いましたね」


 息も絶え絶えに顔を上げたネイサンが「え?」と(つぶや)いた。


「そ、そうですが。それがどうかしましたか……?」


「……だとすると、貴方(あなた)は今、『獣人(じゅうじん)(わたし)』とこうして会話しているだけでも苦痛(くつう)、ということになりますよね?」


 (みょう)な言い回しで質問した彼女(かのじょ)に対し、ハハハとカラ笑いを()かべながら困惑(こんわく)しているネイサン。しかし(おれ)は行間が読めず、「マーロンさん……?」と聞き直すほかない。


貴方(あなた)たちキュリオスの(たみ)からすれば、さぞかし可笑(おか)しいのでしょうね。(わたし)のような()()()()が、()物顔(ものがお)で町中を歩いていることが」


「え……? そ、そのようなことは滅相(めっそう)も……!」


 彼女(かのじょ)の一言に、(おれ)(まゆ)にもシワが寄ってしまう。

 たとえ世間知らずの(おれ)だとしても、いま彼女(かのじょ)が口にした言葉の意味はあまりにも大きい。どうやらこの状況(じょうきょう)は、(おれ)が考えていたものとは180度(ちが)っているのかもしれない。


「マーロンさん、その話、ここではよそうか。ネイサンも悪いけど、今日(きょう)はここまでにしてもらえるか」


「い、いえ、で、ですが……」


「悪いな。明日(あした)(おれ)ひとりで話を聞くよ。場所はそうだな……、冒険者(ぼうけんしゃ)ギルドでいいか」


 (おれ)はそれ以上のやり取りを()けて、一度ここで別れようとネイサンに願い出た。どうやら(かれ)もいかんともしがたい空気を読み取ったのか、大人(おとな)しく手を引き、今夜はマイルネの宿に()まりますと告げ、トボトボと町の喧騒(けんそう)に消えていった。


 こちらに()を向けたまま何も言わないマーロンさん。

 ふぅと大きく息を()いた(おれ)は、まるで考えが(およ)んでいなかった自分を()じるしかない。


 思い起こせば、これと似た状況(じょうきょう)は過去にもあった。

 ……いや、よくよく考えればごくごく自然なことだったのかもしれない。




「ああ、うん、そうだね。……ごめん」


「…………どうして、トアが(あやま)るの? 悪いのは(わたし)なのに」


 返す言葉に()まってしまう。

 考えが(いた)らなかった自分に心底(はら)が立っているからだ。


「ずっとコイツ(ポンチョ)一緒(いっしょ)に行動してきた(おれ)だからこそ、先に気付かなきゃいけなかった。……本当にごめん。(おれ)のせいで、キミを(きず)つけた」


 彼女(かのじょ)の様子がおかしかった理由。

 馬鹿(ばか)(おれ)にもようやくわかった。


 名目上、公平・公正が保たれているこの国(コーレルブリッツ)()らしてきたせいで、(かれ)獣人(じゅうじん)()()環境(かんきょう)のことなど、いつしか頭から消え去っていた。

 種族に限らず身分が保証されているこの国でも、()()()()に対する風当たりが弱いわけじゃない。表面上は(かれ)らを問題視(もんだいし)する者はおらずとも、内心 (かれ)らのことを下に見ている者がいるという事実が、(おれ)の頭から完全に()()ちていた。


 これまでも他国の者と接する機会はあった。

 しかしそのほとんどが獣人(じゅうじん)(かれ)らと接してきた者たちばかりで、気にする必要すらなかった。


 しかし、アイツ(ネイサン)(ちが)う。

 (おれ)の知らない第三国のヒューマンという時点で、すぐ気にするべきだった。

 (おれ)彼女(かのじょ)たちの中にある、根本的な考え方の(ちが)いについて……。


「ううん、(わたし)の方こそごめんね。ははは、もうずっと慣れたつもりでいたんだけどさ、どうしてもね。それに――」


 同じように声を()まらせた彼女(かのじょ)は、どうにもならない(いか)りなのか、それとも悲しみなのか。言葉にならない感情を(しぼ)()すように言った。


「ネイサンに悪気がないのはわかってる。でも……、やっぱりキュリオスの(やつ)らと行動するのは、(ねこ)族の(たみ)として、いいえ獣人(じゅうじん)のひとりとして、許容することはできない」


 (おれ)はこの国の歴史も、ましてや隣国(りんこく)のことなど何も知らない。

 それでも彼女(かのじょ)たち獣人(じゅうじん)()()く歴史の一端(いったん)ぐらいはわかっているつもりだ。


 この国へ初めてやってきた夜もそうだった。コイツ(ポンチョ)を見つけて嬉々(きき)として(から)んできた(やつ)らがいたように、彼女(かのじょ)たちは世界から長らく(さげす)みの対象とされ生きてきた。国によっちゃあ、今なお現在進行(けい)迫害(はくがい)は続いている。(おそ)らくはキュリオス王国も……。


「トアは知ってるかな。前にハロンヌさんが言ってた、獣人(じゅうじん)族とエルフの間で大きな戦争があったって」


「ああ、キノコの件で(うらな)ってもらったときに、なんとなく」


(わたし)たちの前の前の前……の(ころ)の話。(わたし)たちの祖先は、もともとキュリオス領の外れに、獣人(じゅうじん)たちの村を作って()らしていたの。だけど王国の(たみ)は、(わたし)たち獣人(じゅうじん)存在(そんざい)を決して(みと)めず、ついには武力で(わたし)たち獣人(じゅうじん)族の(たみ)を追いやった。国を追われた獣人(じゅうじん)たちは、新たな土地を求めて旅に出たの。……だけど(わたし)たち獣人(じゅうじん)族に、安住の地なんてものは存在(そんざい)しなかった。流れ着いた土地土地でも、(わたし)たちを受け入れてくれる人なんかいなかった」


 なんとなく、想像はしていた。

 どうして彼女(かのじょ)たち(ねこ)族が、危険(きけん)なモリスの森の奥地(おくち)に住んでいたのか。

 初めて彼女(かのじょ)と会った時、どうして人の言葉を話さなかったのか。

 今もなお、どうして町や人々と距離(きょり)を取り続けるのか。

 どうして仰々(ぎょうぎょう)しくもある爵位(しゃくい)という『権威(けんい)象徴(しょうちょう)』を、(あま)んじて受け入れたのか。


 (すべ)ては彼女(かのじょ)の、いや、獣人(じゅうじん)族のため。

 自分のためだけじゃない。(すべ)ての獣人(じゅうじん)たちのために、彼女(かのじょ)は動いていたんだと。


「トアの言いたいことはわかるよ。ネイサンのことだけじゃない。確かにギルドのみんなやムトたちは良い人だよ。……だけどね、ふと不安になるの。この人たちもみんな、もしかすると、いつか(わたし)たちに(きば)()くんじゃないかって。ううん、そうじゃないことはわかってる。だけど、……駄目(だめ)なの」


 ふと頭上から()りたポンチョがマーロンさんに()きつき、「マーロン、悲しい?」と聞く。「大丈夫(だいじょうぶ)だよ」と()()げた彼女(かのじょ)は、顔を(そむ)けて服の(そで)()くなり、笑顔(えがお)()かべてみせた。


「ポンチョはトアのこと好き?」


「ふにゃ~? ポンチョ、トーア好きー!」


「フフッ、そうだね、ポンチョはトアのこと大好きだもんね」


「ポンチョ、トーア好きー! マーロンも好きー!」


「ホント? (うれ)しいな!」


 モコモコの横顔にキスした彼女(かのじょ)が、(おど)けてポンチョを()きしめた。「キャー!」と楽しそうに身を(よじ)ったポンチョは、彼女(かのじょ)胸元(むなもと)から()()りると、「追いかけっこするー!」と()けていく。


「よぉし、(つか)まえちゃうぞ~♪」


 努めて明るくポンチョを追いかけていった彼女(かのじょ)(うし)姿(すがた)を見つめる。

 いつも当たり前にあると思っていた彼女(かのじょ)笑顔(えがお)(うら)には、(おれ)なんかでは想像もつかない苦悩(くのう)葛藤(かっとう)(かく)れているのだろう。


 (おれ)はどうするべきなのだろうか。

 ただその答えを出すのはきっと簡単(かんたん)じゃない。

 だけど――


「……ま~た(むずか)しく考えてらぁ。(おれ)の悪い(くせ)だな。バカなんだから(むずか)しく考えんなよ」


 そうだ。(おれ)(おれ)が守りたい人のために全力を()くす。

 たとえ世界中(すべ)ての人が敵だとしても、(おれ)(たよ)ってくれた(すべ)ての人のために生きていく。そう決めていたはずだ。


「キャー、トーア、ポンチョが(つか)まえたー!」


 モコモコの短い両手が(おれ)の足にしがみついた。

 (おれ)はそいつを高く(かか)え上げながら、「なにを~、このモコモコさんめ!」とくすぐってやる。ニャハハという(にぎ)やかな声が沿道(えんどう)()けていく。


「どうにかなるさ。一切合切(いっさいがっさい)(おれ)に任せとけ!」


 この一瞬(いっしゅん)(むね)(きざ)みつけろ。

 (おれ)は自分自身に命じながら、(すべ)てを(あら)(なが)すように笑い、

 そして(ちか)うのだった――


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