転生令嬢①私はただ、未練をたぐっていただけだった。
ある日突然、数十年ほどを過ごした慣れた体から、私は抜け落ちてしまった。
それに気づいた時はもう遅く、戻り方がわからない私はどんなにあがいても身体に入り込めなかった。そうこうしているうちに、身体の方は冷え切り、固まり、生きることをやめてしまった。その器に、中身がなかったから。
家族がその冷えた身体にすがりつくのを呆然と見ていた。
霊感なんて全くない鈍感な血筋なのか、私に気づいてくれるものは居らず。そりゃそうだ、私に至ってはこうなるまで幽霊の存在すら信じなかったくらいなのだから。
今は葬式が行われている最中、お坊さんが私のためにお経をあげてくれている。
このお坊さん、霊験というのだろうか、そういう感覚に優れた方らしく、私がいることをしっかりと認知しているようだ。お経を上げる前に説法をしてくれたのだが、完全に私の方を見ていた。
その説法というのも、私がどうやって成仏したらいいのかわからなくて困っているのを見抜いたかのようなものだった。このためにお経をあげるだとか、こういう意味があるからお線香を絶やしちゃいけないだとか、きちんと説明してくれた。
優しいお坊さんである。うちはこんなすごい人がいるお寺にお世話になってたのね。毎年のお香典代、面倒に思ってたのは罰当たりだったわ。ちゃんとお付き合いしててよかった。
さて、お坊さんが説明してくれたおかげでお線香の煙をたどって無事に昇れたのだけど、何やら糸のようなものが私の身体から伸びていたようで、それが煩わしい。
この糸のおかげで昇るのに随分苦労した。
どうすれば切れるのかしら、この糸。未練ってやつ?
確かに身体に未練はあるが、もう地上に戻っても火葬されてしまったあとだろう。過ぎてしまったことだし、あれだけ試しても戻れなかったのだ、もう無理なのだと諦めて新しい生を望んだ方がまだ生産的に思える。
だから三途川で奪衣婆に船賃を渡して待っていたのだが…。
「一体これはどういうことなの…」
あまりに船が来ないので手慰みにうざったくて仕方なかった糸で遊んでいたのが悪かったのか。糸を手繰っていたら急に引っ張られ、悲鳴だけ残して持っていかれてしまった。
なんだか表現がおかしいが、大体そんな感じで連れ去られてしまったのである。
そうして何者かに引っ張られた私は、糸の先に繋がっていたはずの身体ではなく、いま、何故か生前とは別の身体で生きている。
アナベラ・ドロシー・エンフィールド
それが今の私の名前だった。
続きます




