表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元チート級暗殺者のもこもこ村開拓記 ~すでに2度死んでる最強の殺し屋ですが、新たな人生はもふもふケモナーさんに囲まれた優雅で静かなスローライフを送りたい!  作者: THE TAKE
序章 解放と再スタート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/249

第002話 毛だらけのアイツ


 (かす)れた視線(しせん)を何かが(さえぎ)った。


 焦点(しょうてん)が合わない(おれ)のことを(のぞ)()んだ何かは、「だいじょ~ぶ? だいじょ~ぶ?」としつこく質問した。あまりのしつこさに、(おれ)は死を目前にしながら思わず心の中でツッコんだよ。「テメェにはこれが大丈夫(だいじょうぶ)に見えんのか!?」って……。


「ト~ア、(いた)そう? でもだいじょ~ぶ、ポンチョ、これ持ってるー!」


 ぽん、……ちょ?

 聞き覚えのある間抜(まぬ)け声が、(おれ)の頭上でゴソゴソと動いた。どうやらソイツがいつも背負(せお)っている荷物をひっくり返し、「あれ、あれ、ない、ない」と(あわ)てているらしい。


 なんなんだよ、それ。

 場違(ばちが)いにもほどがあるぜ?


「あれ~、あれ~、あれ~? おかしいな、おかしいな、あー、あったー! あったよー、あった、ト~ア、あったよ~! ト~ア、(うれ)しい? (うれ)しい?」


 もう何がなんだかわかんねぇよ!

 こんな声、幻聴(げんちょう)に決まってる。


 どうして最期(さいご)最期(さいご)で、なんだってアイツの声が()こえちまうんだ。



 ……

 …………


 最悪の人生でも、一つや二つ、良いことはあったさ。



 ……(おれ)ぁな、モフモフが好きなんだよ。



 九州の田舎(いなか)に住んでた(ころ)からだ。もうずっと昔から、(おれ)はもふもふに()()がれてた。(つら)いとき、死にたくなったときは、そんな幸せだった光景を目に()かべて現実逃避(とうひ)したもんだ。


 そんなときだったか。

 どっかの胸糞(むなくそ)(わり)貴族(きぞく)(つか)まってた間抜(まぬ)けな獣人(じゅうじん)を、気まぐれに助けてやったことがあったっけな。


 そいつの毛がさぁ。

 ふわふわで、そりゃあもう、気持ちいいんだ。


 さわるとモッフモフでよ。

 (おれ)血塗(ちぬ)られた指先で()れても、いつだって(やわ)らかに()(かえ)してくれんだ。


 そいつ、いっつも笑顔(えがお)でさ。

 ト~ア、ト~アって、気まぐれに(おれ)の名前を()ぶんだよ。



 (おれ)にはこの世界のクソ共に付けられた別の名があったけど、なんでかそいつだけは(おれ)のことを昔の名前で()んでくれた。(おれ)がまだ血塗(ちぬ)られる前の、神之(かみの) 十碧(とあ)という文字が、頭に()かび、静かに消えていく。


「これ、ポンチョの宝物(たからもの)! ト~アがくれた、ポンチョの宝物(たからもの)! でもポンチョ、ト~アの方がもっと好き! やあっ!」


 ジャバという音とともに、(おれ)(ほほ)を冷たい何かが()らす。最後の最後に何をしてんだと他人事(ひとごと)のようにツッコんだ(おれ)視界(しかい)が白み、さらに光を増し、何も見えなくなっていく――



 いよいよ終わりか。

 覚悟(かくご)を決め、強張(こわば)らせていた全身から力が()けていく。


 もしまた来世があるのなら、今度の今度は静かに、アイツみたいなモフモフに囲まれた人生を送りたいもんだ。



 ……………………


 ………………


 …………


 ……


 …



 …


 ……


 …………


 ………………ん?




「って、(おれ)はいつ死ぬんだよ!!」




 意識がはっきりしてきた。

 白んでいたはずの景色(けしき)も、なんだか周囲のドロドロした黒ずんだ見たくもないものがクッキリ見えてきた、気がする。


「ト~ア! まだ(いた)い? ポンチョ、お(なか)へったー!」


 バフッ!

 何か(やわ)らかいものが(おれ)の顔面の上でバタバタ()(まわ)っていやがる。

 ……しかしこれはこれで、なかなか。


 (おれ)(きず)つきまくった(はだ)()で回す(やわ)らかく(なめ)らかな触感(しょっかん)(あたた)かな()の光に熱された冬場の布団(ふとん)のような、い~い(にお)い。乳臭(ちちくさ)さというか、ネコの肉球のすれたような(にお)いというか、なんとも形容し(がた)い気分にさせられる。


 しかしそんなわけはない!


 (おれ)剣聖(けんせい)一撃(いちげき)をくらい、瀕死(ひんし)重傷(じゅうしょう)を負った。

 (はら)()かれ、(ほね)(くだ)け、目は(つぶ)れ、足は(けず)られ、魔力(まりょく)もつき、身動き一つとれない状態だ。それが、どうして……?


「ト~ア、ポンチョジャーンプ!」


 ボフッと何かが顔に(おお)(かぶ)さり、(おれ)は思わず動かないはずの右手でそれをつまんだ。何事もなかったように動いてしまった(おれ)の右手が、子供(こども)のように無邪気(むじゃき)に笑っている、おかしな生き物をつかんでいた。


「ぽん、……ちょ……?」


挿絵(By みてみん)


「うん、ポンチョ! ポンチョだよ! ニャハハハ!」


 (おれ)はそいつを(つま)()げながら、左手で自分の(ほお)()れた。

 あれだけあった(いた)みがなくなり、目玉が無かったはずの右目まで見えている。

 なのに周囲の風景は、無邪気(むじゃき)にはしゃぐコイツとは対照的に、無惨(むざん)(くず)れ、熱に焼かれ、生物すら存在(そんざい)できないほどに破壊(はかい)しつくされていた。


「どうして、(おれ)は生きて……?」


 地についた指の先に、カツンと(かた)い何かが()れた。

 ポンチョの(となり)(なら)べ、目線で(たず)ねてみる。


「あ、ポンチョの宝物(たからもの)! う~んと前、ト~アくれた!」


 (おれ)(にぎ)っていたのは、随分(ずいぶん)昔にくれてやったハイポーションの()(びん)だった。しかもそれは(おれ)が調合した特別製で、欠損してしまった体の一部すら回復させてしまうほど(すぐ)れた(おれ)の『最高傑作(けっさく)』だった。


「そうか……、お前が……」


 ()めてほしそうに小刻(こきざ)みに呼吸(こきゅう)しているソイツの頭をなでながら、しかしそれでも何一つ変わらない(おれ)の現実に悲嘆(ひたん)し、顔を()せた。ここで死ねていれば、(おれ)はもう、これ以上苦痛(くつう)を感じずに()んだ。それで(すべ)てを清算できていたんだという後悔(こうかい)の念のようなものが()()せ、(いか)りにも近い感情が全身を(おそ)った。


「ト~ア? だいじょぶ?」


 (やわ)らかな指先が(おれ)の顔に()れる。

 しかし(おれ)はこの先に待っている自分の運命を想像し、何も答えられなかった。するとソイツは、(おれ)(ほほ)をポンポン(たた)きながら、(なみだ)を流す(おれ)の顔を何度もなでてくれた。


「ト~ア、まだ(いた)い?」


「ズルっ、あ゛あ゛、(いだ)いな。とってもいだいよ」


「ソレイヤ! ポンチョ、トーア悲しいキライ! ポンチョ、トーア楽しいすき!」


 (おれ)(かた)に乗り、後ろから(おれ)(ほお)を引っ張る。


 なんだよ、やめろよ。

 そんなことされたら、もう笑うほかないじゃねぇかよ。


「やめろ、やめろって。ポーション一本で完全回復できるほど(おれ)の身体は上手(うま)くできてねぇんだから」


「あ~、トーア笑った! トーア、楽しい?」


「はいはい。……楽しい楽しい、いや、……楽しくは、……ねぇか」


 (おれ)(おれ)(のぞ)いた六聖者(せいじゃ)を全員殺しちまった。

 こうなれば、あとはもう総力戦。

 (やつ)らは(おれ)を殺すために、後先考えず全勢力を差し向けてくるだろう。


 個の力は小さくても、圧倒的(あっとうてき)な数の前では(おれ)の力など無力だ。

 何より首輪(コイツ)を付けられている以上、(やつ)らには(おれ)の情報など全部筒抜(つつぬ)け。

 ()げることも、(かく)れることすらできねぇ。


「どのみち終わりだ。これがある限り……って、……あれ?」


 わずらわしい首のモノを指先が(さが)す。

 が、……ない。


「ト~ア、これな~に?」


 (ほお)に冷たい何かをぐいっと()()けるムニムニハンド。

 ちょい待てと受け取ったのは、魔力(まりょく)を失った元神託之首輪(エデンズリング)だった残骸(もの)だった。


「おい、……おいおいおい。おいおいおいおいおい!!」


 (おれ)はポンチョをポーンと放り投げ、自分の首に何度も()れてみた。忌々(いまいま)しい(のろ)われた首輪が外れ、(おれ)(しば)っていた(すべ)てから解放されているじゃないか!?


「たかが(うわさ)だと思って信じてなかったが。契約(けいやく)(しば)()けてる本人が死んだとき、自動的に契約(けいやく)解除(かいじょ)されて外れるってあの(うわさ)。あれか、(おれ)が全魔力(まりょく)を失って、一度完全に肉体が死んだからか!? マジかよ、マジきたこれ!!」


「うにゃー! ト~ア(うれ)しそー!」


「おおよ、これを喜ばずにいられるかよ。マジか、マジかこれ、(うそ)だろおい!?」


 一緒(いっしょ)になってキャッキャ喜ぶポンチョを高い高いで祝いながら、(おれ)(ほお)を伝う(なみだ)(ぬぐ)うことなく泣いた。



 この世界にきてから、初めて心の底から声を上げて泣いた。

 そして初めて、心の底から安堵(あんど)した。



 これでもう、人を殺さなくていいんだって――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ