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姉さん、きいて

 



 うだるような八月の昼下がり、セミの鳴き声が脳内で反響して、耳の奥から身体中広がるような煩さだった。外界から隔離されたこの絢爛な部屋には、セミの声は聞こえてこない。

 ただ、人々のざわめきがセミの声のようで。

 大安吉日を選んで、随分以前から計画されていたらしいこの式は、私だけがなんの参加も出来ずに、ただ事実と接待だけを甘受する位置にいた。


 今日は、世界で一番大切な姉の結婚式である。


 親族同士で先に顔合わせを行い、互いに親族の紹介をし終わった後、私は母を捕まえた。以前から折合いの悪い父より、いくらか話しやすかったためだ。余計な話しは多いが、基本的に上手く転がせば私の知りたいことを喋ってくれる。


「ごめんなさいね、お姉ちゃんのこと黙ってて。でもほら、あなた言ったら絶対来なかったでしょう?結婚のことも反対してたのに。だから、お姉ちゃんに当日まで黙っておきなさいって、お父さんが口止めしてて。そうそう、あの人ったら結婚式の準備、すごく協力的だったのよ。息子が欲しいって言ってたからかしら。」


 父が結婚式に協力的だった。私に黙っていろと父が言った。

 その2つさえ聞ければ充分だ。理由なんて一つしかない。

 父は姉を追い出したかったのだ。


 口の中で苦い味がする。

 父を捕まえなければ、とも思うが、ここで口論しているところを見られれば外聞は悪くなる。姉の結婚には今も反対だが、姉の立場を悪くさせたい訳ではない。

 頭がグラグラしてきた。腸が煮えくり返るようで、気持ち悪い。臓物をぐちゃぐちゃと音を立てて混ぜ込んでいるようで、後頭部が鈍器で何度も殴りつけられるように痛む。


 祝福しなければ。姉はそれを望んでいる。

 だが、こんなに呪わしい気持ちで、教会の椅子に座るなどしていいものか。神聖な、結婚式で。


 立っているのがやっとだった。手近にあった椅子にへたり込む。

 吐きそうなほど気分が悪い。


「あの…大丈夫ですか?お加減悪そうですけれど…」


 耳元で声をかけられ、顔を上げる。金色のネームプレートをつけた女性がこちらをのぞき込んでいた。

 一層の事、このまま具合が悪いといって帰ってしまおうか。

 姉は気に病むだろうし、相手方にも失礼だが、相当酷い顔をしている自覚はある。こんな状態で席に着くより、よほどマシだろう。


「すみません、ありがとうございます。これで失礼しますので、大丈夫です。スタッフの方ですよね。」

「え、ええ。医務室もご用意出来ますけど、いかがいたしますか。」

「いえ、タクシーだけ呼んでいただければ助かります。名前は山野で。」

「かしこまりました。それでは手配してまいります。」


似たような話をもう既に自分で書いてたし、燃えたぎるような怒りを上手く表現出来なかったためにボツ。

ガチ百合な妹が「お姉ちゃんとられたぐぎぎ!」な話が書きたかった。あと父親に対する血縁ならではの愛憎とか。

救いようがないのでたぶんもう書かないかな。

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